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Date: Sun, 28 Jan 2007 16:40:05 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30694] [HA21N] 小説:『夢路』その1
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年01月28日:16時40分05秒
Sub:[HA21N] 小説:『夢路』その1:
From:みぶろ
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小説:『夢路』その1
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登場人物
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当麻漣(たいま・れん)
:怪異喰らいの霊能力者。今回はつかいっぱ。
本文
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「山田さん」振り向いた老人に、誠実そうな表情をつけて話しかけた。「娘さ
んが心配していますよ」
プレハブ造りの道場には、老若男女が規則性なく存在していた。普通なら何
の接点もないような人間同士が、笑顔で会話をする光景は、一種異様なものが
ある。それが宗教の持つ平等性であり、魔力なのだろう。プレハブの隣で建築
中の新道場の存在は、少なくとも魔力の証明にはなる。
「美恵子に頼まれたんか。なんぼもろうたんや。わしは――」
「15,750円です。税込み」
新興宗教に入れあげた父を連れ戻してほしい。それができないなら――知り
合いの法律事務所にもちこまれたのは、ありふれた依頼だった。自分を理解し
ようとしない家族が、無駄な金を使って連れ戻そうとしている、そう激高しか
けた山田老に、漣はあっさりと下請けしたバイト料をつげた。
「安いな」「ええ、ですから私もあまりやる気なくて」「それはアカン。仕事
請けたらきっちりせんと」「ですよね」「兄ちゃんカタギとちゃう仕事してん
ねやから、性根持っとらんとワヤんなる。ジシュ、ジリツ、ジセイや。な?」
山田老は照真教で教わったらしき説教を展開しはじめた。彼の後ろの壁には、
自主・自律・自省と書かれた、ヘタウマな字の額がかかっている。あいづちを
うちつつ、せめて興味ある話題も聞こうと、教団の組織についても水を向けた。
そもそも、漣がここにきたのは、本来法律事務所の知り合いが怖がったから
である。『照真教に行くと、もどれない』それはミイラ取りがミイラになる事
例が多発したことにより発生した噂だった。人の心を虜にする魔物の棲家――
にしてはやけに穏健な印象であったが、やはり危険はないほうがいい。そこで
万一の場合でも対処でき、説得もできる漣に話が回ってきたのだった。
ちなみに漣は、仲間由紀絵似の手品師をアシスタントにつけろと主張したが、
通らなかった。さすがにバイト料は1万5千円ではなかったが。
「……ははあ、じゃあしつこく電話したり、壷やお守り売るわけでもないと」
「せやせや。わしも商売しとったんや、変なとこに騙されるわけないやんけ。カガミさまはそんなんちゃう。まあ自分から欲しがるやつもおんねんけどな」
いやそれは怪しい。というツッコミをこらえ、漣は機が熟すのを待った。
「じゃあ、娘さんには私から、『そんなに心配するほどのことじゃない』と説
明したほうがいいのかもしれませんねえ」
「おう。そうしたってくれ……だいたい、ここやめさしても他にいくかもしれ
んやろ」
「宗教、お好きなんですか」
「若いころは興味なかった。せやけどこの年になるとな。自分が頼れへんのや」
「……」
「足腰弱って立てへんようなった人間が、リハビリうけたり車椅子買うんは散
財か? 何も全財産かきあつめて寄付するわけでなし、放っておいて欲しいん
や」
そろそろか。山田の主張する正当性を聞きつくして漣は、本題を切り出した。
「……山田さん。実はね、娘さんはあなたに対する成年被後見制度の適用を考
えているんです」
「せいねんひ、なんやて」
「つまり、うちのおとんはボケてきたから、勝手に変な契約せんようウチが監
視しますわ、という制度です」
言葉の意味が山田に浸透するのを見定めて、漣は続ける。「まあ通らないと
思いますけどね。山田さんしっかりしてますし。でも判断するのは裁判所です
から」
「うーん」
思いも寄らない方向からの情報に、山田は困惑していた。
「ですからね、一度帰って話し合うふりをしてはどうですかね。ボケてない証
拠作りになりますし。もちろん、この話はオフレコですよ。あなたが知ってい
るということを相手が知らない、というのがポイントです。商売でもそうでし
ょう?」
「せやな」
乗った。相手のやりたい事を否定せず、外的な障害要因を一緒に解決する姿
勢。山田は完全に漣を味方だと信じている。彼は娘から連れ戻しの依頼を受け
た人間だということを忘れている。あとは、丁寧に帰れない理由を潰していく
だけだった。
「兄ちゃん、おとなしく帰ったるから、5000円分け前しいや。消費税まけ
といたるさかい」
「あなた絶対ボケないですよ」
「あったりまえや」
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