[KATARIBE 30660] [HA06N] 小説『悪夢祓い』

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Date: Sun, 21 Jan 2007 00:33:47 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30660] [HA06N] 小説『悪夢祓い』
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2007年01月21日:00時33分47秒
Sub:[HA06N]小説『悪夢祓い』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@渋滞の先頭の車みたいーです。
 つまり、とろい!<何を威張ってるか。

 というわけで、温泉話の続きです。

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小説『悪夢祓い』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く


本文
----

 なんとなくなんとなく。
 あたし達はその日を、ゆっくりと過ごした。

 一緒にお風呂に入った後、お昼をみんなで食べて。
 午後は雨竜とベタ達にせがまれて、ころころと流れる音を頼りに川にまで行っ
て、しばらく遊んで。
「こら、そこで水の中に入らないっ」
「きゅーっ」

 ぱたぱたぱた。
 ベタ達の、柔らかく羽ばたく鰭の音。
 ころころと、高く音を響かせる川。

 部屋に戻って、またひとしきり走り回って。
 ご飯の用意をしてもらう間だけは、籠に全員入ってもらって。
「……こういうの作れたらなあ」
「作れない?」
「…………簡単に作れたら、こういう旅館の料理人さんは職にあぶれます」
 色合いも盛り付けも一流で、そう考えるとこの旅館の格って相当高いのかな
と思ったりするし。
 そう考えると、本宮さんの紹介って……かなりの伝なんじゃないかな。

 
 ふんわりと布団を広げて。
 昨日と同じように、ちびさん達は片方の布団の上に乗っかって、やっぱりそ
のままぱったりと横になってしまった。
 一人分の布団に、ベタ三匹と雨竜一匹。
 大の字でもおつりがくる。

「もう、明日帰るんだね」
「そだね」
 いつものように頭の下に、相羽さんの腕がある。
 いつものこと……なんだけど。
「…………帰りたくないな」
 そうだね、と呟いて、相羽さんはただ頭を撫でる。
 何度も……何度も。

 眠りたくないのに。
 眠るなんて、時間が勿体無いのに。

 のに…………


         **

 夢を見た。
 夢だ、と、判っていた。

 相羽さんは黙ったまま、あたしの向かいに座っていた。
 真っ白な、浴衣……ともちょっと違う。一番近いのは。
 近い、のは。

 すう、と、相羽さんの手が動く。
 細い、銀の光が、闇の中に小さな弧を描く。
 その、弧の先が、まるで流れるように…………

(相羽さんっ……!!)

 叫んだ途端に思い出す。この人が着ている、この衣は。
 この衣に一番近いのは。

(白装束…………っ)

 過ぎった途端、悲鳴が漏れた。
 銀の刃は、思いそのままに……

 相羽さんの、白い衣の中に。
 吸い込まれる……ように。

            **

「……ほ」
 ゆさゆさと、肩を揺すられる。
「真帆!」
「……っ」
 殴られるように、目を開けた。
 目の前に、相羽さんが居た。
「……真帆」
「あ…………」
 薄暗い中、ほっとしたような笑みが目の前に広がるのがわかった。
 同時に……涙がこぼれた。

「夢を見た?」
 とんとん、と、身体を包んだ手が背中を叩く。
「……悪夢?」
 問う声は優しくて、尚更に涙が出た。

 ずっと二日間、この人と一緒だったのに。
 一緒に居て、少しの不安もなくて、ずっと安心していたのに。
 ……なのに。

「やってみようか」
 ふ、と、肩口で声がした。
「…………え」
「悪い夢を見ないおまじない」
 泣き声を飲み込んで、声を出す。声を出す前にひくっと喉が鳴った。
「……おまじ、ない?」
 うん、と、頷いて相羽さんは少し眉をしかめた。丁度記憶の先を追うかのよ
うに。
「確か母親がやってくれたような」 
「……お母さん、が?」
 うん、と頷いて、相羽さんは少しだけ離れた。向き合ったまま、両手を取っ
て握る。
 窓越しに入る僅かな光の下で、相羽さんの表情がくっきりと見えた。
「ほら真帆」
 じっとこちらを見る目。
「俺の目を見て」
 正座をした膝がぶつかりそうな距離。相羽さんは一度、こつんと額をつけた。

「真帆の悪夢を、全部斬り払うから」

 言葉と同時に、片手が離れる。その手が目の前で素早く動いた。
 十字を切った指が、綺麗な残像を描いて目の中に残った。
 瞬きをすると同時に、その指が、とん、と、鼻先をつつく。

「ほら、斬った」
 にっと笑う、顔。
 本当に、それだけのことなのに。
 何故だか……無条件にほっとした。

「もう大丈夫」
「……うん」
 頷くと、相羽さんはくくっと笑った。

「寝よか」
「うん」

 大丈夫。
 悪夢は全部、この人が斬ってしまうから。
 もう、全部…………


 眠りに落ちる直前まで、額を撫でていてくれた手。
 何度も、何度も。

時系列
------
 2006年9月初め

解説
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 温泉の二日目の夜。旅行の原因の一つ、真帆の悪夢を斬る先輩。
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 てなもんです。
 ではでは。
 


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