[KATARIBE 30546] [HA] 高技能値狭間イメージ断片その19

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Date: Tue, 26 Dec 2006 01:38:24 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30546] [HA] 高技能値狭間イメージ断片その19
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 途中までチャットで一発書きしようと思いつつ、ぐだぐだになっちゃった
ので書き直し。

 さてはて、中年の男はどういう意味のパパだったんでしょうねぇ(笑)。

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[HA] 高技能値狭間イメージ断片その19
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たちのぼる、あわのぎんが
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 まな     :「パパ、サイコー! こういうトコ、来てみたかったんだ
        :よねー」
 中年の男   :「まなにはまだ早いと思ったんだがね。まこ、れだけ喜ん
        :でもらえると、細かいことなんかどうでもよくなるかな」

 ドレスの裾をふわりと翻し、中年の男の腕に抱きついた。
 クリスマスの夜景を見下ろせるホテルの最上階のバーだ。
 中年の男と、まだあからさまに未成年のまなの組み合わせは浮いている。
浮かざるを得ない。
 けれど、まなは気にしない。
 ルージュを引いてグロスものせて、メイクはばっちり。ひらひらのイブニン
グドレスからは、すっきりと華奢な足が伸びる。
 お澄まししてエスコートされるイブのわたしは無敵。そう決めたのだ。

 バーのスタッフ:「コートをお預かりいたします」

 スマートな振る舞いで、黒服のスタッフが二人のコートを預かる。
 なにもかもがオトナ扱いの夜。
 
 まな     :「わー、すっごぉい」

 案内された席は、窓際の二人がけのテーブルだった。
 広くとった窓の向こうに、きらきらと宝石をばら撒いたような夜景がどこ
までも広がっている。

 中年の男   :「何をのむ?」
 まな     :「シャンパンがいいなぁ。とびっきり素敵なの」

 男にしかめ面を作る隙を与えず、上目遣い。

 まな     :「ね? いいでしょ?」
 中年の男   :「──ヴーヴ・クリコのラ・グランダムを」
 バーのスタッフ:「かしこまりました」

 やったね、と男からは見えない角度で小さく舌をだす。この手で落ちなかっ
たコトはない。いわば、まなの決め球だ。

 まな     :「水族館、素敵だったねっ。シンベエザメは相変わらず
        :まぬーっとした顔だったけど──でも、水の中にいると
        :ロマンチックな気分に──」

 たわいもないおしゃべりが継ぎ目なく続く。それ自体が、まなのはしゃぎ
ぶりを何よりよく伝えている。自分でもわかるくらい。
 やがて、スタッフが台車を引いて戻ってきた。

 バーのスタッフ:「お待たせいたしました。ヴーヴ・クリコのラ・グランダ
        :ムでございます」

 ワインクーラーから丁寧に瓶を引き抜き、二人にラベルを向ける。
 ラベルには碇のマークと『Veuve Clicquot Ponsardin』の文字。
 なめらかな所作でスタッフはコルクを抜き、優美な仕草でグラスにシャンパ
ンを注ぎ入れる。

 金色の海の中、しゅわしゅわと立ち上る泡の銀河。

 まな     :「わぁ──きれー」

 ぽかん、と。まるで幼子の無防備な表情でシャンパングラスを見つめる。
 シャンパンというのはね──なんて男のウンチクに頷くのも耳を傾けるのも
忘れ、見入り魅入られる。

 中年の男   :「──さ、乾杯しよう」
 まな     :「あ、ああっ、うんっ」
 
 声を掛けられて、慌ててグラスの首に指を添えた。

 SE      :ちぃん

 澄んだ音を立てて、細身な二つのグラスがキス。
 とびきりの笑顔で男を見つめる。

 SE      :ぱしゃんっ

 そして、どこかで水音。


わきあがる、まぼろしのうみ
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 最初に気がついたのは、やはりまなだった。

 まな     :「──あれ、どこかで水音がしなかった?」
 中年の男   :「バーだからな」

 違う、そうじゃない。
 思ったけれど、辺りを見回しても何か変わったことが起こった様子はない。
みんなそれぞれの時間をすごしている。
 気のせいだ。きっと気のせい。
 そう思おうとするけれど、響く水音が耳から離れない。

 まな     :「──」
 中年の男   :「急に落ち着かないな。やっぱり、少し早かったかな?」
 まな     :「ううんっ、違うのっ」

 どうして、誰も?
 疑問の言葉を、かろうじて喉もとでとめる。あまり変なコトばかり言ってる
と本当にバーから出て行きかねない。彼は見栄っ張りな人だから。
 でも、どうして?
 どうして、さざなみの音がするのか。こんなにもはっきりと海の音がするの
に誰も気にしないのか。
 うかれすぎて、おかしくなっちゃった?
 そうかもしれない。今夜は、そのくらいシアワセな夜だから。
 でも──
 だとしたら、どうして足元は冷たく水に濡れているのだろう。寄せて返す
波の感触がまとわりつくのだろう。潮の匂いがこんなにも濃く鼻をくすぐるの
だろう──

 どうして、どうして、どうして──

 その瞬間は、突然にやってきた。まな以外にとっては。

 ぱしゃんっ、とひときわ大きな水音。
 そして、空間がコバルトブルーに染まり、テーブルや椅子や──そして人が
ゆらりと浮かび上がった。

 コバルトの海の中、ぶくぶくと立ち上る銀の泡。

 まな、と呼びかけた中年の男の口からぶくぶく。
 きれい、と言いかけたドレスの女の口からぶくぶく。
 うわ、と驚いき声をあげた男の口からぶくぶく。

 ぶくぶく。ぶくぶく。ぶくぶく。

 ──誰も彼もが苦しそうに顔を歪ませ、もがく。
 けれど、水圧で出口は空かず、水面を探しても天井まで目一杯海が満たして
しまっている。誰も逃げ場所はない。

 あぁ、死んじゃう。

 不思議に苦しくないけれど、きっと死んでしまうんだと。まなは、そう思っ
た。だって、水の中に閉じ込められたら誰だってしまう。それが当たり前だか
ら。
 それならせめてと、もがく男のそばに寄り添って呟く。
 ぱぱ、ダイスキ。
 ぶくぶくと泡ばかり。
 もうそんなものは見たくなかったので、まなは目を閉じて──

 目を閉じて、再び開いたときに海はなかった。

 ただ、恐ろしい形相で目を見開いた乾いた死体ばかり。

 まな     :「い、いやぁぁぁぁぁぁッ」

 喉が割れるほど叫び、寄り添っていた愛しい彼の死体を突き飛ばして。
 まなは、その場から逃げ出した。


解説
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 物語の始まりから一年ほど前のこと、まなの異能の目覚め。

 ずんずんと日常から逸脱していってます。
 ──でもまぁ、確かにこんなことがしょっちゅう起きてたら『いわゆるゲン
ジツ』ってヤツがどうにもならなくなりますねぇ。うーむ。


関連ログ
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  狭間全般Wiki - 高技能値の狭間
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