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Date: Wed, 28 Mar 2007 12:40:44 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30935] [HA21P] エピソード『寂しい墓標』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年03月28日:12時40分44秒
Sub:[HA21P]エピソード『寂しい墓標』:
From:久志
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エピソード『寂しい墓標』
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登場人物
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真朱(まそお)
:吸血鬼・黄櫨染の末娘。蒼雅の秘密に目をつけ、西条を利用した。
空鬨獅子騎(あきとき・ししき)
:吸血鬼・真朱の子。戦闘狂(ベルセルク)
蒼雅西条(そうが・さいじょう)
:霊獣使いの蒼雅家の一人。梓への愛執ゆえに乱心し、殺された。
空虚
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風が頬を撫でる。
西条の最期の言葉を告げ、梓と魎壱が去った後。
真朱はその場に膝をついたまま、呆けたように地面を見つめていた。
頭の中で繰り返される言葉。
『……ま……そお……』
縋るように誰もいない虚空に伸ばされた手。その手をとるものも無く一筋涙
を流して絶望しきった顔。
真朱 :「…………バカな奴」
何かに怯えるように真朱を抱きすくめて震えていた西条。壊れかけた精神を
奮い立たせるかのようにひたすら梓の名を呼んで、呼ぶことでバラバラになり
そうな自分自身を保っていたかのような。
真朱 :「……なんで……」
蒼雅の役目。
一度、父に西条を診てもらった際の言葉をふと思い出していた。
黄櫨染 :『彼、何者かに相当精神をいじられているようだね』
ベッドに寝かせられ、眠りに落ちた西条を見下ろして。
真朱 :『操られている、ということですか? もしくは魅了のよ
:うな』
黄櫨染 :『いや、もっと乱暴だね。少なくとも僕らの魅了や暗示は
:本人の強固な意志や想いを捻じ曲げて命ずるというのは難
:しい。できたとしてもそれは激しい抵抗にあうし、本人が
:望まない命令を遂行するのは物凄く負担になる』
真朱 :『はい』
黄櫨染 :『彼の場合、彼自身の意思や考えなんかは全く考慮されず
:型にはめるように強引に記憶や意思をいじって無理やり言
:うことを聞かせている、そんな感じだ』
真朱 :『…………』
『恐ろしい……』
震えていた体。
『助けて……』
助けを請いながら。
『……梓』
その記憶さえ、改竄され。
真朱 :「……っ」
握り締めた手の中でコンパスが軋んだ音を立てる。
獅子騎 :「……」
真朱の後ろでかける言葉も無く立っていた獅子騎が、そのまま踵を返した。
一人にすべきだと、どこかで察した様子で。
膝を突いたまま、顔を上げることも無く。
ふと真朱の目の前を白いものがよぎった。
管狐 :「きゅぅ」
真朱 :「お前は」
管狐使いの細目の男を思い出す。
真朱 :「まだ、あたしに用?」
管狐 :「きゅ」
鼻を鳴らして口にくわえていた紙切れを真朱に差し出した。
真朱 :「なんだ?」
細く折った紙を受け取って、広げる。
『一応、教えておくよ。おせっかいだけどね』
という出だしで書かれた短い文と地図。
記されていた場所は、西条の墓。
真朱 :「……」
握り締めた手の中で、乾いた音を立てた。
墓標
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ふらふらと、吸い寄せられるように。
地図に記された場所。
立ち並ぶ墓石から大分外れた位置に作られた、盛り土にひとつ石をのせただ
けの小さな墓標。寂しいものではあるが、西条のおこした所業からすると打ち
捨てられなかっただけマシなのかもしれない。
真朱 :「……」
現実感も無く、小さな墓標を眺める。
裏切り故の死、それでも誰かが手向けたであろう小さな花が数本墓前に置か
れている。
真朱 :「……西条」
何か手向けでも持ってくるべきだったのかと、ふと思い。
だが、あの男が何を好んでいたか、ということを真朱は全く知らなかった。
真朱 :「あたし……なんにも知らないんだ、アンタのこと」
もう知るすべは無い。
互いに利用していただけだった、爛れた時間を過ごしていただけだった西条
はもういない。
真朱 :「バカらしい……」
最初から互いに期待する関係ではなかったはずだった。
自己嫌悪に陥りながら、それでも湧き上がってくる言葉にできない何か。
真朱 :「……バカだ、アンタも……あたしも」
その場で膝をついて蹲る。
耳を押さえて。
目をつぶって。
一人。
時系列と舞台
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2007年3月上旬。
解説
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西条の最期の言葉を知り、墓前へと足を運ぶ真朱。
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以上
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