[KATARIBE 30708] [HA21N] 小説『ソラソラとの遭遇・前編』

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Date: Wed, 31 Jan 2007 01:00:36 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30708] [HA21N] 小説『ソラソラとの遭遇・前編』
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2007年01月31日:01時00分36秒
Sub:[HA21N]小説『ソラソラとの遭遇・前編』:
From:久志


 久志です。
 ソラソラ救済計画。
ということで、夢希とソラソラさんの出会いの取っ掛かり。

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小説『ソラソラとの遭遇・前編』
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登場人物
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 佐柄夢希(さがら・ゆめき)
     :図書館司書。『楽園』に狙われている。超能力者。
 月光線宙空(げっこうせん・そらそら)
     :地雷踏み体質な記者。結構命知らず。

司書さん
--------

 空調の音が響く。
 平日の午前中、図書館はまだ訪れる人もまばらで、静まり返った館内にペー
ジを手繰る音と書架を歩く微かな足音が時折聞こえるほどだった。

 貸し出しカウンターの奥。厚手のクッションののった椅子に座り、ヒヨコの
ワンポイントが付いたひざ掛けを乗せて、夢希はパソコンの図書館利用者画面
を見やった。入力情報をひとつひとつ確認しつつ、パソコンのキーを叩く。

「佐柄さん、調子どう」
「はい?」
 同僚の少々年配の男性の声に顔をあげる。
「最近、薬を飲んでるところ見ないけど。眩暈はよくなったのかな」
「ええ、おかげさまで。このところ……少し疲れが溜まっていたみたいです」
「そう、無理するもんじゃあないよ?」
「はい、ご心配かけてすみません」
 一礼する夢希に頷いて見せて、ずり下がった老眼鏡を指で押し上げてパソコ
ンに向き直る。
 ずれたひざ掛けをかけなおして、再びパソコンのモニタを眺めながら、貸し
出し状況に利用者情報、リクエスト一覧を確認していく。

 一息ついて、傍らに置いた珈琲カップに手を伸ばそうとした時。

 眩暈。
 ここ一ヶ月程から定期的に夢希を襲う予知の前兆。
 歪む視界の中、切り取ったシーンが写真をばら撒いたように浮かぶ。

 散らばる映像、その中で。
 短い髪に小柄な体、机に向かって本を広げたまま腕組みをする女の姿。
 同じく、頭をかきむしる姿。
 同じく、腕を掴んで見上げる姿。
 同じく、視線をこちらに向けながら歩く姿。

 同じく、恐らく一緒に何かから逃げる姿。

「佐柄さん?」
「………あ」
 我に返る。
 夢希の隣で肩に手をかけて心配げに見る同僚。
「いえ、すいません。ちょっと貧血気味で」
「本当に無理しなくていいからね、少し休憩室で横になったほうが?」
「大丈夫です、ご心配かけてすみません」
 具合を案じる同僚に丁寧に頭を下げてパソコンに向き直る。

 短い髪の小柄な女性。
 夢に出てきた少女とも違う、はっきりと目に映った映像。

 彼女は何者なのか。


ソラソラ
--------

「うーん、いい資料がないなあ」
 かりかりと頭をかきながら、短い髪を揺らして本を手繰る宙空。
 目の前のテーブルには、両脇に山と詰まれた参考書籍が並び、バリアのよう
に小柄な体を覆い隠している。
「おもしろそうな事件の情報もちっとも集まらないし」
 ぱたんと本を閉じて、傍らに積上げた別の書籍を手に取る。
「もっとこう、バラバラ殺人とか裏社会の仕置き人とか楽園のなんちゃらとか
の手がかりになるものないかなあ」
 物騒な言葉を口にしつつ、開いた本を一瞥して溜息をつく。
「あーやっぱり本だけじゃあダメだあ、やっぱり聞き込みからかな」
 これまで聞き込みの後で洗脳されかけたり、殺されかけたり、尾行されたり
ということがあったというのに、一向に懲りる様子はない。

「さて、と。とりあえずここらをざっと読んでから〜」
「……すみません、図書館内ではお静かにしていただけませんか」
「あ」

 見上げた宙空。
 傍らで声をかけた夢希。

 ふと、覚える既視感。
 散らばるイメージ。
 眩暈の中、視界の中にばら撒かれた写真に写った姿。

 短い髪に小柄な体、机に向かって本を広げたまま腕組みをする女の姿。
 同じく、頭をかきむしる姿。
 同じく、腕を掴んで見上げる姿。
 同じく、視線をこちらに向けながら歩く姿。

 同じく、恐らく一緒に何かから逃げる姿。

「……あなたは」
「え?」
 怪訝そうな顔になる宙空の視線に、夢希が我にかえる。
「あ、すいません……あの、お静かにしていただけませんか」
「はい、あーすいません」
 俯いてぽりぽりと頭をかく姿。

 間違いなく、それは先ほどの予知映像で写った女性の姿。

「……あの」
「え、わたしまだなにかやらかしました?」
「いえ、その……何を、お探しですか?」
 何故、映像が写ったのか。
 見上げる姿、一緒に歩く姿、何かから逃げる姿。
 それは何の因果で始まったのか。

 何気ない夢希の問いに待ってましたとばかりに宙空が口を開いた。
「そうそう、ええと、最近起こってるバラバラ殺人とか楽園の泉とかそういっ
た楽しそうな話を追ってて……あ、わたし記者なんです。最近物騒でしょ?
何か参考になるものないかなーって思って、お姉さん何か噂とか知りません?」
「あの……」
 一気にまくし立てられ、勢いに押されて口ごもる。

「……楽園?」
 宙空の畳み掛けるような言葉の中、一つだけ夢希の心にひっかかる言葉。
「知ってる!?」
「あの、図書館では静かに」
「うわ、ごめんなさい……知ってるんですか?」
 慌てて声をひそめて真顔で聞いてくる宙空に小さく頷いてみせる。
「お、やった。ちょっと話聞かせて?」
「すいません、今は仕事中で」
「オッケオッケ、仕事終わってから、ね」
 袖を掴んでにっと笑う宙空に思わずかくんと頷いてしまう夢希だった。


時系列と舞台
------------
 2007年1月頃。
解説 
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 佐柄夢希、仕事中に断片的な予知。その中に写った女性とはソラソラ。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 後編に続く。


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