[KATARIBE 30906] [HA21N] 小説『還ってくる者〜欺瞞』

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Date: Fri, 16 Mar 2007 00:15:21 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30906] [HA21N] 小説『還ってくる者〜欺瞞』
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2007年03月16日:00時15分21秒
Sub:[HA21N]小説『還ってくる者〜欺瞞』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
また週末、つなげない+書けない、ので、ここで書く!(どーん)

……3月19日から、でけるだけずれないよーに(えうえう)

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小説『還ってくる者〜欺瞞』
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登場人物
--------
 今宮 昇(いまみや・のぼる)
   :タカの父。妻の死後、子供との交流はほぼ一切無し。
 今宮タカ(いまみや・たか)
   :流れを見て操る少女。多少不思議系。
 片桐壮平(かたぎり・そうへい)
   :吹利県警巡査、魂の無い不死身の男。
 薬袋 隆(みない・たかし)
   :タカの母、紗弓の弟。相手の過去を見る異能者。


本文
----

「…………タカは、お母さんに、会いたい?」 
「ほえ………………うん」 
 ついこのあいだ11歳になったばかりの娘は、しかし本来の年齢より幼く見
える。黒目勝ちの目を伏せて、でも娘は言葉を継ぐ。
「でも、おかーさん消えちゃったもの」 
 死んだ。亡くなった。
 この子はその言葉を使わないな、と、今宮は改めて思う。お母さんが消えて
しまう、と、悲鳴のようにあげた声を思い出す。

 しゅんしゅんと音を立てだした薬缶の火を止めて、急須に湯を注ぐ。
 娘の肩の上の鴉は、きろり、とその琥珀の目を動かしてこちらを見る。

「お茶、飲むか?」
「うん」
 湯飲みを取り出そうとして、ちょっとだけ躊躇する。
(この子の湯飲みは……どれだっけか)
 悩んでも仕方ないので、適当に……紗弓のそれだけは避けて、一つ取り出す。
 困ったような顔をして、娘……タカはこちらを見る。

「……………………もし」 
 目の前のテーブルに、湯飲みを二つ並べて。
 ちょん、と、座った椅子の前で、膝をついて目の高さを娘のそれと合わせる。
不思議そうに今宮を見やる目を、真っ直ぐに見据えて。
「もし、消えたお母さんが戻ってくるとしたら?」 
 ほえ、と、小さくぽっかりと開いた口が、ゆっくりと形を作る。溢れるよう
な期待と……拭い切れない疑念。
「…………ほんと?」 
 今宮は頷く。その表情のどこかに本当の色を見たのだろう、タカの目から疑
念が薄れ……期待が膨れ上がるのがわかる。
「タカは、手伝ってくれる、かな?」 
 それでもわずかに、ためらいがちな声に、即答が返った。
「うん!」 
 紛いの無い笑みを浮かべて、タカは笑う。
 その顔が紗弓のそれにそっくりなことを、今宮は再確認する。
 痛みで出来なかったそれだけのことが……今日は反対に有難いことのように
思えた。
 有難い……そして何よりも幸運なことに。

          **

「……髪の毛で試したんだ」 
 街角。雑踏の中、それでも人通りのポケット状態になる場所で。
「一瞬……一瞬、だけ」 
 躊躇いがちな声に、相手はほんのりと笑った。
「……ええ、私は遺骨でした」 
 でも、と、小さく呟く。でもそれでも足りなかったのです、と、今宮は中嶋
の言葉を的確に聴く。
「…………骨よりも、確実なもの」 
「もっとも近しいもの」 
 目の下にくまの浮いた顔。最初に会った時は邪悪とすら見えた顔が、しかし
今は様々な苦悩に耐えた末に、何かを勝ち得た顔に見えた。
「……協力してくれる、と言いました」 
 だから。
 今宮は言う。
「協力を」
「ええ」
 中嶋が笑って頷く。自分の行為の正しさを……否、喪うものがあっても、そ
れは正しきことだ、と、まるで裏付けてくれるように。
「紗弓が……戻ってくる」 
「ええ」 
 そして、頷く。
 惹き込まれるほどに……確実な笑みを浮かべて。
 そして、囁く。
「還ってくるんです」 
 雑踏の中、全ての音が消えて。
 その言葉だけが、耳に届く。

「還ってくるんですよ、あなたの元に」
「ええ」 
 
             **

「……ああ、義兄さんですか」
 決して高くは無い、そう……どこか涼やかな、というような声。
「いえ、たいしたことは無いです。ええ……いえね、タカをこの前、ちょっと
変わったところで見かけたんでね」
 電話口の声に、暫く耳を傾けてから、彼は笑った。
「いや、危ない人じゃない。ただ……僕の友人の知り合い、かな。警察官……
刑事、なのかな、僕には違いが分からないけど」
 微かな笑みを口元にのぼせたまま、言葉を継ぐ。
「ええ、ある意味身元は万全ですよ。だけど彼、どうも若い子を数人預かって
いるらしくて……うん、ある意味……そう、僕もそう思うんです」
 微かに、微かに。
 口元の笑みは捻じ曲がってゆく。
「いや、そういうことを気にする奴じゃないって言ってたけど……ええそうで
す。迷惑といえば迷惑なんですよね」
 何やら耳元で聞こえる声に、いえいえ、と、彼は手を振った。
「うん、タカもその人も、全く迷惑とかそういうことは考えてないと思う。悪
い人でもないんです。うん、ただちょっとね……え?」
 何やら聞きなおし……そして彼は、苦笑した。
「ああ、言い忘れてた。すみません」
 黒い、虹彩と瞳の色が同じ、引き込まれるような目。
 姉と姪、そして一族に共通するその目に、ひどく満足げな色を浮かべて、彼、
こと隆は言葉を放った。
「片桐。片桐壮平という人です」

          **

「おじちゃん」
 学校に行っていないのはいわずとも分かる。夜遅く外を歩いていたり、昼間
突然やってきたり、時には無断で泊まりこんでいったりする。全く構われてい
ないのはそのつたない言葉からも明らかで、だからこそ片桐もタカを来るまま
にしていた面もあるのだが。
「あのね、とーさんがね、最近いっしょにごはん食べてくれるのっ」
「ほう」
 大きな目一杯に、嬉しい嬉しい、とこぼれるような笑みを浮かべていたタカ
は、でもね、とすこししょんぼりとして言葉を継いだ。
「とーさんがね、女の子が遅くに外いっちゃいけませんって」 
 不思議そうに見やる片桐に、なおさらしょんぼりと言い募る。
「おじちゃんとこに泊まったりしたら、おじちゃんに迷惑だよって」 

 非常に……当たり前といえば当たり前の言葉である。
 ただ、その当たり前の言葉がひっかかるのも、事実である。

「そりゃ、まあ……女の子が遅くに外で歩くのはあかんが。ワシは迷惑なぞし
とらんぞ」 

 母親が亡くなったのが、約一年前。
 何日家に戻らなかろうが、熱を出して外をうろついていようが心配している
様子さえ見せなかった、という父親である。
 女の子が夜に外で歩くのはよくない。そんなことはわかっている。
 だが、父親がそれを今まで散々ほったらかしていたのも事実である。 
 それが、何故急に。

「でもね、あのね」
 年よりも幼い顔立ちに、尚更に幼い笑みを浮かべながらタカは嬉しそうに言
う。
「おとーさんね……前のおとーさんみたいなの」 
 小さな子供が、もう一所懸命に嬉しくて笑っているような、そんな笑顔。
「前の……ああ」 
 お母さんの生きてた頃のか、と、流石に口には出さない。しかし。

 しかし。

(何か引っかかってる、なにか、何が?)

「ご飯食べたか、とか、お風呂入ったか、とか、もう寝たほうがいいとか」 
 小さなひっかかり。しかしそれは逆棘のように引っ張れば引っ張るほど抜け
ないものとなる。考え込んでいる間に、タカは言葉を重ね……重ねるごとに、
だんだんと涙ぐんだ。
「寝る前に頭ぽんぽんって」
「……そうか」
 とうとうぐしぐしと泣き出した少女の頭を、ぽふ、と撫でる。タカの言うこ
とが事実なら、それに越したことは無いのだから。
 ……だが。
  
「……だから、夜は、おうちに、居るよーにする」 
 ごしごしと、袖口で乱暴に顔を拭うと、タカはぺこりと頭を下げた。
「おじちゃん、ごめんね、ごはん作れないです」 

 その言葉に覚えず、片桐は苦笑する。
 淡蒲萄とのお料理教室以来、この子供子供した少女は、何かとご飯の面倒を
みようとしていたものだ。
 必要かどうかはともかく……そのことをこの子は心配していたのだろう。

「いや、ワシはええんじゃ。タカのとうちゃんの心配はもっともじゃろ」 
 な、と言葉の代わりに、頭をぽん、と撫でる。
 うん、と、タカは頷いて、目をこすった。
「で、でもね、ごはんお昼に作るね」
 笑った少女の肩の上の、微動だにしない鴉の琥珀の目。
 それがきろり、と、片桐を見る。 

 その視線が……どこか抜けない棘のように。

 刺さった。


時系列
------
 2007年2月19日〜3月あたり

解説
----
 ゆっくりと編まれ、張り巡らされる罠。
******************************************

 てなもんで。
 あとはもう、こちらで書くのは、でっどらいんな日の話、かな。
 であであ。
 
 


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