[KATARIBE 30568] [HA21N] 小説『霞ヶ池の闇断片〜宵闇に跳ねる少女』

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Date: Tue, 2 Jan 2007 18:32:08 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30568] [HA21N] 小説『霞ヶ池の闇断片〜宵闇に跳ねる少女』
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2007年01月02日:18時32分08秒
Sub:[HA21N]小説『霞ヶ池の闇断片〜宵闇に跳ねる少女』:
From:久志


 久志です。
TRPGと創作で架空世界を遊ぶ“語り部”http://kataribe.com/で展開している
キャンペーンコード、霞ヶ池の闇 http://kataribe.com/HA/21/の
イメージシーンです。

 ギリちゃんこと片桐壮平と淡蒲萄ちゃんの出会いのようなものです。

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小説『霞ヶ池の闇断片〜宵闇に跳ねる少女』
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登場人物
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 片桐壮平(かたぎり・そうへい)
     :吹利県警巡査、魂の無い不死身の男。
 淡蒲萄(うすえび)
     :夜の街を跳ね回る女子高生。

怪異
----

「なんじゃあ、こりゃあ」

 現場保存のテープを乗り越え、部屋に足を踏み入れて、ひと言。
 片桐の口から漏れた半ば呆れたような声が漏れた。

 ホテルの一室。
 足元に広がる、バケツでぶちまけたような赤黒い血の海。
 所々バラバラと散らばった薄黄色い骨と歪な肉片、部屋の片隅にはちぎれた
両足が無造作に転がっている。見下ろした先、ちぎられた体の断面は鋭利な刃
物ではなく、力任せにねじ切られたかのような歪な傷痕。なぜか胴体と頭だけ
が不自然なほど奇麗に残り、血の海の中で白い体を横たえている。
 そして何より異様なのは、その胴体と頭は血の海の中で干からびたミイラの
ように乾ききっていた。

「どうなっとるんじゃ」

 かみ締めた歯が軋む音が響く。


飛び跳ねる少女
--------------

 夜。
 闇に染まらない、色とりどりのネオンサインが瞬く街。
 冷え切った風が吹く中だというのに、どこか熱に浮かされたような心の昂り
を匂わせる、沸き立つような静かな熱気。

 瞬く光に照らされた大河の流れの中を泳ぐように。
 煌びやかな衣装を身にまとった女、光沢のあるしっとりとしたスーツ姿の男、
原色を派手に使った見る目を吸い寄せるドレスを着込んだ髭の剃り跡が微かに
うかがえる者、色鮮やかな店の前で漁師の如く客を引く呼び込み……薄汚れて
よれたコートの裾を捌いて歩く片桐も流れの片隅を泳ぐ雑魚の一匹に過ぎない。

 甘い熱気に咽た街、片桐が目に留めたのは一人の少女だった。

 細い体に茶色のセーラー服、すっきりと伸びた足に膝丈の黒ソックス。少し
つり目がちの目が、流れていく景色をどこを見るとなく眺めている。
 おおよそこの通りに似つかわしくないその姿は、見るからに色町の大河の中
浮いていた。

「嬢ちゃん」
「ん?」
 声をかけた片桐を見上げる目。どこか挑戦するような、答えを知っているか
のような。
「どうしたんじゃこんなとこで。ここいらは嬢ちゃんみたいな子が一人でいる
とこちゃうぞ」
「えへへ、おじさん心配してくれるんだ」
 突然声をかけた片桐に物怖じすることなく、嬉しそうに小首を傾げる。
「当たり前じゃ、こんなとこで嬢ちゃん一人でおったら危ないわい。はよう家
に帰らんか」
「うーん、じゃ、おじさん何かおごってよ」
「こりゃ」
 くすくす笑ってちろっと舌を出して片桐を見上げる。まるでこちらの答えを
確信したているかのような、自分の魅力を知りつつなおかつその使い方を熟知
したような顔。まだあどけないと言っていい少女には少々高度な表情。
「酒はなしじゃぞ、ちゃんと家帰るな?」
「うんっ」
 元気のいい返事と共に、飛びつくように腕に手を回す。
 そのあどけない姿とは裏腹に、どこか手馴れた――長年何度となく男の腕に
手を回したかのような自然な少女の動きに、片桐はどこかアンバランスな違和
感を感じていた。


 ちりんと鈴を転がすような澄んだ音が響く。
 淡い照明の照らす中、店へと足を踏み入れる。カウンターの向こうで淡いブ
ルーのドレス姿の女が艶やかな笑顔を浮かべる。
「あらあ、ギリちゃんいらっしゃい……あら?カノジョさん?」
 ちょい、と。指先を唇の前に立てて意味ありげに目配せする。
「ちゃうわい、通りに一人でおったんじゃ。あぶないじゃろ」
「うふふ、カノジョです」
「こら」
 片桐の声に応えた風なく肩をすくめて見せて、ひょいとカウンターの前の椅
子に飛び乗る。
「私、マティーニで」
「あほかい、ノンアルコールじゃ」
「えー」
 上目遣いで抗議しつつも、隣に座った片桐の腕によりかかる。
「水割りで、こっちはそうじゃの……アレでええわ」
「了解。ふふん、相変わらず優しいのね、ギリちゃん」
 軽く唇をすぼめて片目をつぶって女が身を翻す。

「ね、おじさん」
「なんじゃ?」
 こつん、と二の腕に頭を寄りかからせて。
「いつも来てるの?」
「まあ、そうじゃの、ここいらの店は大抵なあ」
「ふぅん、遊び人なんだ」
「大きなお世話じゃ、嬢ちゃんはよう来とるんか」
「うん、たまーに」
 くすくすと笑って足をばたつかせる。
「あかんぞ、最近物騒なんじゃ、なんぞ事件に巻き込まれても知らんぞ」

 片桐の脳裏をよぎる映像。
 血溜まりの中、全身バラバラになって死んだ者。
 乾いた部屋ので溺死した者。
 全身から一滴も残さず血を失った者。

 ここ最近頻発する、尋常ならざる事件の数々。

「おじさん、やさしーんだ」
「あほかい、あたりまえじゃろが」

 薄暗い店内、残像を残すように白い手がシェーカーを振る。ちかちかと銀色
に揺らめく光が目の前で踊り、氷の軋む音が響く。不思議と耳心地いいのは、
シェイクする女の腕が魅せる技か。

「ほんっと……女殺しなんだから、ねぇ?ギリちゃん」
 くるりと手首を翻して、冷えたカクテルグラスに注ぎ、木苺を二つ浮かべて
少女の前に置く。
「わ、奇麗」
「ふふ、ノンアルコールだけど気分だけは、ね?」
「えへへ、いただきます、おじさん」
「おう」
 女から水割りのグラスを受け取り、少女が差し出したカクテルグラスと軽く
ふちをつきあわせる。

「あ、おいし」
「それ飲んだら、ちゃんと帰らんとあかんぞ」
「わかってますよー」
 ちろり、と舌を出して唇を尖らせる。


 ゆらゆらと。
 揺れる光。
 流れてゆく人並み。
 色鮮やかな、女達。

 その片隅で。

「おいしかったよ、おじさん。ありがと」
「おう、気つけて帰るんやぞ」
 とん、と。跳ねるように少女が一歩踏み出す。
「うん、また会おうね?」
「あほか、こんな通りに来たらあかんわい」
 片桐の腕を引いて歩く少女がちらりと見上げる。

「おじさん、また会えるよね?」

 ゆらり、と。
 少女の目が妖しい光を帯びた。

「……嬢ちゃん?」

 足を止める。
 いつの間にか、細い路を歩いているのは片桐と少女だけで。

「いいでしょ?おじさん」

 足を止めた片桐に飛びつくように、ふわりと両手を伸ばす。
 それは、少女と呼ぶには艶かしすぎる、女の瞳。
「……な」
 一瞬、言葉を失った片桐の首に腕を回し、首筋に顔を寄せる。

 血。
 全身の血を失った死体。
 補導した少女らの噂で耳に入れたことのある、夜の少女の味方。

「待たんかい!」
 細い両肩を掴んで、体を離す。
「え?」
 驚いたような顔で少女が片桐の顔をしげしげと見つめる。
「……おじさん、人間?」
「正真正銘人間じゃ……」
「おかしいなあ、ちょっとヘン」
「……嬢ちゃん、ワシからも質問じゃ。嬢ちゃん……何モンじゃ?」
「内緒」
「あのな」
「……んー、ちょっと血もらおうかな、って。でも、おじさん変わってるね。
手も出してこないし、優しいし、いい人」
 屈託のない笑顔を浮かべたまま、片桐の顔をものめずらしげに見上げている。
掴んだ肩は、ちょっと力を込めたら折れそうなほどに細く、か弱い。
「……あのな」
「おじさん?」
 頻発する不可解な事件。
 年端もゆかない少女にいかがわしいことを目論んだ男達の不審な死。
 すべての夜を泳ぐ少女達の守護者。

「最近、妙な事件が多いのは……嬢ちゃんの仕業か?」
「それって、悪いオジサンのこと?」
「一件や二件だけじゃないじゃろが」
 自然と胸ポケットにしまった銃の位置を確認する。

 撃つか?
 この少女を?

「でも、あたしだけじゃないよ?」
「ほう」
 胸ポケットに伸ばそうとした手を止める。
「正直困ってるんだよね、あたしもオシゴトやりづらくなっちゃって」
「……そうか」
 手を下ろす。
 片桐はどこか安堵している自分に溜息をついた。
「あのな、嬢ちゃん」
「なあに?」
「どうしても血ぃ足んなくてこまったらおっちゃんに言えや」
 少女が目を丸くする。
「そこらのオッサンにたからんでええくらい分けたるわい」
 一瞬呆気に取られたような顔になり、笑顔を浮かべる。
「量より、毎日ほしいナ」
 ぺろりと唇を舐める。
「毎日?ああ、そら構わんわ」
 手の平で少女の頭を掴むように撫でる。

「最近なあ……妙に物騒なんじゃ、特に……水、がな」

 ぽつりと、誰に語るともなくつぶやいた。

時系列と舞台
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 吹利県のどこか。
解説 
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 不死身の男・片桐と飛び跳ねる少女・淡蒲萄の出会いのイメージ。
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以上。

 ちなみに淡蒲萄ちゃんに出したのは「ダミー・デイジー」という
ノンアルコールカクテルです、はい。



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