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Date: Thu, 29 Mar 2007 23:41:18 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30937] [HA21P] すこしむかしばなし〜淡蒲萄と自動車
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200703291441.XAA16968@www.mahoroba.ne.jp>
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2007年03月29日:23時41分18秒
Sub:[HA21P] すこしむかしばなし〜淡蒲萄と自動車:
From:Toyolina
[HA21P] すこしむかしばなし〜淡蒲萄と自動車
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登場人物
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薬袋光郎 バー・はいむを営む男
淡蒲萄 光郎と数十年つきあっている吸血鬼
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淡蒲萄 :「光郎、知らない人が車乗ってる!」
少し慌てた風に、淡蒲萄が自動車と光郎の顔を交互に見ている。彼女が指さ
す先には、光郎の車と同じ色の車が停まっていて、その中では見知らぬおばさ
んが、ごそごそと助手席においた鞄を漁っていた。淡蒲萄がまた、自分の車と
勘違いしたんだな、と光郎はすぐに思い当たる。
光郎 :「……良く車の中見てごらん。うちの車にはああいうぬい
:ぐるみは置いてないよ」
確かに、ショッピングセンターの駐車場には、午後三時過ぎという時間帯の
せいもあってか、同じような車が仲良く停まっていた。光郎の車は、世間一般
では奥様がお買い物に用いている類の小型車だ。選択理由は、なにより経済性。
光郎の目には、淡蒲萄が勘違いした車と自分の車は、色こそ同じだが、明確
に違って見える。今指摘したような、ぬいぐるみの有無ではなく、外見で判別
出来るのだが──淡蒲萄は、色と大きさ程度で曖昧に判別しているようだった。
見知らぬおばさんの車は、娘と共用しているのかもしれない。ダッシュボー
ドには白いフェイクファーのマットを張ってあり、ハンドルも白いカバーがつ
けられている。そしてなにより、いくつも小さなぬいぐるみが並んでいて、と
ても運転しづらそうに見えた。なんの飾り気もない光郎の車とは天地ほどにも
違う。
淡蒲萄 :「あ、そういえば。そっか、違う人の車か……どれも一緒に
:見える」
光郎 :「たいした特徴の無い車だからね」
光郎は苦笑しながら、何度も振り返りながら戻ってくる淡蒲萄を迎える。
淡蒲萄 :「え、でもなんかちっちゃくてカワイイよあの車」
光郎 :「そう言ってもらえると嬉しいね」
淡蒲萄は本音を言っているのだとわかっているので、光郎は素直に笑って受
け取った。
先のおばさんの車と、光郎の車の間には、やはり数台、同じような大きさの
車が並んでいた。そのうちの一台では、外回りの営業マンがシートを倒して眠っ
ている。腕組みをしたまま、大口を開けて。もう何時間か経っているらしく、
その車体にはうっすらと桜の花びらが積もりかけていた。そんな営業マンの辛
そうな寝顔をちらりと見て、淡蒲萄が訊ねる。
淡蒲萄 :「車って、起きて乗るものじゃないの?」
光郎 :「まあ、中には、寝ることを目的に車に乗る人もいるそう
:だから。星新一さんなんだけどね、作家の」
淡蒲萄 :「え、乗り物乗るんだったら、外とか見たいし、おしゃべ
:りとかしたいよ」
寝る為に車に乗るという人は、なかなかいないだろう。光郎自身、言いなが
らそう思う。
光郎 :「普通は不眠症な人らしいからね。車の振動があるとゆっ
:たり眠れるそうなんだよ」
淡蒲萄 :「そうなんだ、星さんって大変なんだね、ぐっすり寝るのっ
:てホント、大事だと思う」
ぐっすり、という言葉で淡蒲萄の寝相の悪さを思い出して、くすくす笑う光
郎。彼女がおとなしく眠っていたことなんて、片手で足りるほどしかないのだ。
彼自身、何度も蹴り落とされたり、ベッドから落下した物音で起こされたり
している。それなのに、淡蒲萄自身はしっかり熟睡していて、半ば感心したも
のだ。
そういえば。助手席の淡蒲萄はいつも起きていた。遠出した帰りでも。
疲れてるだろうから、眠っててもいいんだよ。
そう言った光郎に、淡蒲萄は真顔で、せっかく車に乗ってるのに、眠るなん
て勿体ないと答えたのだった。淡蒲萄がそう言うのなら、反対する理由はない。
だから、その帰り道も、いつものように、いろいろ話したりして過ごした。
もっとも、家に帰るとすぐ、ソファで丸まって眠っていたのだが。
淡蒲萄 :「でもやっぱり、寝るならお布団がいいな」
光郎 :「まあ、それが健康の証だよ……さあどうぞ」
淡蒲萄 :「あ、ちょっと待ってて、すぐ戻る」
光郎 :「かまわないけど?」
ゆらゆらと並ぶ車の間を抜けて、角を曲がって姿が見えなくなる。
少しして戻ってきた淡蒲萄の手には、かろうじて満開の桜の枝があった。
光郎 :「……こら」
淡蒲萄 :「えへへ、でもこれカウンターにあったら、絶対綺麗だもん」
光郎 :「……持って来ちゃったのは仕方ないね」
助手席の扉を開けて、淡蒲萄が乗り込んだのを確認して、閉める。
大事そうに桜の枝を手にしている姿を見て、目を細める光郎。
何か桜を使ったカクテルでも、作ってあげようと思い、車を発進させた。
時系列と舞台
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すこしむかしの春の日
解説
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買い物にやってきた光郎さんと淡蒲萄さん。
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Toyolina
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