[KATARIBE 30689] [HA21N] 小説『蛟・承前』

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Date: Sat, 27 Jan 2007 00:28:11 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30689] [HA21N] 小説『蛟・承前』
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2007年01月27日:00時28分11秒
Sub:[HA21N]小説『蛟・承前』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
技能値の高い06、との意見もある21ですが、
んじゃあ21でしか書けない話を!!
…………と、今のとこは思ってますええ。

…………意欲と心が大事なんですっ(居直った)

 てなわけで。

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小説『蛟・承前』
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登場人物
---------
 薬袋光郎(みない・みつろう)
   :静かなバーを営む初老の男性。心の声を耳に聴く。薬袋一族の分家。
 薬袋隆(みない・たかし)
   :薬袋の家の本家。今宮タカの母親の弟。過去見の能力者。

本文
----

 古びた和紙の破片が散らばっている。
 不規則に敗れた紙の、そのちぎられた線もまた古び、黄ばんでいる。その上
に何やら墨で描かれている、その墨の色もすっかり乾き、背景の紙色と馴染ん
でしまっている。
 はらはらと、散らばった和紙の破片を目で追うと、その先にあるのは皺の寄っ
た細い手、指の間に絡むように残った破片を、もう一組の指がそっと取り上げ
た。

「……莫迦ですよ、母さん」
 ほんのりと笑った男は、まだぎりぎり若いと言える年齢のようだった。優し
げな顔には悪意の微塵も無いまま、彼はゆっくりと破片を拾い集める。
「貴女は怒ってはいけなかった。ここは堪えて、黙って僕の言うことを聞いて
いれば良かった。でなければ僕は、貴女には手を出せなかったのだから」
 
 一枚、一枚。
 丁度親指ほどに千切られた紙は、一体どれほどあることだろうか。
 厚手の紙の間から、細い繊維が伸びている。それさえも微かに黄ばんでいる
のに、男は微かに苦笑した。

「……長かったねえ」
 一枚、一枚。
 いとおしむように拾い上げて、手の上で撫でる。
「これで……確か、半分くらいだったっけね」 
 じっと見ていた男は、中の一枚をつまみ上げ、ひょい、と、テーブルの上の
硝子の皿の上に置いた。
 そして、ポケットから取り出したマッチをすり……火を、つけた。

 紙の燃える、あの乾いた匂い。そしてどこか……重いような香の匂い。
 男の黒い、虹彩と瞳が均質の目が、燃えてゆく紙の、その火を写している。

「解放、しようよ」
 ゆっくりと、男の手が動く。惜しむように、けれども躊躇いは無い様子で。
「長い長い捕囚の身から」
 
 一枚、また一枚。
 硝子の皿の上で燃えてゆく紙と、その火の揺れる度に射す影と。

 その影の先に、倒れている年老いた女と。

「ゆっくり送ってやりたいんだけどね」
 男はくすっと笑った。
「この人を、このままにしておくわけにもいかないから、ね」

 そう、彼が殺したわけでもないのに、そのような罪を着せられても面白くな
い。
 もし彼が手を出したなら、それはそれで……問題だろうが。

「さて、これで……半分か」

 ざあ、と、手の中の紙を皿の上にあける。ぱちぱちと飛ぶ火の粉を、男は微
笑みながら見やった。

「これで、半分……か」

 淡く笑った顔を、揺れる影が縁取り、一瞬……その表情をひどく人間離れし
たものに変えた。


              ***

 淡蒲萄の料理下手は、既に双方自明のことでもある。
「……ゆでたまご、ねえ」
 鍋に水を入れ、火にかけてしばらくすれば出来る筈である。実際、アーサー・
ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』では「ゆでたまごは料理に入らない」と
まで言われていた代物でもある。つまりそれだけ、単純かつ……その茹で加減
をいちいち気にしない限りは……間違いようの無い料理の筈、なのだが。

(卵割れちゃうんだもの)
 それは……まあ、彼女の力であたれば、そういうこともあるだろうが……

「何でまた、割るまで勢い良く混ぜるかな」
 洗い終わったグラスを伏せながら、光郎は笑いつつ一人ごち……そしてふと
表情を変えた。
 同時に、重い扉がゆっくりと開く。
 開いた、一見客に見える相手の顔を見るなり、光郎の表情がこわばった。

 黒い、肩を過ぎるくらいに伸びた、柔らかそうな髪。漆黒の髪が包むのは卵
型の白い顔。瞳と虹彩の色が均一の目は、この国では滅多に見られない琥珀の
色合い、それが薄ら寒いほどまっすぐに光郎に焦点を合わせている。
 もし淡蒲萄がここに居れば、声をあげたかもしれない。どこかあどけない顔
立ちも、そして何より……色こそ違えどその目も、異様なほどに彼女が最近知
り合った少女に似ていたのだから。
 ただ、始終ころころとその表情を変える少女に比べて、この娘の表情は、そ
れこそ陶芸の作品に勝るとも劣らず……変わることが無かったのだが。

「君が来たということは」
「ええ。予測が当たったということでしょう」
 音楽的なまでに整った声は、しかしやはり微塵のゆらぎも無い。
「母が亡くなりました」
 はっと光郎が息を呑む。
「まさか」
「いえ……そこは微妙です。直接手を出したということではないようですが」
「きっかけは」
「多分」

 最小限度の言葉が、最大の情報を伝えている。そんな会話。

「何にせよ、あれは貴方を狙うと思われます。大丈夫なのですか」
「今のところは」
 短く答えた光郎は、少し表情を崩した。
「こちらは……タカ、といったっけ、彼女はあてにして良いのだろうか」
「良いと思います」
「いいのか、こんな時に離れていて」
「寝ておりますから」

 きろん、と、琥珀の目が動く。

「ならばいいが……それにしても」
 ふ、と光郎の表情が変わる。どこか沈痛な、どこか憐れむような。
「私も形代となった者を初めて見た。この場合……なんと呼べばいい?紗弓と
でも呼ぼうか?」
「いえ」
 娘は一つかぶりを振った。艶やかな黒い髪が、さらりと流れた。
「形代でありますゆえ…………今は、タカがつけてくれた名を」
「ほう」
「……みやま、と」

 白皙の顔に、能面のような無表情を貼り付けたまま、タカにそっくりのその
娘はもう一度繰り返した。

「みやま、と、お呼び下さい」


解説
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 薬袋の一族と、古き蛟の話。そのはじまり
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 てなわけで。
 うん、話は降ってきたんだけど、いったいそれがどうなるかは己にも不明です(こらっ)

 であであ。
 



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