[KATARIBE 30920] [HA21P] エピソード『形見の品』

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Date: Wed, 21 Mar 2007 23:22:46 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30920] [HA21P] エピソード『形見の品』
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2007年03月21日:23時22分46秒
Sub:[HA21P]エピソード『形見の品』:
From:久志


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エピソード『形見の品』
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登場人物
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 唯鋼鉛鈕(ただがね・えんちゅう)
     :唯鋼一族の一人。蒼雅に協力し、御霞神社の守護についている。
 蒼雅巧(そうが・たくみ) 
     :霊獣使いの蒼雅家の当主。御霞神社の守護を務めている。 
 蒼雅千利(そうが・せんり)
     :蒼雅傍流の老人。故人。蒼雅西条の祖父で巧の守を務めていた。

折れた形見
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 二月末、御霞神社襲撃の後のこと。
 獅子騎と巧とが闘った場所にて、いまだ収まらぬ騒ぎの中で折れた刀の欠片
を見つけ出し回収する鉛鈕の姿。

 鉛鈕     :「………………」

 手にした刀の欠片。
 一目見てわかるほどに見事に鍛え抜かれた鋼の刀身が柄から十センチ当たり
のところから真っ二つに折れている。

 鉛鈕     :「…………ここまで折られるとはな。」

 丁寧に汚れた刀身を拭って、その刃を見つめる。

 鉛鈕     :「……なぁ、お前。まだ、使い手に付いて行くつもりはあ
        :るか?」

 刃は応えない。
 ただ、冷たく光る刀身からは言葉にはならない強い想いを感じ取れた。

 鉛鈕     :「………………そう、か。そうだな。」

 頷いて、小さく笑みを浮かべる。

 鉛鈕     :「……蒼雅巧。君の相棒、暫し預かるぞ」

 そっと刃と刀を手にした木の箱に丁寧に収めると、恭しく頭を下げた。

 鉛鈕     :「全身全霊を以って、必ずや復活させよう」

 箱を抱え上げると決意を胸にその場を後にした。


記憶の中
--------

 古い記憶の中。

 巧      :「爺!」

 袴の裾をばたばたと捌きながら走っていくのは、まだ十歳ほどの幼い巧の姿。
 駆け寄った先、刀を手に持ち、老いた体を支えるように立っている老人。

 千利     :「若様、どうされました」
 巧      :「……爺」

 袖を掴む。いつも力強く巧の頭を撫でてくれた千利の腕はもう折れそうな程
にやせ衰え、幾つもの古い傷痕が刻印のように残っている。
 かつて先々代から蒼雅家当主の右腕として守人を務め、優れた剣士であった
という過去を巧は伝え聞いた言葉でしか知らない。

 巧      :「爺は、もう私の守人ではなくなってしまうのか?」
 千利     :「……当主様からお聞きになられましたか」
 巧      :「何故なのだ? 私は……まだ爺にいて欲しいのだ。立派
        :な当主になるように努めるのは変わらない、でも、まだも
        :う少し……爺にいて欲しいのだ、駄目なのか?」
 千利     :「若様……」

 まっすぐに千利を見上げる目。
 決して心弱いわけではない、逆に持った心の強さと周囲の期待ゆえに親にさ
え甘えることのできない幼い子の真摯な想い。

 千利     :「若様。この爺、長く蒼雅家にお仕えし、代々当主さまの
        :守人としてこの刀を振るってまいりました」

 皺だらけの手に握られた一振りの刀。

 千利     :「望めるならば、この爺、この命果てるまで若様のお傍に
        :てお仕えしとうございました」
 巧      :「ならば」
 千利     :「ですが、そうも参りませぬ。古き者は新しき者に変わら
        :ねばなりません」
 巧      :「爺……」
 千利     :「老いたこの爺に代わり、我が孫、西条が若様の守人とし
        :て支えましょう」
 巧      :「……西条が悪いわけではないのだ。ただ私は、爺が……
        :居てくれなくなるのが、寂しい」
 千利     :「若様、これを」

 恭しく片膝をつくと、そっと刀を両手に持って巧の目の前に差し出す。

 巧      :「爺?」
 千利     :「望む限り……この爺、若様のお傍にお仕えしとうござい
        :ました。しかし、この老いた身ではもはや刀を振るいてお
        :守りするは叶いませぬ。せめて、長年振るい続けたこの刀
        :をお受け取りください」
 巧      :「え……でも、これは」
 千利     :「はい、爺が先々代当主さまから賜った刀にございます。
        :無銘ではございますが、この刀をもって澱みを退け魔を斬
        :り、この身と我が主を護り続けた品にございます」
 巧      :「これは、爺の大切な品ではないか!」
 千利     :「はい、だからこそ若様に」
 巧      :「……爺」
 千利     :「若様。この爺もはや貴方様のお傍でお守りすることはで
        :きませぬ、ですがせめてこの刀を爺の心としてお傍にお置
        :きください。我が心はいついかなるときも若様の御為に」
 巧      :「…………わかった」

 小さな手て刀に触れる。両手に持った使い込まれた刀は重く、まるで長年の
愛用の品のようにその手に馴染んだ。

 巧      :「爺の心、確かに受け取った」
 千利     :「はい、若様」
 巧      :「……爺の想いに背かぬよう、この刀に相応しい者になる
        :よう……私は、よき当主になる」
 千利     :「若様……」
 巧      :「ありがとう、爺」

 両腕で受け取った刀を胸に抱きしめて、歯をかみ締める。


甦る形見
--------

 御霞神社、三月も半ば近く。
 二月末の御霞襲撃の後、捕らわれた先から逃れ御霞へと戻った巧。その傷は
癒えたものの、まだ全快とは言えない状態だった。

 鉛鈕     :「蒼雅巧。傷は大丈夫か?」 
 巧      :「これは鉛鈕殿」 

 社務所の一室にて、ようやく体を起こして執務に戻っている巧の元を尋ねた
のは蒼雅とは長年交流のある唯鋼家の一人。

 巧      :「すみません……我が身内の策の為に、鉛鈕殿にまでご迷
        :惑をおかけしたことをお詫びいたします」
 鉛鈕     :「いや。私も役目を果たせなかった。こちらこそすまない」

 深々と頭を下げる巧に向き合って同じく頭を下げる。

 巧      :「いえ、見切れなった私の落ち度でもあります」 
 鉛鈕     :「……ふむ。ここはお互い悪かったと、おあいこというこ
        :とでどうだろうか?蒼雅巧。」 
 巧      :「ええ、互いに謝り続けることは……確かにこれ以上必要
        :ありませんね」 
 鉛鈕     :「……うん。これからもよろしく頼む、蒼雅巧。」
 巧      :「はい」 

 差し出された手を握り、深く頷く。

 鉛鈕     :「…………よし。さてと。」

 ゆっくりと手を離し、背中に背負った鞄を下ろす。

 巧      :「鉛鈕殿、それは?」 
 鉛鈕     :「……君の相棒だ。なじみの、な。」
 巧      :「……え?」 

 微かに眉を寄せる巧ににやりと笑みを返すと、下ろした鞄の中から桐の箱を
取り出した。

 鉛鈕     :「君に返すぞ、蒼雅巧。君がこの刀のあるべき主だ。」

 そっと桐の箱を開くと白木の鞘、柄の状態で取り出される一本の刀。

 巧      :「これは!」 

 見覚えのあるその刀。襲撃の際、へし折られたはずの、愛用の品。

 巧      :「……私の……」 

 そっと目の前に差し出された刀を受け取る。
 手に取った刀をそっと抜く。その刀身は折られる前とたがわず、艶やかに光
を反射し、その手に馴染んだ。

 巧      :「ありがとうございます……鉛鈕殿」 
 鉛鈕     :「全力を尽くさせてもらった。……十分だろうか?」 

 爺から託された無銘の刀。

 巧      :「いえ、本当に……嬉しいです。長年使い込んだ……我が
        :得物」 

 今は亡き爺の形見の品。

 巧      :「……本当に、ありがとうございます。もう一度この手に
        :返るとは」 
 鉛鈕     :「その刀は……真に君のことを信じ、守っている。蒼雅巧。
        :……それを裏切らぬように、頑張ってくれ。鍛冶師として
        :は、それだけだ」

 心持ち頬を赤らめて、頭を下げる。

 巧      :「……はい、我が心の師の……愛用された品でしたから」

 そっと仕舞った刀を撫でて笑う。
 一度は折られ、もう二度と戻らないと思っていた形見。

 鉛鈕     :「……そうか。その師も、君を思っていたのだろうな……
        :……。役に立てて……幸いだ」
 巧      :「はい、本当に……ありがとうございました」
 鉛鈕     :「…………うん」

 だんだん気恥ずかしげに頬を赤らめてうつむくと、深々と頭を下げる巧に小
さく一礼すると、そそくさと部屋を後にした。

 巧      :「……爺」

 甦った刀を手に。

 巧      :「ありがとう」

 胸に抱いて、目を閉じる。


時系列と舞台
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 2007年3月上旬。
解説
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 http://kataribe.com/IRC/KA-05/2007/03/20070310.html#030000
 巧、甦った爺の形見を手に。
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以上




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