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Date: Thu, 4 Jan 2007 00:10:30 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30581] [HA21N] 小説『断片〜 Man Meets a Girl 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年01月04日:00時10分30秒
Sub:[HA21N]小説『断片〜Man Meets a Girl』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
もかもかと、新春第一の話。
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小説『断片〜Man Meets a Girl』
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登場人物
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片桐壮平(かたぎり・そうへい)
:吹利県警巡査、世話焼きギリちゃんのあだ名を持つ。
今宮タカ(いまみや・たか)
:流れを見て操る少女。多少不思議系。
本文
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それは無限に昔のような気もするが、実は一年ほどしか前ではない。
身体測定。高学年のうち何人かは、低学年の測定をメモする手伝いをするの
に選ばれる。そうやって選ばれた一人が、タカだった。
「じゃあ今宮さん、ここにメモしてね。何もなければ跳ねた印、あったら丸」
「はいっ」
そうやって、ちょんちょん、とチェックするだけのが何人も続いて。
不意に。
「……ええと、5」
周りの子がざわざわと声をあげた。
無理も無い、とタカは思う。そこに見えるのは間違いなく3の文字。明るい
橙色の上に緑の色。
「その次は3、7…………い?」
そうやって次々と読んでゆく文字盤には、確かに全く異なる文字が見えてい
る。だというのに。
先生がタカのほうを見る。タカも先生のほうを見る。そしてタカは手元の帳
面に丸を書いた。
彼の見ている世界は自分の見ているものと違う。
自分には肌色に見える人の顔が、この子には緑に見えるのかな、と……それ
は何となく考えたことだけど。
それはもう一年も前のこと。母が流れていってしまい、父の半分以上が一緒
に流れていく前のこと。
今はタカにも良く判っている。
人は決して同じものを見ては居ない、ということが。
**
ぐるぐるどろどろと、色々なものを呑みこみながら廻ってゆく。
ぐるぐるどろどろと、くすんだ緑と厭にぬめぬめとした肌色。
ぐるぐるどろどろと、道の中を溶けて流れてゆく。タカの周囲半メートルを
包むように、いや、その半メートルを隔てて。
「みやま。なんかいまいち向こうが見えないよ」
肩の上の鴉は、ひょんとそのまま上に飛び上がる。そのままもう一度、肩の
上に戻って、一度くるりと頭を廻す。
途端に、タカの視野を覆っていたあの流れが半分透明になった。その中に。
「……みやま、あれ何?」
視野にあるのは。
**
夜の街には、それなりに変な子供が歩いている。しかし。
「……あれ、結界?」
初めて会った……というよりもただ通りすがりで出会っただけの相手の、腹
をぽしぽしと叩いた後、不思議そうに首を傾げている子供は、何とも奇妙であ
るといえる。
「へんだな……でも穴だな、へんだな」
小学校の恐らく高学年。ようやく年齢が二桁になったくらいの少女。
肩までの短い髪、そして黒い……瞳と虹彩の色の同じ色の目。どうもその視
点は奇妙にずれている。
肩の上には、夜の闇に溶け込みそうな鴉が一羽、まるで剥製のように動きも
せず停まっている。
「なんじゃ、嬢ちゃん。ワシの腹になんぞついとるか」
声をかけられた途端、少女はぴょん、と飛び上がった。
「…………うわー、え、人間?!」
それでも不思議そうに、少女は片桐の腹に手をやっている。小首を傾げたま
まの顔から、どこかしら不要領な声が流れた。
「ああ、人間の肉体は確かに、結構強い結界かあ……」
「……結界?」
片桐は改めて少女の顔を見る。
普通、これだけ近くに居て、相手を『人』とわかっているのなら、相手の顔
に反応する……筈の視線は、しかし未だにどこか焦点がずれている。
「どないした、嬢ちゃん」
尋ねてみても、その返事は以下のごとく。
「西郷さんはね、自分の意識のほんの少しを透明にしたら、周りに人が寄って
きたんだっていうけど……」
ちょん、と、小さな背を丸めるようにして、少女は片桐の腹の辺りを見てい
る。
「真っ黒な穴、これどうやってあけたのかな、不思議だな」
魂の抜けた穴。もしもそんなものがあるとしたら、確かにそれは真っ暗な穴
になるのかもしれない。
身体の真ん中。真っ暗な穴。
「……ああ、引っ張られてる。あっちに中身がある。でもすっからかん」
呟くような声に、初めて肩の上の鴉が動いた。ばさばさ、と、妙に大きく見
える羽を広げて、羽繕いをする。
同時に少女はぱしぱし、と、何度かせわしなく瞬いた。その度に焦点が微妙
に変化し……そして最後にふっと視線が片桐の顔に止まった。
「へんなひとー」
第一声がそれかよってな台詞である。
「……そらあ、ワシが変なのは認めるがなあ」
ぼりぼりと頭をかきながら、片桐はぼやくように応える。
(妙な嬢ちゃんじゃのう)
片桐の内心を知ってか知らずか……というより、完全にわかってない顔で、
少女は言葉を続ける。
「いやな水が集まって、流れ込もうとしてるよ。真っ暗だからここ」
ぽすぽす、と、小さな手が片桐の腹の辺りを叩く。大きな目がじっと片桐を
見上げている。
「おじさん、ちゃんと穴を埋めないと駄目だよ。危ないよ」
「…………」
豪快なくらいに訳のわからない言葉、なのだが、片桐は軽く眉をひそめた。
「……そうしたいんじゃがのう」
ぽん、と腹を叩いてみせる。
「盗まれてしもうたんじゃ」
奇妙な、狐耳を持つ少女の行方は、杳として知れない。その内心にはとんと
お構いなく、少女は小首を傾げた。
「ちゃんと、中身はあるよ。あっち」
「……なんじゃと」
あどけないほどあっさりと、少女は手をあげてすうっと何処かを指差した。
「だってほら、引っ張ってるよ。ほら」
「……ワシの命が、どこにあるかわかるんか」
「見えないの?なんで?」
それなりに探したが、しかし見つからなかった魂の行方。
それがこの少女には、わかるという。
「残念ながら……ワシにはわからんのじゃ」
ゆっくりと答えた片桐に、少女はきっぱりと言い切った。
「やっぱりおじさんヘンなひと」
「……まいったもんじゃ」
ぼりぼりと頭を掻いて、片桐は溜息をつくように呟いた。
「でもね、どろどろと肉の色の流れが流れ込もうとしてるよ。嫌な色だし嫌な
手触りなんだこれ」
少女は小さな顔を、思いっきり歪めて言い……そして少し考えて付け加えた。
「匂いも嫌」
「……ワシはな、そいつらの餌なんじゃ」
不思議そうな顔で、少女が見上げる。片桐は丁寧に言葉を足した。
「寄って来る奴を……ワシらは狙っとるんじゃ」
「おじさんは餌になりたいの?不思議な趣味だねえ」
「……ワシも好きで餌になったわけじゃないんじゃがのう」
「うーん……」
ぽしぽし、と、また少女は片桐の腹の辺りを叩く。
かえってくすぐったいくらいの感触が、コートを通して伝わる。
「……丁度いい塩梅に、ワシがおった。それだけじゃ」
うーん、と、やっぱり少女は首をかしげる。
「でもあんまりこれ、強くないよ。流れとか来たらやぶれちゃうよ?」
これ、というのは、恐らく腹の皮のことだろう。えらくグロい筈の問いを、
少女は妙に生真面目に投げかけてくる。
「いい塩梅って、おなかを食い破られて入られちゃうこと?」
「破れても破れてももとに戻しとるからのう」
不死の呪い。どれだけ傷ついても生き返る。どれだけ切り裂かれても元に戻
る。その実績から片桐はそう答えたのだが。
「……うーん、この穴どれくらい深いかによるなあ」
少女は腕を組んで、考えこんでいる。
「穴あけて入ってきても、いっぱいになっちゃうよ。そのうち」
すう、と、少女の手が空を薙ぐように動いた。
「だってこの街、もうあちこちどろどろで一杯だもの」
冬の夜の闇の中。
大気はどちらかというと冷たく澄んで、煩いほどのネオンにも負けずに幾つ
かの星の明かりを地上まで届けている。
それを、少女は、どろどろが一杯と言う。
「……そうなったら、ワシがワシでのうなるのかのう」
苦笑して応じた片桐に、少女はあっけらかんと頷く。
「うん、多分そうなる」
「それは勘弁じゃ」
そのような状況は想像したくもない。
「そやったら、入ってきたら追い出すしかないじゃろ」
「……でもそれ、重力に逆らってお水を捨てるみたいなもんだよ?」
くるり、と、黒い、見ていると吸い込まれそうな眼が不思議そうに片桐を見
上げる。まじまじと見ながら、少女は太鼓判を押すように言い切った。
「おじさんやっぱりヘンな人だよ」
言い切ると同時に、肩の上の鴉が、また、かしかしと首を動かした。
と同時に……少女の視線がふうっとずれた。
「あれだ、水の自動くみ上げ機があったらいいね……じゃ」
最後の最後まで、不思議な台詞を残したまま、少女はふうっと歩を進めた。
片桐の横をするりとすり抜けてゆく。
まるで、水が高きから低きへと流れるように自然に。
「……そうじゃの」
流れてゆく少女を見送って、片桐はふと呟いた。
「……どうにも、ならんのかの」
時系列と舞台
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吹利県のどこか。多分冬の夜。
解説
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謎少女、今宮タカ、少女達の守護役のギリちゃんに出会うの巻(違)。
参考ログは以下のとおりです。
http://kataribe.com/IRC/KA-04/2006/12/20061225.html#230000
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てなもんで。
ではでは。
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