Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Tue, 26 Dec 2006 01:38:24 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30546] [HA] 高技能値狭間イメージ断片その19
To: Kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <458FFE80.4070704@po.across.or.jp>
X-Mail-Count: 30546
Web: http://kataribe.com/HA/
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30500/30546.html
こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。
途中までチャットで一発書きしようと思いつつ、ぐだぐだになっちゃった
ので書き直し。
さてはて、中年の男はどういう意味のパパだったんでしょうねぇ(笑)。
**********************************************************************
[HA] 高技能値狭間イメージ断片その19
===================================
たちのぼる、あわのぎんが
------------------------
まな :「パパ、サイコー! こういうトコ、来てみたかったんだ
:よねー」
中年の男 :「まなにはまだ早いと思ったんだがね。まこ、れだけ喜ん
:でもらえると、細かいことなんかどうでもよくなるかな」
ドレスの裾をふわりと翻し、中年の男の腕に抱きついた。
クリスマスの夜景を見下ろせるホテルの最上階のバーだ。
中年の男と、まだあからさまに未成年のまなの組み合わせは浮いている。
浮かざるを得ない。
けれど、まなは気にしない。
ルージュを引いてグロスものせて、メイクはばっちり。ひらひらのイブニン
グドレスからは、すっきりと華奢な足が伸びる。
お澄まししてエスコートされるイブのわたしは無敵。そう決めたのだ。
バーのスタッフ:「コートをお預かりいたします」
スマートな振る舞いで、黒服のスタッフが二人のコートを預かる。
なにもかもがオトナ扱いの夜。
まな :「わー、すっごぉい」
案内された席は、窓際の二人がけのテーブルだった。
広くとった窓の向こうに、きらきらと宝石をばら撒いたような夜景がどこ
までも広がっている。
中年の男 :「何をのむ?」
まな :「シャンパンがいいなぁ。とびっきり素敵なの」
男にしかめ面を作る隙を与えず、上目遣い。
まな :「ね? いいでしょ?」
中年の男 :「──ヴーヴ・クリコのラ・グランダムを」
バーのスタッフ:「かしこまりました」
やったね、と男からは見えない角度で小さく舌をだす。この手で落ちなかっ
たコトはない。いわば、まなの決め球だ。
まな :「水族館、素敵だったねっ。シンベエザメは相変わらず
:まぬーっとした顔だったけど──でも、水の中にいると
:ロマンチックな気分に──」
たわいもないおしゃべりが継ぎ目なく続く。それ自体が、まなのはしゃぎ
ぶりを何よりよく伝えている。自分でもわかるくらい。
やがて、スタッフが台車を引いて戻ってきた。
バーのスタッフ:「お待たせいたしました。ヴーヴ・クリコのラ・グランダ
:ムでございます」
ワインクーラーから丁寧に瓶を引き抜き、二人にラベルを向ける。
ラベルには碇のマークと『Veuve Clicquot Ponsardin』の文字。
なめらかな所作でスタッフはコルクを抜き、優美な仕草でグラスにシャンパ
ンを注ぎ入れる。
金色の海の中、しゅわしゅわと立ち上る泡の銀河。
まな :「わぁ──きれー」
ぽかん、と。まるで幼子の無防備な表情でシャンパングラスを見つめる。
シャンパンというのはね──なんて男のウンチクに頷くのも耳を傾けるのも
忘れ、見入り魅入られる。
中年の男 :「──さ、乾杯しよう」
まな :「あ、ああっ、うんっ」
声を掛けられて、慌ててグラスの首に指を添えた。
SE :ちぃん
澄んだ音を立てて、細身な二つのグラスがキス。
とびきりの笑顔で男を見つめる。
SE :ぱしゃんっ
そして、どこかで水音。
わきあがる、まぼろしのうみ
--------------------------
最初に気がついたのは、やはりまなだった。
まな :「──あれ、どこかで水音がしなかった?」
中年の男 :「バーだからな」
違う、そうじゃない。
思ったけれど、辺りを見回しても何か変わったことが起こった様子はない。
みんなそれぞれの時間をすごしている。
気のせいだ。きっと気のせい。
そう思おうとするけれど、響く水音が耳から離れない。
まな :「──」
中年の男 :「急に落ち着かないな。やっぱり、少し早かったかな?」
まな :「ううんっ、違うのっ」
どうして、誰も?
疑問の言葉を、かろうじて喉もとでとめる。あまり変なコトばかり言ってる
と本当にバーから出て行きかねない。彼は見栄っ張りな人だから。
でも、どうして?
どうして、さざなみの音がするのか。こんなにもはっきりと海の音がするの
に誰も気にしないのか。
うかれすぎて、おかしくなっちゃった?
そうかもしれない。今夜は、そのくらいシアワセな夜だから。
でも──
だとしたら、どうして足元は冷たく水に濡れているのだろう。寄せて返す
波の感触がまとわりつくのだろう。潮の匂いがこんなにも濃く鼻をくすぐるの
だろう──
どうして、どうして、どうして──
その瞬間は、突然にやってきた。まな以外にとっては。
ぱしゃんっ、とひときわ大きな水音。
そして、空間がコバルトブルーに染まり、テーブルや椅子や──そして人が
ゆらりと浮かび上がった。
コバルトの海の中、ぶくぶくと立ち上る銀の泡。
まな、と呼びかけた中年の男の口からぶくぶく。
きれい、と言いかけたドレスの女の口からぶくぶく。
うわ、と驚いき声をあげた男の口からぶくぶく。
ぶくぶく。ぶくぶく。ぶくぶく。
──誰も彼もが苦しそうに顔を歪ませ、もがく。
けれど、水圧で出口は空かず、水面を探しても天井まで目一杯海が満たして
しまっている。誰も逃げ場所はない。
あぁ、死んじゃう。
不思議に苦しくないけれど、きっと死んでしまうんだと。まなは、そう思っ
た。だって、水の中に閉じ込められたら誰だってしまう。それが当たり前だか
ら。
それならせめてと、もがく男のそばに寄り添って呟く。
ぱぱ、ダイスキ。
ぶくぶくと泡ばかり。
もうそんなものは見たくなかったので、まなは目を閉じて──
目を閉じて、再び開いたときに海はなかった。
ただ、恐ろしい形相で目を見開いた乾いた死体ばかり。
まな :「い、いやぁぁぁぁぁぁッ」
喉が割れるほど叫び、寄り添っていた愛しい彼の死体を突き飛ばして。
まなは、その場から逃げ出した。
解説
----
物語の始まりから一年ほど前のこと、まなの異能の目覚め。
ずんずんと日常から逸脱していってます。
──でもまぁ、確かにこんなことがしょっちゅう起きてたら『いわゆるゲン
ジツ』ってヤツがどうにもならなくなりますねぇ。うーむ。
関連ログ
--------
狭間全般Wiki - 高技能値の狭間
http://hiki.kataribe.jp/HA/?HighLevelHazama
$$
**********************************************************************
--
#====================================================================#
Sakurai.Catshop / 桜井@猫丸屋
e-mail : zoa73007@po.across.or.jp
blog : http://sakuraicatshop.blogspot.com/
---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30500/30546.html