[KATARIBE 30948] [HA21P] エピソード『うるはいの怒り』

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Date: Tue, 3 Apr 2007 18:11:32 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30948] [HA21P] エピソード『うるはいの怒り』
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2007年04月03日:18時11分32秒
Sub:[HA21P]エピソード『うるはいの怒り』:
From:久志


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エピソード『うるはいの怒り』
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登場人物
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 宇流盃(うるはい)
     :中年。蒼雅を使役するものの一人。
 我江埜志(がえのし)
     :老人。蒼雅を使役し、霞ヶ池を封じる者の長。
 不津乍(ふづさく)、洲原芽(すぱらめ)、是平士(ぜへいし)
     :下っ端使役者。里見の謎ジェネレータ命名。

使役者会議
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 奇妙な部屋だった。
 昔作りの古めかしい形式でありつつ、どこか無機質さを思わせる正体の掴め
ない素材で作り上げられたような『統制室』と呼ばれるこの世とは理の異なる
他界。
 中央に置かれた広い卓に座った者達の姿。
 使役者、と名乗る。かつて霞ヶ池文明と呼ばれた時代からこの世まで異界で
命を繋いでいる古き者達の生き残り。

 がえのし   :「皆のものを一同に集めたのはほかでもない」

 卓の上座に座り数名の使役者らの顔を見回す老人。

 がえのし   :「……此度、霞ヶ池の危機に対しての我が策を伝えたい」

 神妙な顔で見守る中、しわがれ声が淡々と響いた。

 大浄化の術。
 他界を含めた全世界の危機ともいえる霞ヶ池の侵蝕より現世を護る為の大規
模な浄化術。水より作り出された触媒を使い、歪みを引き寄せ、これを術によ
り一気に浄化する。

 がえのし   :「この術式が成功すれば、今起こっている吹利全土の歪み
        :を総て正し、浄化することができる」

 そこで言葉を切って、視線を一人の男に向ける。同時にその場にいた総ての
使役者たちの視線が同じくその男に注がれた。

 うるはい   :「…………」

 卓に置かれた拳を握り締めてかすかに唇を震わせている男。
 蒼雅の始祖たる季更と紗更を作り上げ、蒼雅一族を育て上げた者の一人。
 宇流盃、その人だった。

 うるはい   :「なん……という」

 眉間に深い皺を寄せ、唇をかみ締めて顎鬚を震わせながら。湧き上がってく
る怒りを必死で押しとどめているその姿。
 水を用いた幾多の人体実験の末、蒼雅の始祖を生み出し様々な改良を加えて
育て上げてきたうるはいにとって、許しがたいことなのは他の使役者ら誰もが
理解していた。

 うるはい   :「なにを!? なんという! 私が作り上げてきた傑作達
        :総てを!」
 ふづさく   :「う、うるはい様!」
 がえのし   :「お前の怒りはわかる。傑作達であるからこそ、この術式
        :を成功させる為に不可欠なのだ」
 うるはい   :「ならばっ!」

 拳で卓を叩いて勢いよく席を立つ。

 うるはい   :「蒼雅全てを使わずとも、浄化は可能でしょう!?」 
 すぱらめ   :「落ち着かれてください、うるはい様」
 うるはい   :「術に使う贄ならば、今後使い道のない紫や棗、既に引退
        :した彬や譲で十分でしょう!」

 唾を飛ばして怒鳴るうるはいの剣幕に圧倒されたように他の使役者達が首を
すくめた。

 がえのし   :「うるはいよ、わしもそれは考えた。しかしそれでは効果
        :が弱いのだ、確実に歪みを治め、侵蝕された地を浄化する
        :にはもっとも力の強い者を歪みの強い場に配置し、これを
        :贄にする必要がある」 
 うるはい   :「……巧に梓、至……私の傑作たちを、ですか」 

 ぎりぎりと歯を軋ませながら、苦渋の表情を浮かべる。
 蒼雅に対するうるはいの思い入れ、しかしそれは個々の人格への愛情という
よりは作り上げた作品に対する利己的な偏愛といったほうが近かった。

 ぜへいし   :「お願いいたします、うるはい様。我らのなすべきことは
        :ひとつのはずです」

 吹利の地を護る、その為に。
 いくつもの非人道的な実験を繰り返し、異形と化した者、廃人となった者、
幼い命を散らした者、多くの犠牲を強いてきた。

 がえのし   :「お前が蒼雅を惜しむのはわかる。だがこれも吹利の地を
        :護るという大義の為なのだ」

 ゆっくりと言い聞かせるように、怒りに打ち震えるうるはいの目を見ながら
語りかける。

 うるはい   :「…………」 
 がえのし   :「わかってくれ。今失ったとして、季更と紗更が居る限り
        :蒼雅はまた作り出せる」 
 うるはい   :「…………時間をください」 
 がえのし   :「……わかった」 

 踵を返して部屋を出て行くうるはい。

 ふづさく   :「大丈夫でしょうか……うるはい様」
 がえのし   :「だが、理解してもらわねばならぬ」
 すぱらめ   :「術式を展開する為の調整も押し迫っておりますし」
 がえのし   :「ああ、巧と梓が回復し次第、すぐにでも実行に移せるよ
        :う、準備を進めねばならぬ」
 ぜへいし   :「はっ」


うるはい、激怒
--------------

 甲高い音を立てて私室の戸を乱暴に閉めて。

 うるはい   :「……おのれ」 

 手近にあった椅子を力任せに蹴りつけた。弾みで椅子の上に乗せてあったカ
モノハシ型のクッションが足元に落ちる。

 うるはい   :「おのれおのれおのれおのれおのれ!」

 それだけでは収まらず、その傍らの机を平で何度もたたき付けた。
 山積みになっていた資料や調査結果をまとめた紙やカモノハシプリントの筆
記用具が飛び上がりばさばさと床に落ちる。散らばった資料の中じゃら写真つ
きの季更飼育日記や蒼雅一族の能力遺伝育成チャートが挟まっていた。

 うるはい   :「おのれっ」

 ばん、と壁を叩いて。

 うるはい   :「……私の作り上げた……改良し、高めた蒼雅を……全て
        :……贄にするだとっ!」

 怒りに打ち震えながら、歯軋りする。

 うるはい   :「許さん……」

 足元に転がったカモノハシクッション(モデルは季更)を拾い上げ、包むよ
うに抱きしめる。

 うるはい   :「渡さん、蒼雅は……私の作品達は……誰にも」

 目を閉じていとおしげに頬ずりし、薄く目を開く。

 うるはい   :「……蒼雅は……私のものだ」

 その病んだ表情からは既に吹利を護るという大義は失われていた。


時系列と舞台
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 2007年3月中旬。
解説
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 http://kataribe.com/IRC/HA21/2007/03/20070309.html#230000
 蒼雅一族総てをつかった『大浄化』の術。その真相を知って怒るうるはい。
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以上


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