[KATARIBE 30707] [HA21N] 小説『楽園の星見』

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Date: Tue, 30 Jan 2007 22:40:41 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30707] [HA21N] 小説『楽園の星見』
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2007年01月30日:22時40分41秒
Sub:[HA21N]小説『楽園の星見』:
From:久志


 久志です。
楽園の星見、こと佐柄夢希を動かしてみる。

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小説『楽園の星見』
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登場人物
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 佐柄夢希(さがら・ゆめき)
     :図書館司書。『楽園』に狙われている。超能力者。
 ずぶろっか
     :竜子が夢希を護る為に預けたた護法童子。

泉の夢
------

 ゆらゆらと、たゆたう影。
 息苦しくなるような圧迫感とじっとりとまとわりつくような重苦しい感覚。

 コバルトブルーに染まる視界。
 淡い光を帯びた水の中、白い影が過ぎる。

 夜の水族館。
 どこかもの悲しさを感じる、寂しげな空間。
 白い影に護られるように水の中に佇む小さな人影。
 ゆらゆらと揺れる髪、くるりと舞うように水の中で一回転する、まだ大人に
なりきらない少女の姿。こちらを振り向いた少女の顔はどこかぼやけて焦点が
合わず、彼女がどんな顔をしているのか掴めない。
 ぼやけた顔がふと揺らぐ――おそらく微笑んでいる?

 白い手が伸びる。

 そこで、目を覚ました。


朝
--

 目に映る、天井。
 羽根布団に包まったまま、もう一度目を閉じて息を整える。
 まだ少し、動悸が早い。

 目を閉じたまま数度深呼吸を繰り返し、ゆっくりと身体を起こす。

 コバルトブルーの海。
 たゆたう白い影。
 水の中に当たり前のように佇む少女。

 ここ一ヶ月ほど前から幾度と無く目に浮かぶ、謎の映像。
 身体を起こして、胸に手を当てたままもう一度深く息を吸う。ベッドの脇に
置かれた目覚まし時計はセットした時間より一時間早い時刻を指している。
「また、早起きしちゃったな……」
 頬にかかる髪ををかきあげて、溜息をつく。
 ベッドの脇には、つい最近増えた同居人の少女が毛布に包まったままじっと
横になっている。

 佐柄夢希。
 西生駒高校卒業生にして、大学卒業後図書館司書として勤務する、一見ごく
普通の社会人。
 だが。
 右手を伸ばす、視線はそのはるか先にあるクロゼット。
 同時に音も無くクロゼットの戸が開き、中に入った淡い黄色のカーディガン
がふわりと浮き上がり、ハンガーからするりと抜け出して夢希のもとへと飛ん
でいく。目の前で停止したカーディガンを捕まえて、パジャマの上に羽織り、
布団から抜け出す。部屋の入り口に並んで置かれた萌黄色のスリッパが同じく
浮き上がり、丁度床に足をつく寸前で足元に並ぶ。
 スリッパを履いてカーディガンの襟元を寄せて部屋を出る。
 まだ早朝といっていい時間帯、体の芯から凍るような寒さに身体を震わせる。

 念動力――テレキネシス。
 意思の力だけで物体を動かす、SFでよく知られた概念。

 誰から教わったでなく、先祖の血を引いたでもなく、夢希はその力を持って
生まれ、使いこなすことを覚えた。しかしそれが世間と相容れないことも幼い
頃から知っていたし、できる限り隠し続けることが必要であることもまた知っ
ていた。そして、一人で居るときは力を使うことは夢希にとっては日常であり
平穏無事に過ごせていると思っていた。つい最近まで。
 1LDKの賃貸、三畳の洋間と七畳のダイニング。二人掛けのテーブルにつ
いて、食器棚からコップを飛ばし、冷蔵庫のドアを開けて中のオレンジジュー
スのペットボトルを引き寄せる。
 オレンジジュースを一口飲んで、息をつく。
 ペットボトルを元の冷蔵庫へと飛ばし、そのまま台所を一瞥し、のガスコン
ロの取っ手をひねりシンク下に収納してあるフライパンを火にかける。続けて
白いケトルののった隣のコンロに火をつける。
「卵、大丈夫かな。先週買った奴だけど」
 冷蔵庫のドアが開きケースに入った卵がひとつ飛び出す、そのまま一直線に
飛んできた卵を捕まえてシールの日付を確認する。
 賞味期限一日切れ、でも問題ない範囲と判断。
 手から離れて卵がコンロへと飛んでいく、丁度温まったフライパンの上で卵
が真っ二つに割れ、落ちた白身が音を立てて焼ける音が響く。

 水鏡の星見。
 しばらく前に会った男の言葉。

 楽園の泉。
 泉の巫女。
 鳳の騎士。

 溜息をついて手にしたグラスをテーブルに置く。
 はじめは馬鹿馬鹿しいと思っていた、相手にしようとも思っていなかった。
どこかおかしい人なのだと自分に言い聞かせて、ひたすら無視を決め込むつも
りだった、けれど。

 たとえ『見えざる手』があろうと。

 フライパンの中、ぴちぴちと油と水が跳ねる音。
 白いケトルの中、ふつふつと水が沸騰する音。

「……楽園の泉、か」
 カーディガンの襟元を寄せて溜息をつく。
 そこははかとなく、薄気味の悪いものがこみあげる。にやにやと笑ってこち
らを見る顔が脳裏によぎる。
 ふとすぐ脇に感じる気配。
「あ」
 顔をあげた先、小さく小首を傾げて傍らに立つ少女。
「おはよう」
「おはようございます」
 ことんと頭を下げて、向かいの席に座る。
 先日、通りがかりで出会った人がつけてくれた護衛。
 初めて会ったばかりの見ず知らずの夢希の為に、預けてくれた使い魔。
「君は、珈琲は飲めないんだっけ」
「だっけ」
 人の気持ちとは不思議なもので。
 なんとはなしに、そこに誰かいてくれるというだけで不思議と気持ちが落ち
着くのを感じる。
「今度、ズブロッカを買ってきてあげないとね」
「あげないとね」
 ぱちりと瞬きしてオウム返しに答える少女を見て、小さく笑った。


時系列と舞台
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 2007年1月頃。
解説 
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 佐柄夢希、星見としての能力と意外とズボラな私生活。
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以上。

 夢希さん、私生活で手抜き過ぎ。



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