[KATARIBE 30577] [OM04N] 小説『呆れる者ども』

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Date: Tue, 2 Jan 2007 23:36:51 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30577] [OM04N] 小説『呆れる者ども』
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ふきらです。

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小説『呆れる者ども』
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登場人物
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 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

 賀茂保重(かも・やすしげ):
  陰陽寮の頭。

 平義直(たいら・よしなお):
  陰陽師。時貞の同僚。

本編
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「保重殿はおられるかっ」
 陰陽寮に大きな声が響く。書簡を読んでいた時貞は眉をひそめて顔を上げ
た。
「いったい何だ」
 時貞の隣で書き物をしていた同僚の義直も同じように顔を上げて、声がした
方を向いた。そして、時貞と顔を見合わせる。
「少なくとも、良い話ではなさそうだ」
「そりゃ保重様を直に呼んでいるからな」
 奥の方から足音が聞こえ、二人がいる部屋の前を陰陽頭である賀茂保重が入
り口へと向かっていった。通り過ぎる際に二人の方を見て小さく首を振る。
「厄介なことになりそうだ」とその表情が言っていた。
 程なくして、再び保重が姿を見せる。その後ろには若い貴族の男が肩を怒ら
せて続いていた。
「……保重様も大変だな」
「あぁ」
 足音は奥の方で途絶え、陰陽寮が静寂を取り戻す。


 それからしばらくして、奥の方から荒々しい足音が聞こえてきた。
 義直が顔を上げると、ちょうど目の前を先ほどの若者が姿を見せた。彼は部
屋にいる二人に見向きもせず、ぶつぶつとなにか小さく呟きながら通り過ぎて
いった。
 外の方で「帰るぞっ」と怒鳴り声がする。
 義直は時貞の方を見る。時貞は小さく首を振った。
「やれやれだ」
 廊下の方から声が聞こえ、二人がそちらを見ると、保重が頭に手をやってい
た。
 彼は二人のいる部屋に入ると、開いている茣蓙に座り、文机に肘を置いて溜
め息をついた。
「何だったんです?」
 義直が尋ねる。
「赤子を抱けと言ってくる女の話は聞いているか?」
「ええ、話だけは」
 都に向かう道の途中に、赤子を抱いた女が現れるということが起きていた。
その女は通りすがりの男に赤子を抱けと言い、断ればその場で食いちぎれら
れ、赤子を抱いてやるとその子はだんだん重くなりやがてその重みで潰される
という。
 それ以来、その道を通る者は全くいなくなっていた。
「その話があの男と関係あるのですか?」
 義直の問いに保重は頷いた。
「あの男がその赤子を抱いている女を身籠もらせたらしい」
「はあ…… でも、その女は死んでいるんでしょう?」
「ああ。あの男、勝手に好きになって、勝手に身籠もらせておきながら、嫁に
もせず見捨てたというのだ」
「そしてあの女は死に、今に至る、と」
「自業自得ですね」
 時貞がそう言い、保重は頷いた。
「それで、先ほどの男はなんと?」
「どうにかしてくれ、と言ってきた」
「それは勝手な……」
 時貞は苦笑した。
「そういえば」
 先ほどからなにか考え込んでいた義直が顔を上げた。
「よく似た話を聞いたことがあるんですが」
 保重が彼の方を見て、ああ、と頷く。
「水神の話だな」
「そうです。確かあれは…… どこぞやの武士が渡された石を抱ききったおか
げで終わったんでしたか」
「うむ」
「では、今回も同じような手で解決するのでは?」
 義直のその言葉に保重と時貞は苦笑を浮かべた。それを見て、彼はむっとし
た顔をする。
「そう単純に済めばいいのだがな」
 保重は苦笑いを引っ込めると、ため息混じりに呟いた。そして、首を傾げて
いる義直を見て、彼は時貞に「説明してやれ」と促した。
 時貞が義直の方を向く。
「水神の話の時は、子を産むときの辛さを肩代わりしてもらうために石を持た
せたのだろう?」
「ああ」
「今回の話では、その赤子を持たせることが何を意味しているのかがよく分か
らない」
「ああ、そうか」
「そうだ」
 保重が後を続ける。
「つまり、赤子を持ち続けてやって、事が終わるのかどうかが分からないの
だ。もっとも、水神の場合も事が終わってからその石を持つことの意味が分
かったのだから、今回もひょっとしたらそれで終わるかもしれないがな」
「そう言っても、それで終わるとは思っていないんでしょう?」
「まあな」
 義直は腕組みをして唸った。
「では、どうしてやればいいんですかね?」
「張本人がその場に赴けばなにか分かるんでしょうがね」
 時貞が呆れた口調で言った。
「それはそうだが」
 保重が再び苦笑する。
「そう言わなかったんですか?」
「言って、聞くように見えたか?」
 義直は保重のその問いに少し考え、そして、首を振った。
「あれは自分は悪くないって言いたそうな顔だったな」
「ああ。俺が会ってやればいい、と言ったらまさにそう言ったよ」
 時貞と義直は揃って溜め息をついた。
「一度、痛い目に遭えばいいんですよ」
 義直が言う。
「しかし、放っておくわけにもいかない」
「どうしてです?」
「あれの父親がな……」
 そう言って保重は首を振った。
「では、結局、何と?」
「とりあえず、妙延尼様の所へ行くように言った」
「妙延尼様の所へ? あの人がなにか知っているんですか?」
 保重は首を振った。
「いや。あそこにお兼という女房がいるだろう」
 それを聞いて、二人は「あぁ……」と納得したような表情を浮かべた。
「力で解決ですか」
「まあ、それだけで済む話ではないだろうが。力で解決できるとしたらあれし
かいないだろうよ。それに……」
「それに?」
「お兼だったら、身分の違いに関係なく率直に諫めてくれそうだからな」
 義直が深く頷く。
「あの人だったら、確かに」
「ですが、こっちにも文句を言われそうですけど」
 時貞が言う。
 その言葉に保重は肩を落として、「問題はそれだ」と、ため息混じりに呟い
た。

解説
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[KATARIBE 30533] [OM04N] 小説『うぶめのはじまり』の前。

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