[KATARIBE 30608] [HA06P] エピソード『シール一枚』

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Date: Sat, 6 Jan 2007 23:42:55 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30608] [HA06P] エピソード『シール一枚』
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2007年01月06日:23時42分55秒
Sub:[HA06P]エピソード『シール一枚』:
From:久志


 久志です。
若戸さんこと馬鹿殿、薗煮と同期らしいです。

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エピソード『シール一枚』
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登場人物
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 薗煮広矢(そのに・ひろや)
     :吹利県警、ノリノリ熱血広報。マメシバン仕掛け人。
 若戸謙二(わかと・けんじ)
     :吹利県警警部。出世命のゴマすり男、通称・馬鹿殿。
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県警生活安全部少年課、ヒーローマメシバン。

企画
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 吹利県警、デスクに向かって座った某お偉いさんと向かい合って立つ薗煮。
 自信たっぷりの笑みを浮かべる薗煮の顔を少し困惑気に見ながら、手にした
企画書と一枚のシールを手に取る。

 エライ人   :「これが……マメシバン防犯シールと。そしてマメシバン
        :指差し安全確認数え歌」
 薗煮     :「はい、自慢の出来です」 
 エライ人   :「……これを幼稚園小学校で配って、子供達には歌で指導
        :をする、と」 

 少し訝しげな顔で薗煮の顔をちらりと見上げる。

 薗煮     :「はい。指差し確認数え歌で防犯意識を持ち、自身で確認
        :をすることを覚え、かつシールを張ってもらうということ
        :でその意識を明らかにする。これはただのお遊びではあり
        :ません、立派な自衛活動です」
 エライ人   :「……そうかもしれないが」

 口を濁しながら目を瞬かせる。
 煮え切らない言葉に、デスクに両手をついてきっと上司を見据える。

 薗煮     :「効果は私、薗煮広矢が保証いたします。見かけでなく結
        :果を見て判断してください。犯罪の抑制とは検挙だけでな
        :く、その母数たる発生を抑えることも重要だということを
        :ご理解いただきたいのです」

 ばん、とデスクを叩いて身を乗り出す。

 エライ人   :「……わかった」 
 薗煮     :「はい、おまかせください。必ずや成果を挙げてご覧に入
        :れます」

 きらりと笑顔を浮かべて、背筋を伸ばして敬礼する。そのまま一礼して颯爽
と部屋を出て行こうとした時。
 入れ替わりに入ってきた男と目が合った。

 若戸     :「……薗煮か」
 薗煮     :「これは、若戸警部殿」

 通称・馬鹿殿こと若戸謙二、薗煮と同期にあたり総代(警察学校首席)の座
を競った仲でもある。
 警察一家に生まれ、吹利県警採用後一年間の交番勤務を経て機動隊に所属し、
対テロ特殊部隊に抜擢されるという隠れた実力者だった薗煮と。片や採用後交
番勤務の後、内勤を渡り歩いてひたすら上への根回しと情報操作で階級を上げ
ていった若戸とは犬猿の仲でもあった。

 若戸     :「お邪魔かな、企画人殿」
 薗煮     :「いいえ、こちらはお話終わりまして。どうぞ若戸警部殿」

 いかにもわざとらしく頭を下げて道を空ける。
 じろりと薗煮の顔を一瞥して、眉を顰めてすれ違う。

 エライ人   :「ああ、若戸くんか」
 若戸     :「失礼いたします」

 一礼して、デスクに置かれたシールを一瞥する。

 若戸     :「……薗煮の新しい企画ですか」

 シールを手にとって大仰に首を振る。

 若戸     :「馬鹿馬鹿しい……たかがこんな防犯シール一枚貼り付け
        :た程度で本当に犯罪抑制効果が期待できるとでも思ってい
        :るのでしょうかね」 

 ことのほか大きな声ではき捨てるように話すと、シールをデスクに放る。
 明らかに、まだその場にいる薗煮の耳に届くように。

 薗煮     :「…………(唇を噛む)」

 一瞬身を硬くして、振り向かず歩いていく。


たかがシール一枚
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 吹利県警、休憩室。
 椅子に座って、片手にホット缶コーヒーを持った和久の隣に立つ薗煮。

 和久     :「……マメシバン防犯指導キャンペーン、ですか」 
 薗煮     :「そのとおーーーり」

 自信たっぷりに答える薗煮の隣で、シールを眺めて不安げな顔になる。

 和久     :「……防犯指導、はわかるんですけど……本当に効果ある
        :んでしょうか」 
 薗煮     :「ふふ、お前も疑うか?」 
 和久     :「あ、いえ……ですが本当にシール一枚で」

 和久の問いに薗煮が軽く肩をすくめる。

 薗煮     :「俺だって思ってないさ」 
 和久     :「え?」
 薗煮     :「問題はシールの良し悪しでなく、そのシールを貼ろうと
        :いう子供達や保護者達の心構えだ」 
 和久     :「……心構え」
 薗煮     :「そう、防犯について前向きに検討している、また、マメ
        :シバンという県警の企画に興味を持っている。その指導を
        :何らかの形で受けている」 

 真剣そのものの薗煮の顔を見て、心持ち背筋を伸ばす和久。

 和久     :「はい」
 薗煮     :「これは心理的に大きな効果だ」

 きっぱりと断言する。

 薗煮     :「犯罪者とはな、豆柴。基本的に臆病なもんだちょっとし
        :た心理効果でも効き目は充分にある」 
 和久     :「……はい」 
 薗煮     :「治安状況というものは、犯罪を起こす人間の心理状況が
        :如実に反映されるものだよ」 
 和久     :「はい」

 神妙な顔で答える和久の額にぺち、とシールを貼り付ける。

 和久     :「あ」
 薗煮     :「たかがシール一枚されどシール一枚。侮るなかれ、だ」 
 和久     :「…………薗煮さん」 
 薗煮     :「さあて、いくかマメシバン。吹利の平和を守るため」 
 和久     :「はいっ!薗煮さんっ!」 

 こきこきと背中を鳴らす薗煮に呼応するように立ち上がる。

 薗煮     :「ふふふ、マメシバン防犯数え歌二番にマメシバン詐欺に
        :ご注意五七五も順調に進んでいる、ふふふ、県警は変わる、
        :俺が変える!」 
 和久     :「薗煮さん……」

 照れ隠しなのか、うって変わっていつもの軽い口調に戻って歩いていく薗煮
に続いて、微かに笑ってついて行く和久だった。


時系列と舞台
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 2006年12月頃。
解説 
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 年末に出した薗煮の新企画。ああ見えて真剣に考えてるようです。
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以上。



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