[KATARIBE 30897] [HA21P] エピソード『空虚感』

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Date: Tue, 13 Mar 2007 14:08:22 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30897] [HA21P] エピソード『空虚感』
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2007年03月13日:14時08分22秒
Sub:[HA21P]エピソード『空虚感』:
From:久志


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エピソード『空虚感』
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登場人物
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 真朱(まそお)
     :吸血鬼・黄櫨染の末娘。蒼雅の秘密に目をつけ、西条を利用した。
 蒼雅西条(そうが・さいじょう)
     :霊獣使いの蒼雅家の一人。梓への愛執ゆえに乱心し、殺された。
 弧杖魎壱(こづえ・りょういち)
     :陰陽師弧杖家の長男。梓の婚約者。

真朱、一人
----------

 コンパスを広げて、とがった先端を指先に軽く当てる。刺さる程の強さでも
なく、ただその鋭さの感覚を確かめるように。

 真朱     :「……暇」

 顔を上げる、つい目と鼻の先に見えるのは真朱の父と姉達のいる裏葉柳医院。
もっとも父である黄櫨染は用事の為本国に戻っているが。
 こきこきと手にしたコンパスを広げたり閉じたりを繰り返して何をするとも
無くもて遊ぶ。今まで何かと入っていた予定も無くなり、暇つぶしにぶらつこ
うにも、父より命じられた医院の護衛という立場もあり、そうおいそれと持ち
場を離れるわけにはいかない。

 真朱     :「………」

 ぱちん、とコンパスを閉じて。
 手持ち無沙汰ということ以上に、ぽっかりと何かが抜け落ちたような埋めよ
うがない空虚感を感じていた。

 よぎる顔。
 贔屓目に見ても端整といっていい、だが、いつもどこか苦悩に満ちた顔。
 どこか熱に浮かされたような自分のことを見ていない遠い目。
 よほど手入れがいいのか梳いた指が引っかかることも無くすり抜ける黒い髪。
 うわごとの様に、手に入らぬ想い人の名をつぶやいていた唇。
 しがみつくように抱きしめてきた、細面の顔立ちからすると意外な程に力強
くしっかりとした腕。

 真朱     :「……ばかな奴」

 御霞神社の守護である蒼雅家の一人である西条を篭絡し、蒼雅家の秘密を嗅
ぎつけ。西条と共謀し真朱の子にあたる獅子騎と共に御霞神社を襲撃してから
既に数日が過ぎている。
 当初の目的であった蒼雅家当主誘拐を完遂し、父に功績を認められ、真朱の
願いは叶ったはず、だった。

 だが、想い人である蒼雅の巫女を手に入れると言っていた西条は待ち合わせ
の場に訪れず、それきり連絡も途切れていた。
 もともと互いに目的を果たしてしまえば、二度と会うこともないし、報告を
しあう必要も無い。真朱も自分の目的を果たした以上、西条の結果の是非はも
う関係のないことのはず、だった。
 本来ならば。

 行き場の無い空虚感。
 夜昼問わず、すっかり通いなれたホテルに二人入り浸って過ごした時間。
 何かに怯えるように、時折飛び起きてはしがみ付いて震えていた体、ふと目
を覚ました時悪夢にうなされながら縋るように手にしがみ付いてきた姿。

 今は、一人。

 真朱     :「退屈……」

 なぜ西条が来なかったのか。
 そして連絡がつかないのか。
 真朱はその理由を深く考えないことにしていた。
 いや、おおよそ予想がついていたからこそ、あえてそれ以上は考えなかった。


 あれこれと取り出した文房具を手で玩びながら、時間をつぶす。
 ふと。

 管狐     :「きゅっ」

 目の前に白い細長いものがよぎった。

 真朱     :「っ!」

 とっさに放ったシャーペンをしゅるりとかわして、真朱の目の前に降り立つ。
 真っ白な毛皮にイタチを思わせる胴長の細長い身体、きろりとした黒い目が
真朱の顔を見上げる。

 真朱     :「管狐? 使い手がいるの、かな」

 見上げる管狐から視線を逸らさず辺りの気配を探る、少なくとも近くに術者
の気配はない。

 真朱     :「……あたしになんか用? 言いたいことあるならコソコ
        :ソしないで出てきたら?」

 興味を無くしたように、手元のコンパスを玩ぶ。

 管狐@魎壱  :『やれやれ、きっついねえ』
 真朱     :「……!」

 手を止めて管狐を見る。
 まるでニヤニヤと笑みを浮かべるように管狐が黒い目を細める。

 真朱     :「アンタが術者さん?」
 管狐@魎壱  :『まあね、ちょっと伝言を頼まれたからね。ま、少々臆病
        :もんなんでこいつで、ね』
 真朱     :「で、何? あたしこれでもお仕事中なんだけど」
 管狐@魎壱  :『その割には随分手持ち無沙汰そうだけどねえ。ま、単刀
        :直入にいこうか』

 とん、と器用に後ろ足で立ち上がり、真朱の目を見る。

 管狐@魎壱  :『伝言の主は、蒼雅梓』
 真朱     :「!」

 思わず目を見開く。

 管狐@魎壱  :『君に是非とも会って伝えておきたい言葉がある、あの男
        :のことについて』
 真朱     :「…………」
 管狐@魎壱  :『ああ、そんなに身構えなくていいよ。報復とかじゃあな
        :いから、信じられないならこの管を人質にしてもいい。
        :絶対こちらからは手を出さない、と、約束するよ』
 真朱     :「……信じると思う?」
 管狐@魎壱  :『そら困ったねえ、君に伝えておきたいあの男の最期の言
        :葉があるみたいだけど』
 真朱     :「…………場所は? 一応、念の為こっちは手下も連れて
        :くけど」

 余裕を見せようと取繕いつつも、微かに震える声。
 目をさらに細めて管狐が小さく笑う。

 管狐@魎壱  :『オーケイ、こっちもいるのは僕だけだ。あの狐さんには
        :席を外してもらう。すぐカッとなるからね。場所は……』

 告げられた場所を一度つぶやくように復唱し、口をつぐむ。

 真朱     :「……わかった」
 管狐@魎壱  :『待ってるよ、できれば早く着て欲しいね。僕も梓も身代
        :わり置いてこっそり抜け出してきた身だからね』

 くつくつと、笑みを浮かべて管狐が飛び上がる。
 そのまま身体を丸めて、風に溶けるようにその姿を消していた。

 真朱     :「…………」

 一人、残って。
 聞き取れない言葉でその名を小さくつぶやいていた。

時系列と舞台
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 2007年3月上旬。
解説
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 巧脱出後、医院の大騒動の直前あたり?
 空虚感に苛まれる真朱、魎壱に呼び出される。
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以上



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