[KATARIBE 30847] [HA21P] エピソード『幼き日の想い』

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Date: Sun, 25 Feb 2007 23:22:25 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30847] [HA21P] エピソード『幼き日の想い』
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2007年02月25日:23時22分25秒
Sub:[HA21P]エピソード『幼き日の想い』:
From:久志


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エピソード『幼き日の想い』
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登場人物
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 蒼雅西条(そうが・さいじょう)
     :蒼雅家の一人。主筋である梓に想いを寄せている。
 飛遊(ひゆう)
     :西条の対になる霊獣。モモンガ。
 蒼雅梓(そうが・あずさ)
     :蒼雅家長女。巫女として御霞神社の護りにつく。
 蒼雅彬(そうが・あきら)
     :蒼雅家前当主。梓、巧らの父。
 蒼雅譲(そうが・ゆずる)
     :蒼雅家分家。後に棗と結婚。

在りし日
--------

 過去の風景。
 蒼雅家、屋敷のはずれにて。

 西条     :「……」

 人気のない庭の片隅で、一人膝を抱えて佇む幼い西条。
 涙の伝った跡がいく筋も頬に残り、目元は赤く腫れている。

 西条     :「……かあさま」

 食いしばる歯。
 こみあげる涙。
 掠れそうな呼びかけに答える母はもうこの世にいない。

 西条     :「……かあさま、かあさま」

 溢れた涙が頬を伝うのを着物の袖で何度も拭う、赤く腫れた頬に布が擦れて、
ひりひりと痛んだ。

 西条     :「……ひっく」

 膝に顔を埋めて声を殺してしゃくりあげる。
 もう二度と母に会えないという事実を受け止めるには、三歳になったばかり
の幼い西条にはあまりにも辛いことだった。


当主らの会話
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 同時期、蒼雅家での会話。
 向き合って座る二人の男。蒼雅家当主、彬と蒼雅分家の長男、譲。互いに険
しい顔のまましばし黙って見合っている。

 彬      :「西条は?」

 重々しく口を開いた彬の問いに譲が答える。

 譲      :「未だ、心を閉ざしたまま。誰とも口をきこうとしません」
 彬      :「そうか……」

 ため息をついて目を瞑る。
 長年続いてきた蒼雅家の役目。吹利の地鎮の為、巫女を差し出し霊的安定を
護る。時には命を賭けてその任に当たらねばならないという宿命。
 命に従い、巫女として任に当たっていた彬の妹、棗と巫女のお付だった西条
の母。¥、柚木が、地を乱す者に襲われたのがつい一ヶ月程前のこと。

 彬      :「幼子には、耐えられぬ惨い想いをさせてしまったな」
 譲      :「……できる限りは、私も力になろうと試みましたが」

 その結果。
 巫女の棗は大怪我を負い、未だに起き上がることもできず床に臥している。
そして、お付だった柚木は全身バラバラに引き裂かれその若い命を落とした。

 彬      :「すまぬ西条……護りきれなかったのは、我が落ち度だ」
 譲      :「当主さま、思いつめられますな」
 彬      :「……わかっている、それでも役目は果たさねばならぬ」

 疲れたように笑って。

 彬      :「私も西条の心を癒す為、できうる限りのことをしよう。
        :お上に相談するのも考慮しなければ」
 譲      :「……はい」


想い
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 溢れる涙を拭いながら。

 西条     :「……かあさま……」

 誰とも口を聞かず、一人涙にくれながら。

 飛遊@モモンガ:「きゅぅ」

 その肩で小さな体を丸めて西条の首筋に擦り寄るモモンガの姿。

 西条     :「飛遊……」
 飛遊@モモンガ:「きゅぅ」

 蒼雅の霊獣であり、西条と命と共にする対。

 西条     :「飛遊。お前は……お前だけは……ずっと私と一緒にいて
        :くれるな?」
 飛遊@モモンガ:「きゅぅっ」

 手の上に乗り、西条を見上げて鼻をひくつかせながら何度も頷く飛遊の姿に
安堵したように息をつき、頬を摺り寄せた。

 西条     :「いなくならないでくれ、誰も……もう」
 飛遊@モモンガ:「きゅぅ……」

 涙の伝う頬。必死に慰めようと擦り寄る飛遊を胸に抱いて。

 ふと近くに気配を感じる。

 西条     :「だ、誰だっ(びくっ)」
 穂波@狐   :(ちょん、と西条の前で止まる)
 西条     :「あ……」

 西条の前に現れたのは、金色の毛皮に三本の尻尾を揺らした一匹の狐。

 梓      :「あら、驚かせちゃいましたねえ」
 西条     :「……っ!」

 間延びした声と共に現れたのは、当主の長女、梓。西条にとっては二つ上に
あたる幼馴染でもあった。

 西条     :「…………」
 梓      :「西条、泣いていたの?」
 西条     :(ふい、と横を向く)
 梓      :「ほおら、頬が真っ赤ですよ」
 西条     :(ぶんぶんと首を振る)

 駄々っ子のように首を振って、膝に顔を埋める。

 梓      :「……西条」
 西条     :(うつむいたまま)

 しばしの無言。
 一瞬置いて、西条の頭をそっと包むように撫でる手。

 西条     :「…………」
 梓      :(撫でている、何度も何度も)

 さらさらと髪を撫でる手。
 包むように、溶かすように。

 西条     :「……ひっく」>涙が溢れてきた

 ふわりと西条の傍らに座り、頭を撫でながらそっと肩を抱いて額をつける。

 梓      :「…………」>額をつけて
 西条     :「……う、ひっく……」

 髪を撫でる手。

 西条     :「梓さま……」
 梓      :(そっと肩を抱いて、頭を撫でる)
 西条     :「梓さま、梓さま……」

 縋りついた西条を受け止めて。

 梓      :(抱きしめて頭を撫でている)
 西条     :(ひっく、ひっく)

 きゅっと着物の裾を握り締めて。
 縋りついた梓の腕の中は、暖かかった。

 西条     :「……梓さま……」

 

時系列と舞台
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 1985年ごろ。
解説
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 蒼雅西条、過去の思い出と梓への淡い想い。
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以上


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