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Date: Wed, 03 Jan 2007 01:36:12 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30574] [HA21P] エピソード: ミズハカゲトトモニ、シノビヨル
To: Kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。
高技能値狭間イメージ断片シリーズで回してたお話の続き。
前のヤツはおいおいってことで。
──ちょっと長くなっちゃいました。
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[HA21P] エピソード: ミズハカゲトトモニ、シノビヨル
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ラクエンノイズミカラ、ミズガヤッテクル
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市内のカラオケボックスで、まなはウーロン茶を片手にかちかちとケータイ
をいじっていた。
初めてできたトモダチの片桐と、その友達の淡蒲萄ちゃんとで三人。
すっかりゴキゲンで楽しくて仕方ないけれど、でもケータイは手放せない。
掲示板のチェックを欠かすと取り残されちゃうから。
取り残されるのは、寂しいからイヤだ。それに、最近、盛り上がってて面白
いし。
──前世がどーとか、楽園がどーとか。
まな :「ロ・ミーオッジ・ングェイっ」
思わずぼそっと呟いてしまう。
片桐 :「なんじゃ、そら」
ギリちゃんが、ノリノリでSHOGUNのBad Cityを歌ってたのを止めて言う。呆
れた声にエコーが利いてて面白い。
まな :「『わたしは楽園の騎士を守る泉の巫女』って出会い系で
:ゆったら人気が出ちゃった」
淡蒲萄 :「あー、アレアレ。前世系のヤツ」
片桐 :「……はやっとるんか、そういう遊びが」
悪びれもせず、てへっと笑うとスエちゃんが妙に納得したような顔で、うん
うん頷く。いろいろ物知りだ。
逆にギリちゃんは、なんだかよくわからないような顔で、でもやっぱり呆れ
てる。ギリちゃんはモノを知らない。
まな :「んー。けっこう、アクセス多いみたい」
気のない返事をかえす。
こーゆーのは流行りとかじゃなくて、ノリなのだ。たまにマジレスするキモ
いヤツとかいるけど、そーゆーのをからかって遊ぶのも面白い。
淡蒲萄 :「サイト気をつけないと、ケーサツがチェックしてたり
:するから(忠告)」
まな :「だいじょーぶ。ヤなヤツいたらロ・ミーオッジ・ングェ
:イで楽園から追放するぞっ、て言うくらいだしー」
スエちゃんはよくわかってる。
だから、大丈夫だよって、にーっと笑って返す。そーゆー遊びだから。ここ
の出会い系はわかってるヤツが多くて面白い。
ちなみに『ロ・ミーオッジ・ングェイ』ってのは、楽園から退去させる呪い
の呪文。そーゆー設定。言われたら『うわー、それだけはー』って大げさに怖
がるルールになっている。
淡蒲萄 :「年齢はちゃんと18ってゆわないとダメだよ。管理人とか
:マジメだったらアク禁なるから」
でもスエちゃんは心配性みたいだ。真面目に忠告してくれる。もちろん、18
歳って言ってあるに決まってるけど。
──あれ、ところでギリちゃんって警察の人じゃなかったっけ?
そんなことをちらっと思うけど、どうでもいいからスルーしておく。
片桐 :「……まあ、信じるものは救われる……どうかのう」
ギリちゃんは、まだ納得いかないみたい。
片桐 :「まあ、顔見えんっちゅーのは怖いもんやぞ」
はー、やれやれって肩をすくめて、ムツカシイ顔をしている。なんだか、
お説教くさい空気が出てて、スキじゃない。ギリちゃんだから許すけど。
まな :「ときどき、ホンモノっぽいのいるよねー。洒落わかんな
:いのー」
でも、やっぱりお説教になったらヤだから、けらけら笑って話をそらす。
まな :「楽園の泉から水がやってくる、とかさ」
サイコーに空気読めてない書き込み。最近、掲示板でこういうのが増えてて
ちょっとウザい。超マジみたいだし──ときどき、ちょっと怖くなるくらい。
あれ、でもなんかギリちゃん妙に反応してない?
片桐 :「……楽園の泉」
またムツカシイ顔でぼそっと言ってる。
空気読めてないヤツの妄想だと思うんだけどなぁ。ヤだよ、そーゆーの。
でも、興味あるみたいだからもうちょっと話をふくらましてみる。
まな :「『水は影とともに音もなく忍び寄り、楽園の冒涜者を処
:刑する』んだってー。漫画の設定みたいだよねー」
淡蒲萄 :「うん、ネットって、なんかそーゆーのたまにあるよ。
:うわーこいつプロ作家なんじゃね?っていう設定言う人」
スエちゃんと二人して、けらけら笑う。
片桐 :「そうじゃのう……音もなく忍び寄り、侵食してくる水、
:ちゅうやつか」
またギリちゃん、真面目に頷いてる。もしかして、ギリちゃんもそっち系の
人? せっかくトモダチになれたのになぁ。
ちょっとツマンナイ感じになっちゃって、またケータイをいじってみる。
まな :「──あ」
あれれ、ちょっとオカシイ流れになっちゃってない?
淡蒲萄 :「ンー? なに今度のパパいくつ? 何してる人?
:社長?」
片桐 :「どうした?」
まな :「わたし、ニセモノの泉の巫女で帝国が送り込んだ裏切り
:者ってコトになっちった」
おっかしいの。さっきまで泉の巫女さまー、とかみんなゆってたのに。
ヤな感じ。面白い掲示板だったのになぁ。
片桐 :「……どうなっとるんじゃい」
淡蒲萄 :「うん、なんか敵とかいんの。結構カオス」
まな :「『楽園の泉より水よ来たれ、ラ・ヴォルビーク・ク・リ
:スタル・ギザ!』とかゆってる」
楽園呪文キターーって感じ。ちょっと洒落になんない展開なんだけど、思わ
ずお腹を抱えて笑っちゃう。だって、なんか本気っぽいんだもん。
お遊びなのになー。
片桐 :「……そういうもんをどうやって思いつくもんかのう」
半分呆れ顔、もう半分は苦笑いって感じでギリちゃんはまた肩をすくめる。
淡蒲萄 :「なんかすごい呪文喰らってる……ん?」
ホント、面白いよねって頷きかけて──あれれ、足元が冷たくない?
気がついたら、足元が水浸しになってる。おかしい。
わたし呼んでないよっ!
ミズハカゲトトモニ、シノビヨル
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片桐 :「!」
まな :「──あれ?」
片桐 :「嬢ちゃん!」
まな :「わ、わたしじゃないよっ」
ちょっと慌てたギリちゃんがまなを見る。
わたしじゃないよっ、て言うまなの目の前で、のっぺりと影が立ち上がる。
ミズハカゲトトモニ、シノビヨル。
まな :「──わっ、ホントに来たっ」
──あれって、マジだったの?
状況が把握できないまなとスエちゃんを、ギリちゃんはかばうように前に
立ってくれる。
手元に銃を持ってるのは、やっぱりケーサツの人だから。でも、なんかテレビ
で見るのと違う変なカタチしてる。
まな :「スエちゃん、どうしよっ」
なんだか急に怖くなって、スエちゃんの後ろに隠れる。でも、スエちゃんも
いきなり過ぎてどうしたらいいのかわかんないみたい。
慌てて掲示板をチェックしたら──
まな :「──なんか、みんなが『ラ・ヴォルビーク・ク・リスタ
:ル・ギザ』とか連呼してるっ」
淡蒲萄 :「……じゃあそれマジで効果あるんだ」
まな :「ウッソッ! やだっ」
お遊びだったのに。ホントのお話じゃないのに。
どうしてこうなっちゃうの? もうどうしたらいいのかわかんない。
ワケわかんなくってパニくってる間も、水は嵩を増してる。楽園の泉から、
影がやってくる。
でも。
片桐 :「……楽園の泉の水、かいな」
逆にギリちゃんは、すーっと落ち着いちゃったみたい。銃を構えて、影を
にらみつけている。
のっぺりした手を伸ばして襲い掛かってくる影にも「くそっ!」とか言いな
がら銃を撃ってる。
──って、アレ、水テッポーじゃん?
なのに影はしゅわーっと溶けて、ちゃぷんって水音立てて消えてしまう。な
んか、すごい。
ギリちゃんってすごい。
でも、影は後から後から湧いてきた。
これって、やっぱ掲示板でみんなが連呼してるからだろうか。
いっくら凄くてもギリちゃん一人じゃ手に負えない感じ。
淡蒲萄 :「……ちょっとやばくね?」
まな :「どうしよっ、マジヤバくないっ?」
片桐 :「らちがあかんな」
ギリちゃん、ぼそっと言ってなんだか変な模様の警棒を抜いた。
片桐 :「一旦おいちゃんが預かるわ、これ宛てにかかってるやも
:しれん」
まな :「ん──うん」
言いながら、まなのケータイも没収。わー、だめーって言う間もない──っ
てゆーか怖い顔して、そんなコト言えない。せいぜい未練がましく見るくらい
が精一杯だった。
とにかくギリちゃん、まなのケータイポケットに仕舞って、警棒をぶんぶん
振り回して影を叩く。
こーゆーときのギリちゃん、超頼りがいある。
スエちゃんもギリちゃん一人じゃ無理だって思ったみたい。
手近なトコにいた影を一匹捕まえて首筋にかぷっ。するとその影が仲間に襲
い掛かって同士討ち。──よくわかんないけど、スエちゃんすごい。
でも影は次から次に湧いてきてキリがない。
そろそろギリちゃんもスエちゃんも息が上がってきてる気がする。
片桐 :「まな!なんぞ対抗の呪文に覚えないかいな!」
流石にメゲてきて、ギリちゃんが言う。言いながら、でもべしっと影を叩き
のめして潰してる。まなの
そんなのあるわけないじゃん。遊びだったんだもんっ。
まな :「だって、テキトーに遊んでただけだもんっ──えっと、
:あのっ──なんか強そーなのだったらいいのかな?」
淡蒲萄 :「ウン、それがいい、相手が後悔して失禁するくらいの」
まな :「すべて邪なるものは転生の円に還れっ、シャット・マル
:メール・コロコロっ!」
ついスエちゃんに振ったら、思いがけず頷かれて。
慌てて"なんか強そーなの"をデッチあげて唱える。なんか、いらないのに
振りまでつけちゃったりして。あれ、わたしって結構よゆー?
淡蒲萄 :「コロコロって効き目なさそーw」
片桐 :「おお、還れ還れ、シャット・マルメール・コロコロ」
淡蒲萄 :「シャットマルメールコロコロ?」
まな :「シャット・マルメール・コロコロ」
呆れながら投げやりに片手間で、スエちゃんとギリちゃんも呪文を唱える。
そりゃそうだよね──と思ったら。
ゆらっと影が薄らいだ。
片桐 :「……ほんまかいな」
呆気に取られてギリちゃんがぽつっ。
うん、まなもそう思う。
でも、効くと分かったらしょうがない。もう、ヤケクソでも呪文となえて
かなきゃ。
淡蒲萄 :「Shut Maru Mail Koro^2」
片桐 :「ええい、くらわんかい! シャット・マルメール・コロ
:コロ!」
まな :「マルメール・コロコロ」
唱えること数分。
ホントに影が消えて、みんな呆然。あはは、わたしってスゴくない?
水もみるみるうちに引いてっちゃった。
カゲトミズハ、サッテ
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片桐 :「…………ホンマに消えよった」
まな :「もしかしてわたしって凄くない?」
淡蒲萄 :「や、すごいすごい、ホントに楽園の泉の巫女だったん
:じゃね?」
まな :「マジで? 自慢しちゃおっかな」
調子に乗ってスエちゃんと二人できゃいきゃい。でも、ギリちゃんはなんか
引っかかってるみたい。
片桐 :「……楽園の泉の巫女、かい」
ぼそっと呟いて考え込んでる。
そのスキにケータイを取り返しちゃえっ、とポケットに手を入れたら。
片桐 :「やめとかんかい、またいらん攻撃うけたらたまらんぞ」
まな :「えーっ」
ぷくーっと膨れる。まな、ケータイなかったら生きてけないよぅ。
淡蒲萄 :「うんうん、ギリちゃん、呪文恥ずかしいから唱えるの
:ヤなんだよ」
片桐 :「……ええ歳してそんな呪文よういえんわ」
まな :「じゃ、もうアクセスしないからケータイかえしてっ」
片桐 :「わあったわい、ほれ」
ぽんっ、とまなの手のひらにケータイを返してくれる。
えへへ、ギリちゃんなんだかんだ言って優しいからスキー。
片桐 :「……ちょいと、調べる必要がありそうじゃの」
まな :「世の中ってオカシなコトいっぱいあるよねー」
淡蒲萄 :「そーそー。変なことの方が多いんだって、ギリちゃん」
片桐 :「……まあ、ワシら自体もとっくに変なんじゃがの」
まな :「まな、オカシクないもんっ」
ぷいっとそっぽ向く。失礼だよねっ。
──そりゃ、ちょっと海を呼べたりするけど。でも、変じゃないもん。
片桐 :「ああ、悪かったの。だが、ワシや嬢ちゃん以外の連中は
:溺れたら死んでしまうからのう」
淡蒲萄 :「あぶないねー」
まな :「スエちゃんも泳げないひと?」
淡蒲萄 :「泳いだことないからなー。わかんね。今度試してみて
:イイ? 水着持ってくるし」
まな :「うん、一緒におよごー」
片桐 :「……たまらんわい」
ノリノリのスエちゃんとまなに、ギリちゃんは溜息。でもきっと、一緒に
泳いでくれるもんね。ギリちゃん、優しいからー。
片桐 :「さて、なんぞ喰うかい。おいしいコロッケ売ってる店
:しっとるわい、おっちゃんがおごっちゃる」
まな :「まな、林檎たべたーい」
淡蒲萄 :「コロッケ定食?」
片桐 :「はは、肉屋のコロッケじゃ」
片桐 :「美味いぞ」
まな :「林檎ー」
片桐 :「わかったわかった、果物屋もあったかいのう」
ほら、楽園の果実とかってゆーしって言ったらギリちゃん、盛大な溜息を
ついて一言。
片桐 :「……懲りとらんじゃろ、」
解説
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まなが、前世系ケータイサイトをいじってたら──というお話。
トラブルメイカーですね。
ところで"楽園"の人たちは、これからも後々、まなに絡んでくる予定です。
ギリちゃんは大変。
関連ログ
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※ 前世ネタで盛り上がるひとたちがいるよ、というお話
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※ 前世ネタで盛り上がるひとたちのお話
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