[KATARIBE 30705] [HA21N] 淡蒲萄と真朱 1

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Date: Tue, 30 Jan 2007 17:30:02 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30705] [HA21N] 淡蒲萄と真朱 1
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2007年01月30日:17時30分02秒
Sub:[HA21N] 淡蒲萄と真朱 1:
From:Toyolina


[HA21N] 淡蒲萄と真朱 1
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登場人物
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 淡蒲萄   女子高生の姿をした吸血鬼。80年程存在している。
 真朱    女子高生の姿をした吸血鬼。20年程存在している。
 黄櫨染   医者の姿をした吸血鬼。存在期間は不明だが、三桁は確定。

 ※ 2007年1月時点での説明


父親と末の妹
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 久しぶりに父親に会うことになった。

 以前会った時は、蝉の声を聞きながら蕎麦を手繰ったのを覚えている。今は
一月も半ばを過ぎているから、それから半年ほど経っていることになる。

 彼女の父親、黄櫨染は、小さな診療所の主だ。
 もっとも、彼が往診と称してあちこち出歩いているものだから、診療所はい
つも閉じられたまま。それでも、時折こうしてメールが入ってきて、食事をし
たり、映画を見たり、買い物に出かけておねだりしたり。良好な関係が続いて
いると思う。

 待ち合わせに指定されたカフェは、別段寂れた風でもなかったけれど、彼女
たち以外に客の姿はない。
 ただ、今回はいつもとは少し様子が違っていた。
 黄櫨染の傍らには、一人の女子高生が座っていた。
 なんとなく察しはつくけれど、父親の紹介を待つことにして、席につく。

「淡蒲萄とは初めての筈だね。この子は真朱。ええと、いつだっけ」
「先月の18日です、お父様」
「ああそうだ、三週間ほど前だっけ、娘にした。仲良くしてやって」

 やっぱり、と淡蒲萄は内心思って真朱を見る。こうして新しい妹と顔合わせ
するのも、もう何度となく行ってきたことだ。ただ、ここ十年ほどはなかった
から、少し驚いただけで。
 向こうはいろいろと話を既に聞いているらしく、驚いた風もない。

「初めまして、真朱です、お姉様」
「淡蒲萄です、改めて、よろしくね、真朱」

 あっさりとした自己紹介を経て、少し観察することにする。
 栗色、よりもう少し濃いめの髪は、セミロングで左右に分けられている。そ
の分け方に少し工夫があって、左半面は耳を出しているが、右半面は耳にかぶっ
て、ふわふわと揺れていた。
 目尻と眉尻は両方とも下がり気味で、柔和な印象。薄いピンクのセルフレー
ムの奥には、なんとも捉え所のない瞳がゆらゆらとして、淡蒲萄を映している。
 見た目の年の頃は、自分より一つ二つほど上に見える。もっとも、黄櫨染を
含め、彼女たちにとって外見の年齢は意味がない。
 ただ、かすかな違和感を淡蒲萄は覚えた。それが何であるのか、瞬時に見抜
く術は持たないから、ひとまず留めておくことにした。

 やがて、黄櫨染はブルブル震える携帯電話を片手に中座した。
 テーブルを挟んで対角線に座る二人。すっかりアートが崩れてしまったカフェ
ラテを、淡蒲萄が口にする。
 彼女、真朱で何人目の妹になるのだろう。黄櫨染は流石に見境なく娘を作る
様な人物ではない。とはいえ、淡蒲萄を最初の娘にして、もう八十年は経って
いるから、それなりには娘がいる。淡蒲萄にとっての妹にあたるが、一度会っ
たきりの妹もいるし、会う前に運悪く滅んでしまった妹もいる。

「お姉様は……お父様のことをよく知ってらっしゃるんですよね?」
「ん。名前でいいよ、あと話し方も。なんか恥ずかしーし」
「そう? じゃあ、遠慮なく。淡蒲萄は……お父様のこと、どのくらい知って
るの?」

 ずいぶんと順応が早いと思った。いや、こちらが素だと思うべきだろう。
 髪の色を除けば、優等生と言えなくもない容姿だけれど、これくらいのカモ
フラージュは誰だってやっている。

「どのくらい? どのくらいか……難しーな。もう会って長いし」
「なにそれ、自慢?」
「そんなんじゃないって。ただ、あたしが偶然最初だっただけで。もう全然、
覚えてないんだけど」
「そんなに長いの? あたしもそこはちゃんと聞いてなくって。ただ、あの子
が一番長く居るから、なんでも聞いてみたらいい、って言われたからさ」

 ご丁寧に黄櫨染の口調を真似てみる真朱。あまり似てると言えなかったが、
二人とも眼鏡をしているせいか、仕草や表情は、口調よりは似ていると思った。

「わかることだったら教えれるよ。前どんな車乗ってたか、とか」
「今はアレだよね、なんか薄っぺらくて狭い車。今日乗せてもらったけど」
「2000万円くらいするらしいよ、アレ」
「えーッ、なにそれ、お父様って超金持ち?」
「超かどーかはわかんないけど、お金すごい持ってる。おねだりしたら何でも
買ってくれるよ?」
「うっそ、すご、よかったぁ、え、だましじゃないよね?」

 淡蒲萄は自分の財布を取り出してみせる。薄紫色より淡いその色は、彼女の
名とぴったりだった。

「……ちょ、それエルメスじゃん! マジ? ありえなくない?」
「いやホントホント。お財布とかソッコーだもん。お父様戻ったら、言ったら
いいよ」

 しばらく、そんな父親情報を提供したりしていると、カップにはミルクの泡
がほんの少し残るだけになった。黄櫨染はまだ電話から戻ってこない。淡蒲萄
はカフェラテを再度オーダーする。真朱は、アップルティを頼んだ。
 ふと携帯の時計を見ると、三十分ほど経っていた。そろそろいい頃合いかも
しれないと思い、淡蒲萄は問おうとした。

 真朱が知っているのかどうかは定かでないが、淡蒲萄を含め、黄櫨染の娘達
には、その生前において共通点がある。それ故か姉妹の共感は、他の血族と比
べるとより強い。しかし。
 他の妹たちに感じられる共感が、目の前の真朱からは今ひとつ感じられずに
いたのだった。

「真朱、一つ聞いてもいいかな? 真朱の」
「ん、仲良くしてるね、良かった良かった」

 結果論だが、遮る形で、黄櫨染が戻ってくる。
 いち早く、真朱が立ち上がって抱きついていた。淡蒲萄も立ち上がって、父
親を迎える。

「はい、とても。淡蒲萄はいいお姉さんだって、思ってたところ」
「そう、それはよかった。淡蒲萄、末の妹の面倒、悪いけどちゃんと見てやっ
てくれ」
「悪いなんて思ってないよ、だって嬉しいし、やっぱり」

 左手で真朱を軽く抱いたままで、頭一つ高い位置から右手を伸ばし、淡蒲萄
の後ろ髪を撫でる。
 もう何度となく繰り返された仕草。顔を合わせると必ず行う、ある種の儀式
のようなものだ。撫でる手でそのまま、淡蒲萄を抱き寄せて、首筋に口づける。
つぷり、という小さな音とほぼ同時に、淡蒲萄が小さく呻く。それは、彼ら父
娘にとっては、挨拶の延長線上の行為でしかない。続いて、真朱の首筋にも。

 まだ慣れないのか、揺らいだままの真朱の瞳は、少し上気した淡蒲萄を映し
ていた。


おまけ
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淡蒲萄の財布は HERMES ベアン リラ です。20万円ちょっと。
黄櫨染のクルマは アストンマーティン DB9 です。1800万円くらい。


時系列と舞台
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2004年の年頭。


解説
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うっちゃんとまそっぷ初遭遇。


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Toyolina 



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