[KATARIBE 30773] [HA06N] 小説『決着』

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Date: Thu, 8 Feb 2007 23:47:23 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30773] [HA06N] 小説『決着』
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2007年02月08日:23時47分23秒
Sub:[HA06N]小説『決着』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
とりあえず、これでこのまとまりは完了。

…………すすまねーなあ(うぐうぐ)

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小説『決着』
===========
登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事部巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。

本文
----

 その日、相羽さんは……なんだかえらく上機嫌な顔で帰ってきた。
 

「ただいま」
「おかえりなさい」
 と言う前に、ちびさん達が競争で玄関に行く。お鍋の火を止めてからその後
を追うと、相羽さんはすこぶる付きの笑顔をこちらに向けた。
「…………相羽さん、どうしたの?」 
「ん?」 
 同時に手が伸びて、あたしの頭を撫でる。
 今朝は、多少誇張すると『仏頂面』で出て行った人が、こうも機嫌が良い、
ってことは。
 ……ってことは。
「まーこまったお嬢さんもいたもんだよね」 
 と、思いついたことを裏書するように、相羽さんはやっぱり明るい声でそう
言った。
「……え」 
 困ったお嬢さんと、言うと。
 やっぱり……
「…………あの、あのっ」 
 つまりそれって、昨日会ったその人かなとか……いやでも名前とか知らない
し、顔見ただけだと分からないかもって、いやでもあんな美人ちょっと居ない
からやっぱりわかっちゃったのかとか。
「…………あの…………」 
「んー?」 
 にこにこにこ。
 満面の笑みで相羽さんが振り返る。

 怒らないでって言ったのに、とは思った。
 でも、あの場合、もし相羽さんの立場にあたしが居たら……多分怒ってたと
は思う。だからそれは、うん、わかる、気はするけど。
 だけど何ていうか……何があったかって、あたしから言ってしまうと、それ
が本当になってしまいそうで。

「……今日、おでんにしたんだけど」
「いいね。大根は?」
「入ってますって」

 とにかく……ごはんにしようごはんに。
 赤と青のベタが、くるくると周りを回った。

             **

「…………で、相羽さん」
「んー?」
 食器を片付けて、お茶とお菓子を出して。
 そこでようやく……尋ねる勇気が出た。
 きょとん、と、こちらを見る相羽さんに、それでも必死で言葉を選ん………
…だ、つもりなんだけど。
「その、お嬢さんって……もしかして…………」
 ああ、と、相羽さんは笑う。
「いやーほら、気が多すぎる困ったお嬢さんがいてねえ」 
 悪戯っ子じみた表情で、笑いながら。
「大奥から注意されてたよ」
「おお……あ、形埜、さんですか」 
 風春祭の後で聞いた。ホストクラブで会った、小柄な女性。総務課の中でも
一番の古株、県警の中の情報については人後に落ちることの無い人だ、と。
 ってことは。
(じゃあ、この人が何か直接言ったんじゃない、のかな……?)
「シュンとしてたよ、まあ、大奥もよく見てるよね〜」 
 気が多すぎるってことは、相羽さんだけじゃなくて他の人にもってことなの
かな。だとすると……

「…………あの、相羽さんが、何か言ったわけじゃなくて?」 
「ああ、ちょっと睨んだだけだよ」 
 ごくごくさらっとそう言って、相羽さんは手元のお菓子をほおばった。
「…………え」

 いやその、軽く言ってくれるけど、この人睨んだらすごく怖いのだ。以前聞
いた異名が『ヤク避け相羽』、見据えるだけでヤクザが逃げてたくらいなんだ
から(って過去形にしたけど、今も多分そうなんだろうと思う)。
 その人が睨むだけ……って。
 それは、もしかしたら相当こわくなかったかな。

 ……と、そこまで考えて。
(でも、一番悪いのは…………)
 黙っていられなくて、ついつい答えてしまって。
 ……いや本当は、言いたかったのかもしれない。こんなこと言われたんだ、
こんなひどいこと言う人が居たんだ。
 それがどれだけ卑怯か分かっていて。何があってもあたしを庇ってくれる人
にわざわざと。

 一番悪いのは、あたしじゃないか。

 相羽さんは黙ってお茶を飲んでる。
 ことん、と湯飲みを置いたのを見計らって、ちょっとだけ腕にもたれてみる。
「ん?」
「……ごめんなさい」
「気にしなくていいのに」 
 そりゃ、相羽さんはそう言ってくれるけど、でも。
 もっとちゃんと言い返せてたら。
「もう、あんなことはないから、ね」
 だけどその人、相羽さんのことを、好きだった人なのに。
 
「いや、そうでもないでしょ」
「……だって」
「ちょっと睨んだら、今度は史の字に気を移しててね」
 それで流石に大奥から注意されたんだよ、と、相羽さんが苦笑する。
「本宮さんに?」
「そそ」
「……それって……」
 派手な顔立ちの、とても綺麗な彼女。だけどその笑顔が、記憶の中でぐにゃ
りとゆがむ。そりゃ、相羽さんから目が離れたのは、よかったと思うけど。
「大丈夫、あいつロリだから」 
「……ロリって……」
 そりゃ、確かに奈々さんは若く見えるし、お子さんが居るとは思えないくら
いに可愛らしい人だけど。
「でも……奈々さんは、不愉快だと思う」
「大丈夫だよ」
 妙に確信ありげに、相羽さんは言う。 
「あいつにマジで睨まれたらマジで怖いよ」
「そりゃ、そうだけど」
 そりゃあ、もしそういうことになったら、一番嫌がるのは本宮さんだと思う。
もしも相手がヒートアップして、本気にならざるを得なくなったら、多分相手
が気の毒になるくらいやっつけるだろうな、と、これはあたしもそう思う。
 だけど、そういうことじゃなくて。
「でも、奈々さんは……やっぱりいやだと思う」
「うん」
「…………だって、あたしだって、相羽さんがどうこうって思わないけど、で
も不愉快だったもの」

 あの時。
 考えてみたら、あたしはあの時、相羽さんがこの子になびくだろうとは、こ
れっぽっちも思わなかった。そりゃ不愉快だったけど、嫌だって思ったけど。
 だけど、なびかないって思ってても……反対に言えばそれでも、不愉快だっ
たんだ。

 まあ、大丈夫だよ、と、笑って、相羽さんはぽんぽん、と、肩を叩く。
「形埜大奥が釘刺してたし」
「うん」
「それに、俺、警部殿ににらまれるほうが怖いよ」 
 それはそうかも、って思った。
 だけど。
「………………睨まない」 
 奈々さんならできるだろう。あの綺麗な顔をきっと睨んで、でもその為に侮
られるなんてことは絶対無い。
 だけど。
「そういうのは……できない」 

 睨むって。
 そりゃ彼女が完全な嘘を言うなら別だけど。

(つまんない女)
 
 それって本当だから。嘘でも誇張でも何でもないから。

 ふっと、肩に廻されていた手が離れた。丁度顔を見合わせることができるく
らいに。
「だからね、俺が睨んでおいた」 
「……………………やっぱり、怒ったんだ……」 
 怒ってくれたのは、すごく嬉しい。だけど、何ていうか、あくまであたしの
不始末に、相羽さんを巻き込みたくない。こんなつまらないことなら余計に。
 だから、何て言えばいいか、分からなくなった、時に。
「俺の嫁、侮辱するやつは……許せない」 
 
 きっぱりとした、声。
 涙が、こぼれた。

 侮辱とか、思わなかった。
 いや、侮辱なんだろうけど、でも、侮辱にしてはあまりに本当で、怒る隙が
なくて。
 それをでも、この人は許せないって言ってくれる。
 怒ってくれる。
 
 ぱたぱた、涙が落ちる。
 ……莫迦みたいだと、自分でも思うのに。

「おいで」
 
 思わず手を伸ばした。
 伸ばした手を……まるで巻き込むように、相羽さんは引っ張って。
 
「…………ごめんな、さい……っ」 
 泣くばかりで、迷惑ばかりかけているのに。
「ほら、もう心配いらないから、さ」 
 何だか小さい子供をなだめるように、ぽんぽん、と、優しく背中を叩く手。
「…………うんっ……」
「大丈夫」

 何度も何度も、頭を撫でる手。
 何度も何度も。
 もうすっかり……何もかも大丈夫だと、分かるまで。


時系列 
------ 
 2006年12月はじめ。 

解説 
---- 
『睨』の続き。とりあえず一件落着。
***********************************************

 てなもんで。
 ではでは。
 


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