[KATARIBE 30762] [OM04N] 小説『騒ぎの元凶を知る話』

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Date: Wed, 7 Feb 2007 00:37:16 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30762] [OM04N] 小説『騒ぎの元凶を知る話』
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ふきらです。

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小説『騒ぎの元凶を知る話』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

 賀茂保重(かも・やすしげ):
  陰陽寮の頭。

 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 妙延尼の庵への使いを終えた彼は手にしている籠を届けるため、再び陰陽寮
へ向かっていた。
 籠の中では庵で捕まえたいたちが大人しく寝そべっている。
「時貞に話をしても駄目であろうしなあ…… 保重様が居られると一番楽なん
だが」
 そう呟いて陰陽寮の前まで来たとき、ちょうどその門から出てくる時貞の姿
をみかけた。
「おう」
 時貞が彼に気付いて片手を挙げた。望次も片手を挙げてそれに応じ、時貞の
ところまで行く。
「悪かったな」
 時貞が言った。
「いや。……それより、お兼殿が陰陽寮に来たらしいな」
 望次のその言葉に、時貞はばつの悪そうな笑みを浮かべる。
「ああ。もう少しお前と会うのが遅かったら、手間を掛けさせることもなかっ
たんだがな…… すまん」
「別に大したことではない」
 カサコソと音が聞こえ、望次は籠に目をやった。いたちが時貞から一番離れ
たところで縮こまっている。
 そういえば、こいつにはあやかしは近づけなかったか、と時貞の力のことを
思い出し、望次は一歩後ずさった。
「どうした?」
 時貞が首を傾げた。
「この中のいたちがな」
「いたち?」
 そう言って時貞は彼の持っている籠を覗き込んだ。
「何もおらぬではないか」
 お前には見えないだけだ、と望次が言うと、時貞はふんと鼻を鳴らした。別
に気を悪くしたわけではない。これがいつもの反応である。
「で、何の用だ?」
「ああ、そうだ。保重様はおられるのか?」
 望次が尋ねると、時貞は口の端をすこしつり上げた。
「どうした?」
「いることはいるさ…… ただ、内裏でいろいろ言われて少々疲れておるよう
だがな」
「ふむ。では今日はやめていた方がよいか」
「いや、気にすることはない。会ってくるといい」
 俺はちょっと出かけてくるから、と言って時貞は陰陽寮を後にした。
「……いつも思うが、なぜ陰陽寮の連中はあんなに頭である保重様のことを気
安く扱えるのだろう?」
 離れていく時貞の背中を見て望次は首を傾げた。


 とにかく会えるのであれば、と陰陽寮の中に入っていった望次を出迎えたの
は当の保重であった。
「望次か」
「はい」
「何の用だ?」
「このところ都で起きているおかしな騒ぎのことなのですが……」
 そう言いながら望次は保重の顔を見た。時貞の言う通り確かに疲れた顔をし
ている。
「お疲れのようでしたら出直して参りますが」
 いやいや、と保重は顔の前で手を振った。
「ちょうど先ほどそのことを言われてきたところだ。まあ中に入ってこい」
 では、と建物に入り保重の後をついていく。縁の中ほどで籠の中のいたちが
キィと鳴いた。
 その音が聞こえたのか、保重が足を止めて望次の方を振り向いた。
「気になっていたのだが…… その籠は何だ?」
「妙延尼様の庵で捕らえたいたちでございます」
「護りの布を被せてあるのをみると、ただのいたちではなさそうだな」
「はい」
 保重の部屋に入り、二人は望次が持っていた籠を挟んで向かい合って座っ
た。
「で、そのいたちが巷の騒ぎと何か関係あるのか?」
 保重が尋ねる。
「おそらく」
 望次は頷いて、籠にかけてある布を少しずらした。
 編まれた竹の隙間から小さないたちが顔を出す。
「ほう」
 保重がいたちに顔を近づけた。そして、いたちの顔を撫でようと指をその目
の前に持っていった。
「あまり近づくのは……」
 保重は望次の忠告に「え?」と彼の方を振り向いた。その瞬間、いたちが編
み目から頭を引っ込めて代わりに前足を出す。
 シュン、と乾いた音がした。
「む」
 出していた手を引っ込めて、保重が眉をひそめる。その手の人差し指の先に
細い切れ目が走っている。
 じわり、と血がにじみ出てきた。
「大丈夫ですか?」
 望次が心配そうに尋ねた。
 ああ、と保重は頷き指を押さえる。しばらくそのままにしていたが、やがて
手を放して傷の具合を確認する。表面をほんの少し切っただけのようで、血は
既に止まっていた。
「……なるほど。こいつが原因か」
 再び顔を出したいたちを見て、保重は言った。
 望次は籠に再び布を被せて頷いた。
 保重は顎に手を当てて、難しい表情を浮かべる。
「どう思う?」
 不意に顔を上げて、望次に尋ねた。
「どう思う、とは?」
「この騒ぎ、こいつ一匹の仕業だと思うか?」
 言われて望次は考えた。このところ毎日のように何かが突然切られるという
騒ぎが発生している。それは一日に数回ではあるが様々なところで起こってい
た。内裏近くで牛車の簾が切られたという話もあり、市で糸の束が切られたと
いう話もある。かと思えば、捕まえたいたちのように都から離れたところで現
れたものもいる。となると、やはり、
「何匹かいる、と」
 望次の言葉に保重は頷いた。そして、頭に手をやって盛大に溜め息をつい
た。
「これで終われば話は簡単だったんだがなあ」
 大げさに首を振る彼の姿に望次は苦笑した。
「どういたしましょう?」
「どうしようも、先ほど左大臣様からきつく言われてきたところだからな。何
とかせねばなるまい」
「何か手伝えることがあれば……」
 保重はその言葉に首を振る。
「お主は検非違使だろう。さすがにこれはこっちの領分よ」
 しかし、すぐに「とはいえ」と続ける。
「捕まえたのがうちの連中ではなくて、お主だからなあ…… いや実に惜し
い」
「は?」
 保重が真面目な顔をして望次の方を見る。
「お主が検非違使なのが、だ。どうだ、陰陽寮に来ないか?」
 その言葉に望次は困ったような表情を浮かべる。それを見て、保重は表情を
崩した。
「冗談だ。気にするな」
 そう言って保重は大きく溜め息をついて腕を組んだ。
「さて、どうするかな……」
 その視線は目の前の籠に注がれている。
 望次もつられて籠に目をやった。
 籠の中でいたちが小さくキィと鳴いた。

時系列と舞台
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『かまいたちを捕らふ話』の続き。

解説
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本当にどうするんでしょう?

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