[KATARIBE 30935] [HA21P] エピソード『寂しい墓標』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 28 Mar 2007 12:40:44 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30935] [HA21P] エピソード『寂しい墓標』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200703280340.MAA47069@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 30935

Web:	http://kataribe.com/HA/21/P/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30900/30935.html

2007年03月28日:12時40分44秒
Sub:[HA21P]エピソード『寂しい墓標』:
From:久志


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
エピソード『寂しい墓標』
========================

登場人物
--------
 真朱(まそお)
     :吸血鬼・黄櫨染の末娘。蒼雅の秘密に目をつけ、西条を利用した。
 空鬨獅子騎(あきとき・ししき)
     :吸血鬼・真朱の子。戦闘狂(ベルセルク)
 蒼雅西条(そうが・さいじょう)
     :霊獣使いの蒼雅家の一人。梓への愛執ゆえに乱心し、殺された。

空虚
----

 風が頬を撫でる。
 西条の最期の言葉を告げ、梓と魎壱が去った後。
 真朱はその場に膝をついたまま、呆けたように地面を見つめていた。

 頭の中で繰り返される言葉。

 『……ま……そお……』

 縋るように誰もいない虚空に伸ばされた手。その手をとるものも無く一筋涙
を流して絶望しきった顔。

 真朱     :「…………バカな奴」

 何かに怯えるように真朱を抱きすくめて震えていた西条。壊れかけた精神を
奮い立たせるかのようにひたすら梓の名を呼んで、呼ぶことでバラバラになり
そうな自分自身を保っていたかのような。

 真朱     :「……なんで……」


 蒼雅の役目。
 一度、父に西条を診てもらった際の言葉をふと思い出していた。

 黄櫨染    :『彼、何者かに相当精神をいじられているようだね』

 ベッドに寝かせられ、眠りに落ちた西条を見下ろして。

 真朱     :『操られている、ということですか? もしくは魅了のよ
        :うな』
 黄櫨染    :『いや、もっと乱暴だね。少なくとも僕らの魅了や暗示は
        :本人の強固な意志や想いを捻じ曲げて命ずるというのは難
        :しい。できたとしてもそれは激しい抵抗にあうし、本人が
        :望まない命令を遂行するのは物凄く負担になる』
 真朱     :『はい』
 黄櫨染    :『彼の場合、彼自身の意思や考えなんかは全く考慮されず
        :型にはめるように強引に記憶や意思をいじって無理やり言
        :うことを聞かせている、そんな感じだ』
 真朱     :『…………』


 『恐ろしい……』

 震えていた体。

 『助けて……』

 助けを請いながら。

 『……梓』

 その記憶さえ、改竄され。


 真朱     :「……っ」

 握り締めた手の中でコンパスが軋んだ音を立てる。

 獅子騎    :「……」

 真朱の後ろでかける言葉も無く立っていた獅子騎が、そのまま踵を返した。
一人にすべきだと、どこかで察した様子で。


 膝を突いたまま、顔を上げることも無く。
 ふと真朱の目の前を白いものがよぎった。

 管狐     :「きゅぅ」
 真朱     :「お前は」

 管狐使いの細目の男を思い出す。

 真朱     :「まだ、あたしに用?」
 管狐     :「きゅ」

 鼻を鳴らして口にくわえていた紙切れを真朱に差し出した。

 真朱     :「なんだ?」

 細く折った紙を受け取って、広げる。
『一応、教えておくよ。おせっかいだけどね』
 という出だしで書かれた短い文と地図。

 記されていた場所は、西条の墓。

 真朱     :「……」

 握り締めた手の中で、乾いた音を立てた。


墓標
----

 ふらふらと、吸い寄せられるように。

 地図に記された場所。
 立ち並ぶ墓石から大分外れた位置に作られた、盛り土にひとつ石をのせただ
けの小さな墓標。寂しいものではあるが、西条のおこした所業からすると打ち
捨てられなかっただけマシなのかもしれない。

 真朱     :「……」

 現実感も無く、小さな墓標を眺める。
 裏切り故の死、それでも誰かが手向けたであろう小さな花が数本墓前に置か
れている。

 真朱     :「……西条」

 何か手向けでも持ってくるべきだったのかと、ふと思い。
 だが、あの男が何を好んでいたか、ということを真朱は全く知らなかった。

 真朱     :「あたし……なんにも知らないんだ、アンタのこと」

 もう知るすべは無い。
 互いに利用していただけだった、爛れた時間を過ごしていただけだった西条
はもういない。

 真朱     :「バカらしい……」

 最初から互いに期待する関係ではなかったはずだった。
 自己嫌悪に陥りながら、それでも湧き上がってくる言葉にできない何か。

 真朱     :「……バカだ、アンタも……あたしも」

 その場で膝をついて蹲る。
 耳を押さえて。
 目をつぶって。

 一人。

時系列と舞台
------------
 2007年3月上旬。
解説
----
 西条の最期の言葉を知り、墓前へと足を運ぶ真朱。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30900/30935.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage