[KATARIBE 30898] [HA06P] エピソード『卒業前のアンドロイド騒動 2〜亜美の激白』

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Date: Tue, 13 Mar 2007 18:09:44 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30898] [HA06P] エピソード『卒業前のアンドロイド騒動 2〜亜美の激白』
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MOTOIです。

亜美、愛菜美に相談するの回。
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エピソード『卒業前のアンドロイド騒動 2〜亜美の激白』
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登場人物
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 坪井亜美(つぼい・あみ) http://kataribe.com/HA/06/C/0629/
 榎愛菜美(えのき・まなみ) http://kataribe.com/HA/06/C/0328/


亜美、愛菜美に相談する
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 亜美が、知佳や桃花に心配された翌日。
 亜美は、川原に棄てられたコインロッカーの上に座り、ある人を待っていた。

 この川原のロッカー、かつてはお金を入れておけば恨みを晴らしてくれる、
なんて伝説が子供たちの間であったらしいが、今では大人・子供ともに近づこ
うとする者は皆無である。
 しかし、だからこそ一人になるには好都合で、亜美はたまたま見つけたこの
場所を、格闘技の練習場所としてよく利用していたのだ。

 愛菜美    :「お待たせ、亜美ちゃん」 

 しばらくして、待っていたその人がやってきた。
 榎愛菜美。亜美の「従姉妹」にあたり、亜美より10年近くも長く稼動してい
るアンドロイドである。
 その「人間生活」の長さから、亜美も「従姉妹」というより「姉」のような
感覚でいる。

 亜美     :「愛菜美ねーやん……ごめんな、急に呼び出してしもて」

 亜美は、この場所に初めて人を呼んだ。
 それも、愛菜美を心の底から信頼しているから、である。

 愛菜美    :「別に気にしなくていーよ。で、相談って?」

 愛菜美は、亜美の隣に腰掛け、話を聞く体制に入る。
 金属の感覚が冷たかったが、そこは亜美のために我慢する。

 亜美     :「ねーやん……ウチ、中学行きたいんや」 
 愛菜美    :「え? 普通に行けばいいじゃない?」

 愛菜美自身、小学校から中学校、そして高校へと、普通に進学してきた経歴
を持つ。
 だから、当然亜美も小学校が終わったら中学校へと普通に進学するものだと
愛菜美は思っていた。

 しかし、驚く愛菜美を尻目に、亜美は激白を続ける。


そして、激白する
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 亜美     :「ウチ……データ取りのためのテスト機やから……小学校
        ;終わったらお払い箱や」 
 愛菜美    :「えぇ? 慶子叔母さん、そんな人じゃないと思うけ
        :ど?」

 慶子とは、亜美の「母親」であり、製作者である。もちろん、愛菜美も何度
か会ったことがあるが、自分の作ったアンドロイドを使い捨てにするような冷
たい人間ではなかったはずだ。

 亜美は、さらに激白を続ける。

 亜美     :「ウチ、聞いてしもたんや! もう一度、小学校に……っ
        :ちゅう話を!」 

 亜美の話した内容はこうである。
 深夜、たまたま亜美が慶子の部屋の前を通りかかったところ、慶子と誰かの
話し声が聞こえてきたのだそうだ。
 小声で話していたため、断片的にしか聞き取れなかったが、「亜美の改造」
「小学校のデータを取り直し」などと、亜美にとって致命的ともいえるキー
ワードについては、はっきりと聞こえてきたらしい。

 亜美     :「顔と体、わからんように改造して、また小学校やり直し
        :させられるんや! ウチのオカン、そう言うとった!」

 激白を終えた亜美は、そのまま突っ伏して、泣き出してしまった。


お姉さんの本領発揮
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 愛菜美    :「ちょ、落ち着いて、亜美ちゃん」

 愛菜美は亜美をなだめようとするが、亜美はその顔を上げない。

 亜美     :「これで落ちついて……られるかいな!」

 愛菜美は、自分の意見を亜美に言うため、幾度も亜美に顔を上げさせようと
したが、亜美は突っ伏した姿勢を変えようとはしない。
 このままでは埒が明かないと感じた愛菜美は、ついに強硬手段に出る。

 なんと愛菜美は、亜美の頭部を胴体部から引き抜いて、自分の目の前に持ち
上げたのだった。
 戦闘用と家庭用、用途は異なるが同じアンドロイドである。しかも、亜美の
ボディは、先に造られた愛菜美をかなり参考にして造られているのだ。愛菜美
はそれを知っていたからこそ、簡単に亜美の頭部を抜くことができた。

 当然、亜美は驚きを感じ、泣くのを止めてしまった。
 それを確認し、愛菜美が話し始める。

 愛菜美    :「亜美ちゃん、それ、慶子叔母さんから直接聞いたわけじ
        :ゃないでしょ?」 
 亜美     :「……」

 アンドロイドの思考も完璧ではない。時には、誤解をしてしまうこともある。
 そして、アンドロイドの誤解は、人間よりもはるかに根深い。
 一般的なコンピュータにも言えることだが、機械の思考は、人間よりもはる
かに融通が利きにくいものでもあるのだ。

 愛菜美は、それをよく知っていた。
 誤解を続けたまま、数年の間を過ごしていたアンドロイドのことを思い出し
ながら、愛菜美は話を続ける。

 愛菜美    :「慶子叔母さんだったら、亜美ちゃんに隠し事なんてしな
        :いはずだよ。亜美ちゃんのこと、ものすごく大切にしてる
        :もん」 
 亜美     :「でも、ウチ……」 
 愛菜美    :「でもも何もないよ。そういうことはちゃんと事実を確か
        :めてから発言しなきゃ」

 実際、亜美は慶子に事実を確認できずにいた。
 慶子からの「死刑宣告」ともいえるその言葉を聞くのが怖かったから。
 そんな亜美の心の中を察してか、愛菜美はひとつの提案をする。

 愛菜美    :「よしっ、今から、私が慶子叔母さんに直接聞いてきてあ
        :げる。亜美ちゃんじゃ興奮しちゃうだろうし、ね」

 さらに、愛菜美は言葉を続ける。

 愛菜美    :「もし亜美ちゃんの言うことが本当なら、私からもパパか
        :らも頼んであげる。亜美ちゃんがお友達と一緒に中学校行
        :けるようにね」 
 亜美     :「ねーやん……」

 もし仮に「死刑宣告」が発せられたとしても、超法規的措置で助けることが
できる。
 実際、愛菜美の「父親」である士郎は、それだけの力を持っている。それに、
愛菜美の考えにも同意してくれる筈だ。

 それを聞いて安心したのか、亜美もだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。
 そんな亜美の様子を見て、愛菜美は亜美の頭部を元通りに接合する。

 愛菜美    :「とりあえず、亜美ちゃんはお友達とでも遊んでて。午後
        :5時に公園で待ち合わせ、ね」 
 亜美     :「……」 
 愛菜美    :「ほら、返事は?」(にこり 
 亜美     :「……わかりました、おねがいします」 
 愛菜美    :「……はい、おねがいされました。それじゃ、また後で
        :ね」

 愛菜美は、ロッカーから腰を上げると、亜美の自宅であるマンションに向け
て走り出した。

 亜美     :「……」

 亜美は、愛菜美という強い味方を得て嬉しかったが、どこか心の中に不安を
抱えたままであった。

 そして、その不安は、思ってもみなかった形で、現実となってしまったのだ。

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さくりんのロッカーや、霞原sの誤解の話、勝手に拝借しました(爆)。

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