[KATARIBE 30839] [HA21P] 黄櫨染と娘二人

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Date: Thu, 22 Feb 2007 10:52:32 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30839] [HA21P] 黄櫨染と娘二人
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2007年02月22日:10時52分31秒
Sub:[HA21P] 黄櫨染と娘二人:
From:Toyolina


[HA21P] 黄櫨染と娘二人
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登場人物
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 黄櫨染    真意が定かでない吸血鬼。
 淡蒲萄    長女。
 真朱     末娘。


 日頃はあまり使われることのない、裏葉柳医院の院長室。
 今日は、部屋の主とその娘二人が居た。

 黄櫨染    :「じゃあ、聴こうか、二人の報告を。淡蒲萄。君からどうぞ」

 長女を促す院長、黄櫨染。
 今は、院長としてではなく、父親としてでもなく。
 一族を率いる長としての顔。

 淡蒲萄    :「結論から言うと……調査は打ち切らないといけない、と
        :思います。手を出せる余地なんて、全然ない」
 黄櫨染    :「そう判断した理由は?」
 淡蒲萄    :「──取り込まれたのを見ました。すごく薄い程度の水なのに」
        :「あと、十年前に関わった人間にも会いました。人間は当然、
        :神さまでも、水をどうにかするのは不可能だって言ってました」
 黄櫨染    :「それは、信じるに足ると判断出来る?」
 淡蒲萄    :「はい、お父様」

 淡蒲萄の表情を確かめるように、視線を向ける。
 淡蒲萄は揺るぎない。
 少し安心したように、黄櫨染は続ける。

 黄櫨染    :「良かった、ええと何だっけ、最近出来たカレシ。あの子が
        :言ってるから──なんて理由じゃなくてね」
 淡蒲萄    :「な、ナコトくんの件とは……その……別、とは言えない
        :けど、それだけじゃないです、もちろん……」
 真朱     :「ホントにぃ?」

 テーブルを挟んだ向かいのソファから、からかうように真朱が口を挟む。
 背もたれに身を預けて、長い足を組んでいる。

 淡蒲萄    :「真朱は黙ってて。アンタには関係ない話」
 黄櫨染    :「まあまあ、最初に言及したのは僕だ、淡蒲萄も気を悪く
        :しないでくれ。その判断基準は信じよう。じゃあ、真朱かな」
 真朱     :「はぁい。淡蒲萄はああ言ってるけど、それは単に材料が
        :ないだけで……あればきっと、淡蒲萄も反対って言わないと
        :思うんです」
 黄櫨染    :「真朱は何か、めぼしい材料でも持ってるのかい」

 一族の末の娘は、どこをみるでもなく、回りくどい話し方で続ける。

 真朱     :「はい。御霞神社のなんだっけ、ええと動物だかなんだか
        :使う家……ああ、蒼雅家。そこの人とちょっと知り合ったん
        :ですけど、あの家、なんか秘密があるみたいで──」
 黄櫨染    :「もったいぶるのはあまり好かないな、単刀直入に」

 端的に、結論しか述べなかった淡蒲萄とは好対照。良くも悪くも、この姉妹
らしくはある。黄櫨染自身もそういう話し方が嫌いではなかったが、話の要点
をまず掴みたいと考え、たしなめる。
 真朱は悪びれもせず、少しだけ上体を起こして続けた。

 真朱     :「ちゃんと聴いたわけじゃないんですが──あの家の人間、
        :使い魔を使ってるわけじゃなくて……魂がくっついてる
        :みたいなんですよ」
 黄櫨染    :「ほぅ。元が一つなのが分かれたんでもなく?」
 真朱     :「別々なのがくっついて、見た目が二つになってるみたいです」
        :「んで、それはくっついたまんまなんで……どっちかが死ん
        :じゃったら、片方も死んじゃう」

 年初、御霞神社で見た、巫女と狐を思い出す。
 あのときは、管狐だか使い魔だと考えていたが、真朱の話を合わせると。

 黄櫨染    :「わざわざそんなこと言うってことは、何かまだあるんだろ」
 真朱     :「カンですけど。裏になんか居るっぽい話はちらっと。
        :あと──わざわざ神社に常駐するのに、あの家が名指しっ
        :てのもヘンといえばヘン」
        :「ってところです、言えるの。まだ調査中で、結論出てない
        :から、淡蒲萄には悪いんだけど──すぐ中止されても困っ
        :ちゃう」
 淡蒲萄    :「良い悪いは関係ないでしょ、決めるのはお父様だもの」

 興味なさそうな顔をして、しっかりと聞いている姉を一瞥。
 満足そうに真朱は足を組み直す。

 真朱     :「というわけです、淡蒲萄の意見はもちろん尊重したいけど、
        :あたしの立場からは、もう少し時間がほしい。その間、
        :淡蒲萄は休んでてもいいし。カレシとデートでもしてきたら
        :いいんじゃない」
 淡蒲萄    :「真朱、関係ないって言った」

 ぞくり。
 真朱の背筋に悪寒が走る。少し挑発しすぎたかもしれない。
 しかし同時に、淡蒲萄の弱みを握ったことにもなる、そう考え直して、真朱は
座りなおした。
 淡蒲萄の性質をよく知る黄櫨染が、二人を止める。

 黄櫨染    :「はいはい、二人ともそこまで。真朱が全部言っちゃった
        :けど、そうだな、真朱の結論が未だ出てないからには、どっ
        :ちとは決められない。真朱はどれくらいで結論が出そうかな」
 真朱     :「陥ち次第」
 黄櫨染    :「じゃあ、そっちバックアップだな、とりあえず。淡蒲萄は
        :休まれると困るから、十年前の顛末、出来るだけ子細に調べ
        :ておいて」
 淡蒲萄    :「お父様」

 地道な作業が苦手な淡蒲萄が、不満を述べようとして──
 真朱が先んじる。

 真朱     :「お父様、淡蒲萄は調べ物はあまり──下にいるお姉様の
        :うち誰かつけてあげるかしないと」
 淡蒲萄    :「ッ……一人で大丈夫です」

 立ち上がって部屋を出て行こうとする。扉に手をかけたところで振り返り、
一言。

 淡蒲萄    :「解ってもらえると、信じてます」
 真朱     :「ごめんね、あたしの仕事が遅くって」
 淡蒲萄    :「それも関係ない」

 わざと音を立てて、扉を閉めて出て行く。

 黄櫨染    :「……君ら、ホントに仲悪いな」
 真朱     :「お互い理解しようとは努力してますけど」

 扉を見ながら呟く黄櫨染。
 真朱の言葉が口だけのものではないことは察している。
 おそらく、どこまでいっても交わることはない二人なのだ。

 黄櫨染    :「まあいいか、真朱は真朱らしくやってくれ。でも、無用に
        :けしかけないように。あの子は、怒ると怖いよ」
 真朱     :「はぁい、お父様」

 それは先ほども実感したし、以前も見て知っている。彼女の能力が、恐ろしく
対人戦闘に特化していることを。
 姉妹の二女が滅んだ際──淡蒲萄は、真朱の見ている前で、狩人を虐殺して
のけた。その足でアジトに乗り込み、拠点ごと消滅させたのだ。

 黄櫨染    :「と、長としてはそんなところ。個人的には、蒼雅家、興味
        :深いな」
 真朱     :「そのうち連れてこれるかもしれませんが」
 黄櫨染    :「一度会ってみたいもんだね、両方揃ってる状態で」
 真朱     :「近いうちに。楽しみになさってて」
 黄櫨染    :「期待してる」

 父親を見る真朱。黄櫨染はどこを見るでもなく、椅子にもたれて伸びをする。
 本当に興味があるのかどうか、表情からはうかがい知ることが出来ない。
 しかし──
 今この時だけは、淡蒲萄より、近い位置に立っている。
 真朱はそう考え、喉の奥で小さく笑った。


時系列と舞台 
------------ 
2007年2月頃 


解説 
---- 
 部下である娘二人の報告を受ける上司・黄櫨染。


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Toyolina 







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