[KATARIBE 30883] [OM04N] 小説『騒ぎを収めんとする話』

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Date: Thu, 8 Mar 2007 23:48:13 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30883] [OM04N] 小説『騒ぎを収めんとする話』
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ふきらです。

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小説『騒ぎを収めんとする話』
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登場人物
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 賀茂保重(かも・やすしげ):
  陰陽寮の頭。

本編
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「さて、どうするか……」
 保重は眉をひそめて腕組みをした。彼の目の前には竹で編まれた籠が一つ。
その中には烏守望次が捕らえたいたちが閉じこめられていた。今は護りの布に
覆われ大人しくしているが、外すと籠の隙間から鋭い刃となった前足を出して
近くにあるものを切ろうとする。この生き物が巷で騒がれている騒ぎの原因で
あろう、というのはおおよそ見当が付いていた。
 保重は辺りをぐるりと見回した。目の前の籠を中心にしてその周囲を陰陽師
達が円座している。その中に時貞の姿はない。どうも気になることがあるらし
く、この何日かはほとんど姿を見かけていない。もっとも、この場にいたとこ
ろで彼がこの話し合いに参加するとはなかったであろうが。
「一体何匹いるのだ?」
 陰陽師の一人が言った。
 布や枝が切られるといった騒ぎは都の至る所で起きていた。しかも一日に一
件ではなく、一日の間に何回も起きている。とうてい一匹の仕業とは考えられ
ない。
「それが分かれば苦労はせんよ」
 保重が答えた。全部で何匹いるかが分かれば、ただ捕らえるにしても終わり
が見えるので策を練りやすい。しかし、数が分からなければ、闇雲に捕まえ続
けたとしてこの騒ぎが収束するという保証はどこにもない。
 やがて誰もが口を噤み、部屋が静かになる。
「とはいえ……」
 動かなければなるまい、と保重が言いかけたところで庭の方でパタンと音が
した。
 皆が一斉にそちらの方を向く。
 彼らの視線の先には青々とした葉を茂らせた椿の木があった。その根元に枝
が一本落ちている。枝に付いている葉はまだ青く、枯れて自然に折れたとは考
えられない。
「またか」
 一人が呟いた。都中で起こっているこの騒ぎは陰陽寮も例外ではなく、幾度
か被害に遭っていた。
 今まではその原因が分からず、されるがままであったが、今は違う。陰陽師
達は庭に意識を集中させて件のいたちの姿を探す。
 彼らの目の前を灰色をした何かが横切った。
 あ、と誰かが声を上げる。灰色の影は庭の真ん中に一度着地すると、陰陽師
達のいる方へ体の向きを変えた。
 縁側の側に座っていた一人が膝立ちになり、袖に右手を突っ込んだ。そし
て、庭を見据え、じっと待つ。
 灰色の影が彼らの方へ飛びかかった。
 同時に、袖の中に右手を入れていた陰陽師がその右手を勢いよく振り抜い
た。彼の右手から白い蜘蛛の糸のようなものが伸び、灰色の影に覆い被さり、
庭へ続く階段の手前に落ちた。
 キィキィ、と網の下で灰色のものが鳴いた。その姿は、色こそ違えど籠の中
にいるいたちと瓜二つである。
 網を投げた陰陽師がその元へ歩み寄り、網で包み込むようにして捕らえたい
たちを持ち上げた。いたちは網を切ろうとするが網は伸びて刃に絡み、切るこ
とができない。
「これで何匹目だ?」
 他の陰陽師の一人が言った。
「三匹目だ」
 いたちを捕らえた陰陽師が立ったまま答えた。
「ここ二、三日で急に姿を見るようになったな」
 保重の言葉に他の者は「そういえば」と頷きあう。
「どうします?」
 持っている網を掲げて彼は保重に尋ねた。
「殺すというのも忍びないし、かといって逃がすなどできぬしなあ…… とり
あえずは籠に入れておくしかないか」
 保重は腕組みをして天井を仰ぎ見た。
「お頭」
 保重の隣の陰陽師が彼に声を掛ける。
「何だ」
「こ奴らを餌にするというのは如何でしょう?」
「餌に?」
「ええ。このいたちが来てから急に陰陽寮でいたちを見かけることが増えまし
たよね?」
 保重は黙ったまま頷き、先を促す。
「ひょっとしてこのいたちを助けようとしているのではないでしょうか?」
 その言葉に他の陰陽師から「ああ」や「なるほど」などの声が漏れる。
「なるほど。それを利用していたちを捕らえるというわけか」
「そうです」
 保重はしばらく黙っていたが、やがて腕組みを解いて、それでいくか、と呟
いた。
「今、ここには三匹のいたちがいるわけだから、三組に分かれて都を歩き回っ
てくれ」
「捕らえたいたちはどうします?」
「そうだな……」
 そう言って保重は部屋にいる陰陽師達を見回した。
「この中でこのいたちを捕らえられる術を使える者はどれくらいいる?」
 半数ほどの者が手を挙げる。そうか、と保重が頷く。
「ならば、捕らえたいたちも餌にしていくか。とにかく全てで何匹いるかが分
からないが、やらないよりはましだし、少なくとも騒ぎを小さくすることはで
きよう」
 よろしく頼む、と保重が言い、陰陽師達は一斉に頷いた。

時系列と舞台
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『騒ぎの元凶を知る話』の数日後。

解説
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人海戦術に出ました。

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