[KATARIBE 30662] [HA06N]小説「貘による他愛も無い動作 〜珍しきは部活動。編〜」

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Date: Mon, 22 Jan 2007 10:24:13 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30662] [HA06N]小説「貘による他愛も無い動作 〜珍しきは部活動。編〜」
To: "kataribe-ml@trpg.net" <kataribe-ml@trpg.net>
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 こんにちは、と言うよりお久しぶりです。蜃楼鋒です。
 チャット参加を全くしていませんが……今回は入院ではなく(それでも体調
は思わしくないのは事実だったりしますが、以前よりは回復しました)中途採
用での暇なし労働によるものです。
 リハにもならない駄文ですが、お付き合いください。

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小説『貘による他愛も無い動作 〜珍しきは部活動。編〜』
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登場人物
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 本多旅邁(ほんだ・つらゆき)
  :傲慢不遜、食道楽な貘。

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 ある休日の、長閑でうららかな午後――

 本多旅邁は、いつもの如く軽快に部室の扉を開けた。大きな音が室内中に響
き渡る。
 辺りを見渡し、そして自嘲気味に笑う。どうやら、誰も居ないらしい。
 当然だろう、居ない時間を選んで来たのだから。

   さて……

 足でドアを留めておき、両脇と後方からカートを引っ張ってくる。そこに乗
っかってる荷物はと言うと、大量の絵具とスプレー、それに大量の瓶。
 それらを苦労して引き摺っている。見た目はさながら、教室の床とローラー
が擦れて嫌な音が響いていることからでも、どれだけ重いかを物語っている。

 舌打ち。少々、音が不快極まりない。
 荷物を入り口付近に置くことにした。その代わりとして、部屋の中央に鎮座
していた机を三つほど引っ張ってくる。意外なほどあっさりと運べたりする。
 根性がないと思われるかもしれないが、これでスプレーと瓶が結構な重量に
なるのだ。張り切りすぎて用意しすぎたのが失敗だったか。

 隙間の出来ないように机を並べると、部屋の棚に置いてあるガスコンロと鍋
、それと包丁とまな板を持ってくる。
 ここまで来るのにやや無駄な動きはあったが、別に料理がしたくて今日出向
いた訳ではない。セッティングは見事に料理支度のそれと同一だが、『料理』
ではない。

  作る物は、料理なんだけどねぇ……

 苦笑すると、手始めに鍋いっぱいに水を注ぎ、沸騰させる。その間に、必要
な絵具の色を脇に出しておく。
 ある程度の温度までになったら、瓶の蓋を開ける。中身を覗いて見ると、何
とも粘り気のありそうな液体。あまり、見ていて気持ちのいい絵図ではないだ
ろう。
 嫌な顔一つせず、旅邁は瓶を逆さまにし鍋に投下する。ドロっとした液体が
湯の中で踊り、熱によって固まろうとして……

 と、次の瞬間。何を思ったか素手のまま熱湯鍋に手を入れ、その液体を熱湯
内で手元に引っ張る。湯船の中で、物体が薄く引き延ばされる。
 取り出し、すぐさま手で皺くちゃに丸め込み、元に戻す。こうすることによ
って、容がとある食べ物とそっくりに為るのだ。
 さっきまで熱さに顔を歪めてたものの、その出来栄えに満足げに頷く。実は
旅邁、これをやりたいがために、わざわざ先に湯を沸かしたのだ。
 出来上がった物体をまな板の上に乗せ、火を止める。コンロや熱湯はまだ使
う機会はあるが、大分先になる。

 更に瓶の蓋を開け、手に纏わりつくようなあのドロドロ状の液体を、予め用
意しておいた型に器用に流し込む。その数、およそ十個。
 それらを一滴も零さずに指定量まで入れると、レンジ型のいかにも怪しげな
機械に入れる。過去に使った感じ、瞬間的に高熱で固める、見た目通りレンジ
の改良版らしいものであろうか。
 部長の御厨正樹制作の機械であるからして、絶対的な信用はしないことにし
ている。

 それ以上にもっと考えなければならないことがあるのだろうが、残念ながら
旅邁の頭の中には、それ以外の感情は存在していないらしい。
 待つ間、もうそろそろ色の準備をしておこうかと手を伸ばしかけた所で、レ
ンジ紛いの機械にに内蔵されたタイマーが鳴った。
 思った以上に出来上がりが早かったらしい。仕方なしに一時中断し、先に型
から取り出す事にした。
 見た感じ、どれもこれもなかなかどうして思い通りの形に仕上がっている。
奴にしては、珍しく実用的なものを造るではないか。

  道具があれば、僕だってこれぐらいは出来るさ……

 型の一つをはずす。中から、細長い物体が現れる。先端部分に、尾鰭のよう
なものがくっ付いていた。
 手で触れる。感触的には心なしか熱かったものの、型崩れを起こすことはな
かった。
 目を細めて――あくまで旅邁自身の中での仕草だ。彼の目は、元から細いの
であるからして、傍目からでは判断し難い――作業用の手袋をはめる。
 尾鰭の部分をピンセットでつまむと、エアブラシで吹き付け、「エビフライ
」の衣色に仕上げていく。

 ……ここまで来ればもうお判りだろう。本日、本多旅邁は料理サンプルを創
作しているのだ。

 取り敢えず、下生地は一色だけで止めておく事にする。尻尾の部分も塗らな
くてはならないし、造っていく過程で、何度も色を重ねる必要があるからだ。
 元々、手先は器用な部類だと自負している。幼い頃は、実家のプラモデルコ
ンテストで優勝したことだってある。

  その時の経験と感覚が、まさかこんな所で生きてくるとはねぇ……

 一通りエビフライを塗り終えると、天日干しの様にぶら下げておく。平面状
の机に乗せておくと、折角塗った絵具が台無しとなる。
 今度は、表面がかさかさした楕円形――「トンカツ」を、包丁で一口サイズ
に刻んでいく。
 まな板と包丁は、これでいてサンプル食品を作るのにも結構役に立つのだ。
包丁は、市販されてるどのナイフよりも切れ味はある程度保証されてるし、ま
な板だって、頑丈に作られている。
 本来の旅邁の性格からして、食べ物以外に料理道具を使用することを堅く禁
じるだろう。実際、彼は今でもいい顔はしない。
 しかし幸か不幸か、ここの部活にある同所属の蒼雅紫の手によって、料理道
具一式は完全に汚染されてるのだ。汚染されてしまってる以上、今更目くじら
を立てることはしない。
 何の躊躇いもなく、別の用途での使用が可能なのだ。

 本多旅邁が、「創作部としての部活動」を真面目に取り組もうとする事自体
、かなり珍しいことだろう。それが、食品を『ある種』弄んで成り立つのであ
ろう、食品サンプルの作成。
 正樹や渚がこの場にいたら、確実にぶっ倒れているに違いない。

  要は、『真の食品』でなければよいのだろう。
  これならば、誰にも迷惑はかけまい。

 鼻で笑うと、切り口をバーナーで焼き入れをする。これも正樹の私物だ。と
言うより、制作に使う道具一式はほぼ正樹のものなのだ。
 頃合を見計らって直ぐにバーナーから離すと、やや凹凸面が粗い型に判子の
ように捺していく。こうすることで、実際の肉の切り口そのものが出来上がる
のだ。

 他人の道具を無断で使っときながら、道具さえあればとか迷惑をかけないと
かの発想が出てくること自体ピントがずれてると思うのだが、残念ながら作業
に没頭している――それではそれで言い訳にはならないが――彼には、「これ
が正しいこと」と信じて疑わない。
 それが“Tsuraranism”(PL銘々。寒気を覚えるかもしれないが、我慢して
欲しい)なのだ。

 具材の作成は粗方終わってしまったため、別の作業――丼に、米を一定量ま
で敷き詰める段階に取り掛かった。
 白米も予め用意していたものだが、それまでとは違い目に見える部分を塩化
ビニルで模ったモノのではなく、一粒一粒を丁寧且つ大量に生産した代物だ。
 この作業には、一つたりとも抜かりは許されない。根が真面目だけに、自分
がやりたいと決めた事には突き進む性格なのだ。
 そのためには、周りを無関係に巻き込むはずなのだが……

 それぞれの具材を米の上に乗せ、別に用意した液体――やや濁りを入れて半
透明にした塩化ビニル――をその上から少量ずつ均等にかけ、光沢を出してお
く。本当は蝋にするべきだったのだろうが、今回は塩化ビニルのみでの試作段
階を目的としているため、見送ることにした。

 今回ばかりは、不思議と独り黙々と静かに、しかも逃げるように隠れてこそ
こそと作業をしている。
 正樹の道具を無断で使うことを、後ろめたいと感じている風にはみえないの
だが……

 総括的な仕上げとして、エアブラシで細部の焦げ目等を再現する。こちらも
、彼ならではの拘りがあるらしい。
 その気配りと根性を、是非とももっと別の有意義な場所へ使って欲しいもの
だ。例えば、正樹の道具を許可なく使わせてもらっていると言う「感謝」とか
「申し訳ない」とかの気持ちを出しておくとか。

  ふむ、完成っと。

 パンパン、とばかりに両手を掃う。
 長時間に及ぶ作業の甲斐あってか、誰がどう見てもサンプルとは見破られな
い出来栄えに仕上がっていた。その証拠に、西へと沈みかけを開始していた太
陽の姿はなく、ほぼ完全な闇夜と化した時間帯になっていた。
 造ったのは三種類――カツ丼と海老天丼と鳥南蛮丼。いずれも、吹利大学の
食堂に掲げてある品々ばかりだ。
 と――――

 太股の辺りから振動。携帯電話が鳴っているのだ。

  はんっ、いやによいタイミングだ。

 サブディスプレイを見る。イルミネーションから、メールだ。送り主は……
姉様からだ。おそらくは、帰りが遅いのを心配しての連絡であろう。
 その時点で、彼の頭の中には『片付け』よりも『帰宅』の方を優先させるこ
とにした。
 余った塩化ビニルと絵具は自分のロッカーに仕舞い、借りた道具と運搬に使
ったカートはそのままにしておく。
 代わりに、鍋とガスコンロだけは指定位置に戻し、使用した食品の型は全て
持ち帰ることにした。替えが利かない訳ではないが、再度手に入れるのも面倒
だからだ。
 手早く手提げに仕舞い込むと、足取り軽くさっさと教室を後にした。無論、
戸締りと消灯は忘れていない。
        ・
        ・
        ・
 その時。サンプル食品達もさっさと別の場所へ片付けておけば良かったと、
後々になって後悔する羽目となる。



時系列
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 2006年の、ある日の休日

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 サンプル食品と言うは、どれも美味しそ〜なんですよね……食べれないけど
(苦笑)    製作過程は結構適当ですが、ご容赦ください。
 今後の展開は……ま〜どうにかなるでしょう。チャット参加は未だ難しい状

況かもしれませんが(ぁ


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