[KATARIBE 30582] [HA06L] 「元旦の風景:三十郎と頼子」

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Date: Thu, 4 Jan 2007 19:51:49 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30582] [HA06L] 「元旦の風景:三十郎と頼子」
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2007年01月04日:19時51分49秒
Sub:[HA06L]「元旦の風景:三十郎と頼子」:
From:Saw


[HA06L]「元旦の風景:三十郎と頼子」
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登場人物
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 津山三十郎 :紫鏡の伝説により20歳で死ぬ男。趣味で猫耳ついてる。
 大江頼子  :三十郎の幼馴染。年下の女子と大分年上の男が好き。

本編
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 年明けの午前1時。
 いつものように互いのベランダで鉢合わせる二人。

 三十郎    :「寒いな、流石に」
 頼子     :「じゃあ出てこなければいい」
 三十郎    :「まあとりあえず、あけました」 
 頼子     :「はいよ、おめでとさん」 
 三十郎    :「煙草一本いいか?」 
 頼子     :「一本と言わずまとめてやるよ」

 メンソール煙草のボックスとライターを投げて寄越す頼子。

 三十郎    :「サンキュ。どうした」 
 頼子     :「禁煙」 
 三十郎    :「またか。2週間に2000」 
 頼子     :「じゃあ1週間に2000。払えよ?」 
 三十郎    :「貴様、やめる気皆無じゃないか」
 頼子     :「いいんだよ。止めようとしたという過程が大事なんだ。し
        :かし新年か。あー、めんどくせー」 
 三十郎    :「年明けの感想としては最悪の部類だな」

 煙草をくわえ火を付ける三十郎。メンソールが口に合わず眉を顰める。

 頼子     :「……そういや、吹利大受けるんだって?」 
 三十郎    :「ああ。お前みたいに推薦で上がる努力はしてなかったが、
        :実は一応願書だけは出しといた」 
 頼子     :「ふーん。あたしゃてっきり卒業後旅にでも出るのかと思っ
        :たよ」 
 三十郎    :「それも考えたのだがな。本当の自分を探して遥かなるガン
        :ジスへ。津山三十郎涙のインド放浪〜」
 頼子     :「なんだその癪に障る発声法」
 三十郎    :「癪に障るとか言うな。知らないのか? ウルルン滞在記」
 頼子     :「寡聞にして知らんな。まあ安心しろ。インドなんぞ行かな
        :くとも、お前の場合その猫耳辺りにレゾンデートルとやらは
        :集約しているよ」 
 三十郎    :「ああ、オレもつい先日それに気付いてしまったのだ」
 頼子     :「あちゃあ。認めちゃったよこの人」
 三十郎    :「ありがとう、ニャホニャホマタクロー先生」 
 頼子     :「なにそのガーナのサッカー協会会長。猫耳の名前?」
 三十郎    :「ああ。この先端部が少し白みがかってるのはニャホニャホ
        :なのだ」
 頼子     :「意味がわからん。というか猫耳色々持ってるのかよ」
 三十郎    :「き、貴様! 今の今まで気付かなかったのか。毎日服に合
        :わせて猫耳使い分けていたのに」
 頼子     :「気付くかそんなもん」
 三十郎    :「おのれ、乙女心のわからん奴よ」
 頼子     :「お前にだけは乙女心を語られたくない」

 呆れた視線を受け流すように、三十郎は自ら吐いた紫煙で視界を覆う。

 三十郎    :「……それにしても、誰に聞いたんだ?」 
 頼子     :「古典の岡崎」 
 三十郎    :「そういうのって普通秘されるものではないのか。オレのプ
        :ライバシーとかって何処に」 
 頼子     :「それが(学)級支配者たる私と三文猫耳文士の差よ」
 三十郎    :「猫耳はわかるが三文文士はどこから」 
 頼子     :「中一のとき書いてたじゃないか。邪冥暗殺剣の使い手ヤマ
        :トが猫耳を持つ仲間達と集って、惑星ガイラを救う小説」 
 三十郎    :「そ、それはッ!!」 
 頼子     :「仲間が集ったところで止まっていたが、続きはいつ書くん
        :だ? 津山先生」
 三十郎    :「な、なんのことかにゃ? 人違いだと思うニャア……」
 頼子     :「フフ、しっかりまだ現物がうちにあるぞ。先生の次回作が
        :楽しみですー」
 三十郎    :「やめろ! やめてくれ、もうそれには触れないでくれっ」
 頼子     :「オーラ・ド・レイニー・ブルー。我は求めるうつろなる蒼
        :き闇を! 絶・月冥斬!」
 三十郎    :「イヤァッ! 詠唱しないでぇっ!」
 頼子     :「私の記憶力を侮るな!」
 三十郎    :「もっと自分の能力を有効活用しやがれっ」
 頼子     :「……あ、泣いてる? 落ち着け。な?」
 三十郎    :「…………」
 頼子     :「そうそう、古典の岡崎の話だったか。一応フォローしとけ
        :ばあの爺様はうちらが幼馴染みって知ってるのだ」 
 三十郎    :「……いつか泣かす」 
 頼子     :「お、立ち直ったか。だがな、私の涙は有限だ。生憎お前に
        :裂く分は誕生後2ピコ秒で使い果たしている」 
 三十郎    :「クッ、動物ものの映画をみるとわんわん泣くくせに」
 頼子     :「自分と愛らしい犬猫の価値の差を考えろ」
 三十郎    :「うわあ、死なせてぇ」 
 頼子     :「お前、それは将来性を考えたら人類全体に対する反逆罪だ
        :ぞ」 
 三十郎    :「……本気でそう信じているな貴様。その上で俺に対する憐
        :憫の情すら浮かべているというのかその表情は」
 頼子     :「まあ、なんだ。オンリーワンとか目指してくれ」
 三十郎    :「貴様に言われるとこれ程頭に来る言葉もない」
 頼子     :「これでも精一杯気を使ってるんだよ……」
 三十郎    :「それがむかつくと! しまいには、おか、犯すぞ!」 
 頼子     :「照れながら言うな。こっちが気恥ずかしいぞ童貞」 
 三十郎    :「ウワーン、もうこいつヤダー!」 
 頼子     :「退行するな。帰ってこい。現実と向き合え」
 三十郎    :「やだー、もうこんな幼馴染じみチェンジするー」
 頼子     :「それについては私もまったく望むところなんだが」
 三十郎    :「もっと優しくて恥じらいがあって、それでいてお姉さん面
        :してくれるような幼馴染を希望する」
 頼子     :「津山クン、朝だよ起きて! とか毎日起しに来る様な? 
        :ちなみにクンは片仮名」
 三十郎    :「そうそう」
 頼子     :「あと語尾にダゾ、とか付けちゃう様な」
 三十郎    :「なんだわかってるじゃないか」
 頼子     :「よし、死ね。来世でそんな幼馴染に出会えることを祈って
        :るんダゾ☆」
 三十郎    :「なにそのダゾ! 無理ありすぎるだろ!」
 頼子     :「私の占いでは津山クンの来世はペットボトルのキャップを
        :最初にひねったときに出るプラスチックゴミなんだゾ☆」
 三十郎    :「俺は一生懸命未開封を証明することを誓おう。一生に一度
        :の仕事としてナ!」
 頼子     :「馬鹿らしいからやめようか。だいたいなぁ。それを言った
        :ら私だって幼馴染は渋いおじ様の方がよかったわい」
 三十郎    :「……少なくとも、それは幼馴染じゃないと思う」
 頼子     :「で、なんで進学なんだ? もうすぐ死ぬから進学など無駄
        :だ、などという妄言を吐いていたではないか」 
 三十郎    :「ああ。死ぬのは間違いないんだが」
 頼子     :「ようやくそれがただの逃避でヌルイモラトリアムに浸かって
        :るだけと気付いたか」
 三十郎    :「思っても言わんでくれ! 腹立つ!」
 頼子     :「すまん、お前にだけは正直でいたいんだ」
 三十郎    :「貴様のは自分に正直なだけだ」
 頼子     :「まあね」
 三十郎    :「……桜居に相談してみようと思ってな」
 頼子     :「……ああ、ようやくその気になったか」 
 三十郎    :「なった。余生を楽しむというのなら『アレ』と向き合うよ
        :り面白そうな事はそうそうない事に気付いたんでナ」 
 頼子     :「どういう心境の変化だ」 
 三十郎    :「それで何かがどうにかなるとも思わんが、残り2年を諦観
        :と共に生きるよりはマシだろう?」
 頼子     :「私に確認をとるな。お前がそう思うならそうなんだろう」
 三十郎    :「うむ。俺は次の20年を見越してこの2年を過ごすぞ」
 頼子     :「そうか。これがくだらぬ都市伝説の話でなければまだしも
        :かっこつくのになあ」
 三十郎    :「──? なんだ、その指は」 
 頼子     :「煙草よこせ」
 三十郎    :「禁煙はどうした」
 頼子     :「頼子は二十歳まではスパスパ吸うんだゾっ」 
 三十郎    :「大江先生禁煙最短記録更新です」

 ベランダ越しに煙草とライターを投げ返した。


解説
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 2007年元旦。

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