[KATARIBE 30917] [HA21P] エピソード『最期の言葉』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 20 Mar 2007 01:40:50 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30917] [HA21P] エピソード『最期の言葉』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200703191640.BAA71894@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 30917

Web:	http://kataribe.com/HA/21/P/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30900/30917.html

2007年03月20日:01時40分49秒
Sub:[HA21P]エピソード『最期の言葉』:
From:久志


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
エピソード『最期の言葉』
========================

登場人物
--------
 弧杖魎壱(こづえ・りょういち)
     :陰陽師弧杖家の長男。梓の婚約者。
 蒼雅梓(そうが・あずさ)
     :蒼雅家長女。御霞の巫女。西条の乱心により負傷。
 穂波(ほなみ)
     :蒼雅家の霊獣。三本尻尾の狐。蒼雅梓の対。結構好戦的。
 蒼雅西条(そうが・さいじょう)
     :霊獣使いの蒼雅家の一人。梓への愛執ゆえに乱心し、殺された。
 真朱(まそお)
     :吸血鬼・黄櫨染の末娘。蒼雅の秘密に目をつけ、西条を利用した。
 空鬨獅子騎(あきとき・ししき)
     :吸血鬼・真朱の子。戦闘狂(ベルセルク)

御霞
----

 御霞神社。
 二月の終わりに起きた、御霞の巫女梓を手に入れんとした蒼雅西条の裏切り
による吸血鬼・真朱と獅子騎らの蒼雅家当主拉致という悪夢のような騒動から
一週間近くが過ぎていた。その身を案じられていた巧は辛くも自力で脱出を果
たしたものの、襲撃時に負った傷はまだ癒えず、現在社務所にある一室にて未
だ臥せっている。
 本来ならば浄化の鎮めを行う巫女が負傷の為動けず、その守護たる当主まで
動きがままならないという状況下で、それでも彼らの付き従う霊獣らの懸命な
働きにより、当初の混乱からようやく立ち直り、落ち着きを見せはじめていた。

 魎壱     :「さて」

 弧杖家長男にして梓の婚約者、弧杖魎壱は手にしたハーモニカを弄びながら
怪我を負った梓がいる社に目をやる。

 魎壱     :「人がいいよね、梓も」

 細い目をさらに細めて、慈しむように微かに笑ってハーモニカに口を当てる。
ふわぁーとどこか気が抜けたような音が響く。

 管狐     :(きゅう)

 ハーモニカの細い穴から一匹、また一匹と真っ白な毛皮に胴長の管狐達が飛
び出し、魎壱の周りで円を描くように跳ねた。
 とん、と魎壱の周りに集まって器用に二足で立って黒い目で見上げる。

 魎壱     :「よしよし、ちょっとひと働きしてもらうよ。ボクが梓と
        :ここを離れている間の神社の守りと、ボク達の身代わりに
        :なってもらうからね」

 にやりと笑みを浮かべると片手を翻す。
 その合図と同時に管狐達が四方に散っていく。

 魎壱     :「彼女は、もう向かってるようだねこちらも急ごうかな」

 とん、と。跳ねると風と共にその姿を消した。


休養
----

 御霞、一室にて。

 梓      :「……ふう」

 体を起こして肩をさする。
 西条につけられた傷は大分癒えたとはいえ、元々体力のあるほうでもなく、
慣れぬ巫女の浄化の務めで無理をしていたこともあり、傷は塞がっても溜まっ
た疲労の為なかなか起き上がれずにいた。

 穂波     :「梓さま、ご加減はよろしゅうございますか?」
 梓      :「あら、穂波。ええ今日は少し体が楽なのよ」
 穂波     :「それはようございました。何か体を温めるお飲みもので
        :もご用意いたしましょう」
 梓      :「そうねえ、ありがとう穂波。少し空気を入れ替えてもい
        :いかしら」
 穂波     :「かしこまりました、お冷えになりませんよう」

 立ち上がり、梓の背に上着を掛け一礼する。

 梓      :「…………」

 穂波が席をたってから。
 空いた障子の向こうを眺めながら、ふと思い出す言葉。

 西条     :『……なぜ梓さまが、巧さまが、我らが命を捧げねばなら
        :ぬのだ!』

 血を吐くような、言葉。

 西条     :『……渡さぬ、奪わせぬ、これ以上私から何を奪えば気が
        :済むのだ!』

 目を閉じる。
 耳に残る悲痛な声。
 弟のようにも想っていた幼馴染の悲しいまでの想いと叫びに。

 梓      :「……西条、貴方は……苦しかったの?」

 軋むように痛む肩。
 そっと肩をさすりながら、梓は小さく息をついた。

 梓      :「どうすれば……貴方は救われるの……」


空蝉
----

 口あたりを柔らかくした薬湯を盆に載せ、巫女姿の穂波が静々と廊下を歩い
ていた。

 魎壱     :「やあ穂波」
 穂波     :「これは、魎壱さま」
 魎壱     :「梓の具合はどうかな? 見舞いたいのだけどね」
 穂波     :「はい、おかげさまで大分よくなられて。魎壱さまのお顔
        :をみたらきっと元気になられます」
 魎壱     :「ありがとう」

 目を細めて笑う。

 穂波     :「失礼いたします、梓さま」
 魎壱     :「梓」
 梓      :「魎壱さま……」
 魎壱     :「随分顔色が良くなったねえ、元気そうでよかった」
 梓      :「はい」

 はにかむように笑う梓と、自然に梓の手を取って目を細める魎壱の姿を交互
に見て、少し焦ったように手にした盆を置いて穂波が頭を下げた

 穂波     :「……ええと、私はこれで、失礼いたしますっ」

 頬を染めて逃げるようにそそくさと部屋を後にする。

 梓      :「あらら、どうしたのかしら」
 魎壱     :「やれやれ、あれじゃあ墨染クンも先が大変だねえ」

 穂波の足音が完全に消えたのを確認し、ふと魎壱が真顔になりちろりと辺り
の気配を伺う。

 魎壱     :「さて、梓。行こうか?」
 梓      :「はい……お願いします、魎壱さま」
 魎壱     :「了解」

 とん、と。立ち上がり軽く畳の上を跳ねる。
 ひゅるっと風が渦巻き、音もなく布団が跳ね上がり、梓の体が宙に浮いた。

 魎壱     :「よっと」
 梓      :「……っ」>首に手を回す。

 梓の体を軽々と抱き上げ、懐のハーモニカから飛び出した二匹の管狐に目配
せする。

 魎壱     :「留守番、ヨロシクね」
 管狐     :(きゅう)

 ふわっと、伸びあがるように二匹の管狐の姿と梓と魎壱の姿に変わる。

 魎壱     :「じゃあ、飛ぶよ」
 梓      :「はい」

 しゅるんと風が取り巻いて、二人の姿はかき消すように消えた。


対面
----

 指定された場所へと向かいながら。

 獅子騎    :「なあ、おふくろ」
 真朱     :「…………」

 いつもならば、お袋はやめてと言う真朱がいつに無く険しい顔で振り向きも
せずに歩いていく。

 獅子騎    :「…………」>肩をすくめる

 そのまま黙って真朱の後をついて行く。その背が何を見て思っているのか。
 獅子騎は深く追求するのをやめた。

 真朱     :「…………(最期の言葉)」

 あの男の、最期の言葉。
 なぜ今更そんなものを聞かせようとするのか。
 命を賭けてまで望んだ相手以外に、聞かせてどうしようというのか。

 そして。

 どうして、そんなことでこれほど困惑しているのか。

 真朱     :「……バカらしい」

 梓。
 真朱を抱きしめて、髪に触れて、うわ言のように呟いていた名前。
 たった一つの縋るもののように、救いのように何度も、繰り返し。

 真朱     :「あたしが聞いて、どうするんだ……」

 言いながらも、その歩みを緩めることは無く。


 吹利市の外れ、既に相手はその場に来ていた。

 魎壱     :「やあ、来たね」
 梓      :「……真朱さん、ですね。蒼雅梓と申します」

 さぁっと風に淡い茶色の髪が揺れる。
 白い着物と肩に朱色の上衣を羽織り、隣に立つ魎壱に心持ち体を支えられな
がら真朱の目を見つめた。

 真朱     :「そう……あんまり暇ないんだけどね。喧嘩なら買うけど、
        :あたしに言いたいことって何?」
 獅子騎    :「…………(無理、してねーかな)」

 後ろに控える獅子騎の目から見ても、真朱の姿はどこか強がっている印象を
受けた。

 梓      :「あなたに……伝えたいことが、ありまして」 

 体を支える魎壱から手を離して、そっと真朱に向けて手をかざす。

 梓      :「お伝えします、最期の言葉を」
 真朱     :「!?」

 目を見開く。
 同時に真朱の視界に幻影のように西条の姿がよぎった。

 梓      :「きっと、貴方に伝えたかったはずの……言葉、ですから」
 真朱     :「言葉? ──ッ、なんだこれ、幻覚……手の込んだこと
        :を(頭を振る)」 

 梓の意識を伝って流れ込んでくる映像。
 頭を振っても、焼きつくように鮮やかに広がる。


 白い着物のあちこちを自らの血で染めて、正気の失せた顔で叫ぶ顔。
 袈裟懸けに斬られ、ゆっくりと仰向けに崩れ落ちていく姿。
 瀕死の淵で、狂気に濁った目がふと正気の光を宿す。何かを掴むように、
震える手を伸ばして、虚しく空を切る。

 西条     :「……ま……そお……」 

 怯えるような絶望しきった顔、空を切る手を握り締めて。
 ゆっくりとその目は光を失っていき、つ、と涙が頬を伝う。

 西条     :「…………」

 うわ言のように何かを呟いていた。誰かの名前のような、いや、既にその口
の動きで誰の名を呼んでいたかはわかっていた。
 がくり、と。手が力を失って崩れ落ちた。
 見開いた目は涙を流したまま、もう光を失い。

 西条はこと切れていた。


 真朱     :「な…………」

 震える手。

 真朱     :「……こんなもの見せて……バカにしてんの、西条を……
        :西条は、あんたが欲しかっただけなのに!」 

 頭を振って真朱が叫んだ。
 幻覚だと思いたかった。何もかも作り事だと思いたかった。

 梓      :「……最後に、本当に望んだ声を伝えただけ、ですよ」 

 静かに取り乱す真朱と対照的にきっぱりと告げる。

 梓      :「きっと、貴方に伝えたかったはずだから」 
 真朱     :「……そんなの……」

 ふっと言葉を切り真朱の姿を見つめる。

 真朱     :「そんな……だったら、なんで死んだ……なんで……死な
        :なくていいじゃないか」

 がくりと膝をついて。呆然と呟く。

 何故、西条が死ななければならなかったのか。
 何故、西条はあそこまで怯えなければいけなかったのか。
 何故、西条はあんな風に壊されてしまったのか。

 梓      :「……」

 膝をついたままの真朱をじっと見て、魎壱の袖を軽く掴んだ。

 魎壱     :「んじゃあ、悪いけどボクらはこれで帰るよ。伝えるべき
        :言葉は伝えたからね」
 真朱     :「…………」

 その声に顔を上げることも無く。

 梓      :「……さようなら、真朱さん」
 真朱     :「…………」

 ひゅるりと吹いた風と共に、魎壱と梓の姿が消える。

 真朱     :「…………」

 そのことすら、まるで目に映っていないかのように。

 獅子騎    :「……おふくろ」
 真朱     :「…………」

 ただ、膝をついて放心したように地面を見つめている。

 いつまでも。


時系列と舞台
------------
 2007年3月上旬。
解説
----
 真朱、魎壱に呼び出され、西条の最期の言葉を梓から伝えられる。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30900/30917.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage