[KATARIBE 30729] [HA06N] 小説『予測されたる弾劾文』

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Date: Sat, 3 Feb 2007 00:11:05 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30729] [HA06N] 小説『予測されたる弾劾文』
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2007年02月03日:00時11分04秒
Sub:[HA06N]小説『予測されたる弾劾文』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
とりあえず、昨日の続きです。

………………根性悪いわうちの連中(えう)

*********
小説『予測されたる弾劾文』
=========================
登場人物
--------
 形埜千尋(かたの・ちひろ)
  :吹利県警総務課の大御所。噂話とそれからの推測については異能並み。
 新川清香(にいかわ・きよか)
  :吹利県警総務課所属。中堅が近い若手。しっかり者。
 江坂智美(えさか・さとみ)
  :吹利県警総務課所属。美人だが……


本文
----

 いつかはこういう類の問題が来るだろうとは思っていたのだが、しかしそれ
が本当になっても実に嬉しくないものだ……と、千尋はしみじみ実感した。


「……あのう、形埜さん」
「はいな」
 振り返ると少し遠慮がちに、そろそろ若手から中堅になりかけの新川清香が
立っていた。
「あのう…………」
「江坂さんのこと?」
「え」
 形埜千尋の勘働きは、時折『名探偵』の域に達する。やってきた人の住まい、
家族構成等をあっさり当ててみたり、と、総務課の面々はその能力にある程度
馴染みがある筈なのだが。
「なんで」
「だってお昼頃、四人で外に食べに行ってたじゃない」
 千尋は指を折る。
「四人できゃわきゃわ言いながら、キッシュがいいのパスタがおいしいのって
言ってれば大概行くところわかるわよ。あの喫茶店お菓子だけじゃなくって、
そういうのも結構メニューがあって美味しいもの」
 そう言って千尋が挙げた店の名前は、まさに彼女が昼に向かった店で、清香
はただただ頷くのみである。
「そんで帰ってきた時、一人だけ……江坂さんだけがにやにやしてたのよね。
あとの三人は、どーも何か居心地悪そうで、でも喧嘩したとかそういう感じで
もなさそうだったし」
 と、いうことは、と、手に持ったボールペンで指揮を取るようにしながら千
尋は言葉を続ける。
「これまでの彼女の振る舞いからしても、江坂さんがやれやれってな失言して、
でもちっとも反省してないって奴じゃないかなあ、と」
「……え、ええ、ええ、そうなんです、それにっ」
 身を乗り出した清香をひょい、と、ボールペンで止めて、千尋は首を傾げて
みせた。
「それに、その失言だか暴言だかの相手は……察するに相羽君の奥さん?」
「?!」
 今度こそ本式に、清香は目を真ん丸くした。

 説明を聞けば、それもまた案外分かり易い図式となる。
「あの奥さん、本が大好きらしいもの。それもSFとミステリ。一度入院してた
頃、よくその系統の本を持って相羽君が駆けつけてたわ」
 当時それはそれは有名だった話である。
「で、その本屋と喫茶店が近いとくれば、大概ありそうじゃない?」
「……それって、でも、かなり山勘ですか?」
「まあねえ。でも、豆柴君の奥さんなら、あれだけ鉄火な人だもの、多分多少
なりと言い返すなり何なりしてるわよ」
 マメシバンの敵方幹部役をやった時といい、風春祭での戦いっぷりといい、
多少の難癖に負けるような人柄ではないと見切っている。
「それに彼女って、確かに見たとこは高校生くらいだけど、相当美人じゃない
の。江坂さんが失言もしくは暴言を吐く相手とは、ちょっと思えないなあ」


 江坂智美、と、名前は結構おとなしげな彼女は、県警に来たときから相当に
目立っていた。
 まず、美人である。それも今一番流行りのアイドルに似た顔立ちを、より一
層似せるような化粧と髪型の。
 だから、同じ年代の男性陣には相当受けが宜しいようなのだが、惜しむらく
は彼女、とことん女性受けが悪い。

(態度が全然違うんですよ)
 総務の女性陣から、何度そういう不満を聞いたか分からない。
(男の人からちょっと注意されたら、『はいっ、今度から注意しますっ』とか
すごくいい返事するくせに、あたしが同じことを言っても『はいはい』ですも
ん。いい加減注意するの莫迦らしくて)
 確かに、一度千尋が注意した時も、『はいはい分かってますから』と、莫迦
にしたように答えられたおぼえがある。無論そのままに放置している千尋では
ない。
(あらー、分かってるのにわざわざ間違えるの、うわー天下の公僕がそうやっ
て分かりきった間違いやらかして時間無駄にして、そうやってすこーしずつ給
料を唯取りするってわけですかね、おやこれは困った人だこと)
 マシンガンと言うも愚かな勢いに、流石の智美が目を白黒させた。
(それにねあなた、その間違いって先刻河北君が教えてくれたとこじゃないの。
言ってたわよね、『はいっ、申し訳ありません、有難うございますあたし結構
抜けてるから』とか)
(……な、なんでっ)
(だって河北君が言ってたもの。そこあたしもいい忘れてて、教えないとって
思ってたところだったから、教えてくれて有難うって言っといたのよね。で、
今見たら同じとこ間違えてるの。それ一体どういう基準の『判ってる』なわけ?)
(なんでそんなことっ)
(そりゃあ聞いたもの。河北君に。それとも貴方口封じでもしてたの?間違え
てた事実を隠すために?あらそれって問題)
(違います!)
(じゃあ知ってるのが何でそんなにびっくりなの?)
 う、と、詰まった一瞬を捉えて。
(それとね、『はいはい』って、二回続けて言うのって相手に無礼よ?そうい
う自覚あってやってる?)
(え……え、そんな、あたしっ)
(やってないの?わざとじゃないのね?)
 じろっと見られて、相手はひるんだが、すぐに体勢を立て直した。
(……わざとなもんですかっ)
(ああ、じゃあ、配慮不足。もう少し相手の心を考えることをしないと、市民
の県警には余りに不足だわねえ)
 それから10分。それこそぐうの音も出ないくらいにびしばしとやられて、最
後には涙目になった智美を、男性陣は多少なりと気の毒そうに見ていたのだが、
女性陣、特に若手は、溜飲が下がった、みたいな顔をして見ていたものだ。
 あれだけやられて、同情されない辺りに、智美の日頃が伺えるというもので
ある。
 
 それだけではない。同期、もしくは同年代の男性の目を引くだけでは足りな
いのか、彼女は積極的にその上の世代を標的にしたようだった。東氏、石垣氏、
豆柴……もとい本宮末弟に本宮長兄。奥さんが居ようが子供が居ようが、呆れ
るほど無作為な媚と過剰な女性臭さは、確かに人目を引いた。
 ……良きにつけ、というよりは、かなり圧倒的に悪しきにつけ。
 そして少なくとも、この一週間かそこら。
 彼女が標的に定めたのが……どうやら相羽氏、らしいのである。実はその点
を踏まえての先程の発言なので、清香に提示した以上の根拠をもっての先程の
発言だったりするのだが。

 ……しかし。


「あたしも、気が付かないのが悪かったんですけど」
 もそもそ、と、清香が言う。風春祭の時に偶然相羽真帆に会ったとかで、も
ともと決して悪くなかった真帆への評判を、裏付ける役目を果たしたのが彼女
である。
(なんかね、クッキーを渡したら、ありがとうございますって生真面目に言う
の。それが何か可愛くって)
 清香の感覚もちょっとずれてるかも、と、千尋は思わないでもないのだが。
「でも、丁度、あたし達のボックスと背中合わせのところに相羽さんの奥さん
座ってて……」
「ふむ」
「それで…………」

 最後まで、聞く。
 聞くだに、頭の痛くなる話である。

「ちょーっとちょっとちょっと、やめてよねえ」
「そうですよねっ」
「いや、多分、清香ちゃんの思ってる以上の意味で、あたしは言ってますけど」

 そういうことをやられて。
 じゃあ、あの奥さんがどう出るか、というと……
 賭けてもいい。一見何もしない。だまーって聞いてる。多分、そうだよなあ、
なんて思ってそうな気がする。
 でも、落ち込むだろうとは思う。それくらいのことは有り得る。

 と、すると。

「やーめーてーよね」
「え?」
「奥さんがしょんぼりしてたら、あの傍迷惑な御仁が、全力で江坂さんに攻撃
しちゃうじゃないの」
「……相羽さんが?」
「ヤク避け相羽って、あれ冗談じゃないのよ?」

 ヤクザも避けて通る相羽。略してヤク避け相羽。
 基本は人当たりの良いモード(親しいではない、念のため)であるだけに、
ヤク避けモードにギアチェンジすると怖いことになる。

「ありがとね、新川さん」
「……あ、いえ」
「それでも貴方、江坂さんが溶け込むようにって、あそこにご飯食べに誘った
んでしょ?……そこで誘った人の心知らずで、ごたごた起こすあたりがおこちゃ
まなんだけど」
「…………あたしも時々そう思います」


 とりあえず。
 彼女が標的としている既婚者連中に関しては、千尋も微塵の心配もしていな
い。美人だが女性には嫌われる、というあまりに判りやすい彼女が、彼らの家
庭なり何なりをゆるがせるわけが無い。
 但し。

「とりあえず……明日か明後日、もし相羽君が江坂さんと行き逢うことがあっ
たら教えて。止めないと江坂さん本気で泣かされるわよ」
「……ありそげ」

 はーっと新川が溜息をつく。
 千尋がやれやれと肩を回す。

「明日、どうなるかしらねえ」
「これを機会に、もう少し何とかなってくれないかなあ」
「あ、それ無理かも」
「えー」

 妙に率直な……それだけに愛らしい表情に、千尋は思わず噴出した。

時系列 
------ 
 2006年12月はじめ。 

解説 
---- 
 『横恋慕の試み』の続き。新川さんは、風春祭で、屋台から真帆に話しかけ
てくれた人です。

*************************** 

 てなもんです。
 ではでは。
 
 


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