[KATARIBE 30550] [HA] 「高技能値狭間イメージ断片その 21 」

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Date: Thu, 28 Dec 2006 23:06:59 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30550] [HA] 「高技能値狭間イメージ断片その 21 」
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2006年12月28日:23時06分59秒
Sub:[HA]「高技能値狭間イメージ断片その21」:
From:Saw


[HA]「高技能値狭間イメージ断片その21」
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登場人物
--------
西海道アハト:聖ローリエ騎士団上級騎士。22歳。
ジャンニ神父:聖ローリエ騎士団司祭。

アハト1
--------
 長崎というのはとにかく坂の多い街で、なんでも土地の八割方は斜面なんだそ
うだ。そんな街に抗議するようにアハトの古いスポーツカーはエンストを起こす。
まだ市内に入って20分と経ってなかった。約束の時間まではまだ30分程あるが、
目的地は市内でも高い位置にあり徒歩で行くには結構な距離がある。
 幸い裏道だったのでサイドブレーキを引いてそのまま路肩に停車。愛車のスト
ライキにはボンネットを解放してやりとりあえず対処。

「ツンツンしてねーでたまにはデレて見せろよ」

 アハトは前輪を蹴飛ばし、溜息をついてからドアにもたれかかって煙草に火を
つける。
 もう太陽も落ちかけているというのにその日は10月とは思えない陽気で、外に
いても寒さは感じない。アハトはビニール素材のジャケットでそよ風を受けなが
らこれからどうするかを思案する。

「帰るか」

 開け放った窓から腕をつっこみ、ドア裏側の灰皿で煙草をもみ消す。
 ヴーンというモーター音が断続的に車内に響く。マナーモードになっていた携
帯の振動音だった。
 アハトは窓から上半身を突っ込み助手席に投げ捨ててあった携帯を回収。
 発信先はジャンニ神父。アハトの上司だ。

「もしもし?」
「もしもしじゃないよ、気が抜けてるんじゃないの? 少年」
「誰が少年だ。もう今年で22だぜ?」
「ハヤッ! 僕が1つ歳取る間に君7つくらい歳とってんじゃないの?」
「ドッグイヤーかよ。てめーもその分歳くってんだ。認めやがれ」
「あー、聞こえない聞こえなーい。しっかし22歳児ねぇ。夜お姉ちゃんのベッド
に潜り込む癖は直ったの? 近親との姦淫は我が騎士団では認められてないから
ね? 知ってる?」
「そろそろ死ぬか、クソ神父。中央評議会によると認められてねーのはテメーの
脳味噌らしいぜ」
「えー、ホント? こんなに化物狩り頑張ってるのに見る目ないよね爺様方は」
「さっさと用件言えよ。切るぞ」
「いやアハト君の車がさっきから動かないみたいだからさ、気になったわけ」
「って、おい監視してんのか?」
「やだなあ、そんな暇じゃないよこっちは。子供用のGPSって知らない? お子
様の携帯の位置を検知していつでもお母さん安心っていうアレ」
「あー、知ってる知ってる。上が随分気前いいと思ったらこの携帯そんな理由で
持たされてたわけね。ぶっ殺す」
「殺す殺す言うのは三下だよアハト君。騎士たるもの殺すといった時には殺して
ないと」
「どこのギャングスターだ、てめーは」

 神父の口調が軽薄なのはいつものことだが、慣れるほどにアハトは擦れていな
い。自然眉間の皺も深みを増していく。

「まあほら、おいしい話には裏があると神様も仰っておられるじゃないか。そう
いうわけだからさぼってないで急いで来てね」
「悪いが今脳内会議で決まった。これから直帰して暖かいベッドでハーゲンダッ
ツ食いながらDVD見て寝る。もうかけてくんな」

 付き合ってられるか。アハトは何か言われる前に電話を切った。
 オーバーヒートしたエンジンはまだ当分いじらない方が良さそうだ。冷却ファ
ンも止まったので諦めてエンジンを落とす。
 騎士団は──それはつまりアハトの家「西海道」も含まれるのだが、いつも向
こうの都合でろくでもない仕事を押しつけてくる。それが社会秩序を守る事に繋
がり、また誉れであるとアハトは教えられ、また理解もしていた。だが不満がな
いわけではない。
 安息日は「休んでもいい日」ではない、何もしてはならない日だ。それはどう
いうわけだか上級騎士などと言う分不相応な位を戴いた自分であっても同じだと
アハトは思う。

 車に乗り込みダッシュボードに足をかけて新聞に目を通す。三日前の一家惨殺
事件はまだ記事になっていない。山中の屋敷に住む一家4人が皆殺しにされた痛
ましい事件だ。
 彼らは殺され、証拠隠滅の後に家ごと燃やされた。火事で一家4人が焼死とい
う事件は翌日の地方欄でアハトも確認している。元々周囲の住民とまったく関わ
りを持たないでいた彼らの死を疑うものは警察にもいないだろう。
 今のところ真実を知るのはその日現場で「化物狩り」をしたアハトとジャンニ
神父、他3名の騎士だけだ。本当はもう一人いたのだが彼はその「一家」との殺
し合いに殉じて死体も残らぬ形で神の元に送られた。

 再び携帯が振動。アハトはしばし逡巡した後に通話ボタンを押す。

「かけてくんなって言っただろ」
「いや、ずっとGPS見てたんだけどアハト君てば全然動かないからさ。気になっ
ちゃって。もしかしてまたエンストしてるんじゃないのキミのボロ車」

 子供向けGPS付き携帯は速やかに交換しようと決心。

「デリケートな奴なんだ。とにかくそんな調子だからそっちにも行けない」
「歩いてきてよ。時には走ったりもしてきてよ。今からならまだ、えーとアハト
君の足なら10分遅れくらいで合流出来るでしょ」
「ぶっちゃけちゃうとさ、行きたくないんだよ。中坊一人くらい神父とゲオルグ
さんがいれば余裕だろ? 本国から来たばっかりのあんたは知らないだろうがゲ
オルグさんはオレなんかよりよっぽど経験のある上級騎士だ。念には念を押して
とかオレは興味ない」
「ゲオルグ君は会話がつまんないんだよねー。なんかつまんない小言ばっかり僕
に言うしさ。それに相手の年齢は関係ないよ。キミも知ってるでしょ、何年か前
の吹利での事件」
「──ん?」
「知らないの? マジで? 騎士団五人の編成が魔女っ娘一人に壊滅。アハト君
ホントに上級騎士? 当時は本国すら上も下も大騒ぎだったってのに」
「そんな何年も前の事知るかよ」
「あ! 自分は若いって言いたいんだ! 言いたいんだろう! やだね、特権階
級気取りかい。そんなのね、あと10年もしたらまた下の世代にやり返されるだけ
なんだからね。覚えとくといいよっ。えーとなんだっけ、とにかくミンスキーの
使徒には年齢とか関係ないのよ。あるのは中身に何が詰まってるかだけ」
「わかってるよそんなこと」
「じゃあほら、人は多いに越した事ないじゃん。それに30分も前に現場ついてる
のにゲオルグ君てば女の子達見ても眉一つ動かさないんだぜ。こっちばっかり盛
り上がって馬鹿みたいじゃん。──っていうこの会話すらゲオルグ君スルーだよ、
チョーつまんない」

 ゲオルグの威圧する事しか知らぬ無骨な顔を思い起こし、アハトはいささか神
父に同情した。自分だってゲオルグと狭い車内に二人きりは辛い。

「──女? ちょっと待て、今日の現場って聖律修学園の寄宿舎だったか?」
「そうだよー。私立の名門女子校! さっきから部活帰りの汗くさい女子中学生
が一杯! 匂いがこっちまで伝わって来るみたいだよっ」
「そ、そうか、とりあえず捕まんなよ。神父が逮捕とか時節柄笑えない」
「安心して。僕本当は男子専門だからさっ」

 とにかくアハトはますます行きたくなくなった。

「それはさておきだ、いくら未知数って言ってもあんたら二人なら充分だろう。
オレまで呼ぶ理由はなんだ?」
「今日のターゲット、三日前の『檻宮家』の生き残りなんだよね。一人だけ寄宿
舎入ってて免れたってわけ」
「それは知ってる」
「檻宮家ってさ、コレクターとして有名なんだよ。例えば先代当主の檻宮罪継は
異形蒐集人でさ。檻宮コレクションって知らないかな。妖怪死体マニアの間じゃ
知る人ぞ知る伝説。リストみると政府がひた隠しにしてるようなレアモンスター
のご遺体が出てくる出てくる」
「詳しいな。っていうか詳しすぎないか?」
「あっはっは、趣味で色々調べるとついいらん事まで耳に入っちゃってさ」

 神父の職業的倫理観についてアハトはまったく信用をおかない事にした。
 神父の話は勿体ぶって続く。

「で、マニア垂涎のレアな妖怪の死体集めてこいつが何したかって言うと妖怪大
戦争だよっ」
「ハァ?」
「コレクションの死体をいいように復活させちゃったわけさ。檻宮家の連中は自
分のコレクションの活用に長けてるのね。無論コレクションの質がそれなりによ
くないと烏合の衆にしかならないんだけどさ。その点先代の罪継は凄かったよ。
土蜘蛛の民から夜刀の神まで率いて馬鹿騒ぎしてたらしいからね」
「馬鹿騒ぎ?」
「どういうわけか連日山中で宴会してただけなんだな。で、これに頭来た西日本
河童連が山の精やら川の精、ああこの国では神様ね、を集めて攻撃したからいき
なり戦争だよ。まあ相手がミンスキーの使徒だから見かけた時点で殺そうとす
るってのは正しいと思うけど、意外と短気だよねえこの国のモンスターも」
「で、どうなった」
「お、乗ってきたねアハト君。やっぱり男の子にはモンスター話が受けるっ。と
ころがさー、残念。こっから先はよく知らないんだ。なにしろ僕も生まれる前の
事だし。騎士団は後始末に追われて大変だったみたいだよ。結果的に九州の大物
が自滅してくれてラッキーではあったんだけどね。とにかく、檻宮はコレクショ
ン使われると厄介だってこと」
「三日前はなにもなかったじゃねーか」
「そりゃまあ超遠距離からの監視を半年も続けたんだもの。連中のコレクション
の大半が裏山や町内の貸倉庫に隠されてて家にあるものは限られてるって調べが
ついてたし、その上で特に大物の魔剣グラットンと六天魔王の上衣を補修に出し
てる日を狙ったんだ。日頃の地道な努力と智恵が結果を出すんですよ」
「努力したのは神父じゃないけどな」
「あれ? そうだね」
「それがあの時の剣士と布使いか」
「そーゆーこと。床板から飛び出してきた手の群れでジュード君が死んじゃった
のは気の毒だったけどさ。あの手の群れもやっぱりコレクションだったんだろう
なあ」
「で、今回は調べは?」
「まったく。何しろ娘の存在が想定外だったからね。一年間一度も帰ってこない
んだもの」
「戸籍に乗ってんじゃねーのか。一応生きて学校行ってるんだったら」
「あっ──!」

 神父の驚嘆は聞かなかった事にする。上の言葉を鵜呑みにする必要はないが、
まったく信用出来ないのも具合が悪い。

「つまり、向こうは家族の死を知って準備してる可能性が高いってわけか」
「そうそう。そうなのよっ。アハト君察しがいいね」
「ハァ……これ終わったら代休七日取らせろ、それと冬のボーナスの保証」
「オッケー。オッケー。お安い御用。それじゃ待ってるからね。お兄さんとの約
束だぞ」

 それから30分。アハトは早足で歩き、時に走った。日頃体は鍛えているし騎士
団の他の連中と違い西海道家は重装備も持たないのでこれは時間通りについた。
 車に近付くと黒いスータンを着た神父が下りてくる。
 アハトは驚愕する。

「どうしたのアハト君、ハトマメみたいな顔しちゃってさ」

 陽気に話す神父の首から上が消失していた。
 何もない首の付け根から声だけがカポカポと響いてくる。
 それはその場の誰にとっても岐路にならざるを得ないような、特にアハトと
「彼女」にとっては人生を反転させるような夜の始まりだった。

解説
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2006年10月。
高技能値狭間イメージ
http://hiki.kataribe.jp/HA/?HighLevelHazama

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