[KATARIBE 30531] [HA] 高技能値イメージ断片その十二

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Date: Fri, 22 Dec 2006 23:29:44 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30531] [HA] 高技能値イメージ断片その十二
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年12月22日:23時29分44秒
Sub:[HA]高技能値イメージ断片その十二:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
高技能値と聞いて「おお、要するに世の中からとっぱずす度合いが上なのか」と
思った奴がここに一名(なんかものすごく違います)。
とりあえず……こういう印象になってしまいます。

*************************

 流れる。
 どろりどろりと腐汁のような粘度と速度で。
 流れる。
 皮膚の僅か上、産毛を撫でてゆく感覚。
 流れる。
 流れてゆく。


 交差点の前のコンビニの横、すっかり少なくなった公衆電話と壁の間に入り
込むように、細っこい少女が立ち尽くしている。
 立っている、と、表現してはみたものの、しかし良く見ると、立っていると
いうよりは、何とか壁に凭れて倒れずに居る様子、余程酔ってでもいるのだろ
うかと思えば、その表情はひどく生真面目で、その表情が尚更に、彼女を幼く
見せている。
 少し長めのおかっぱに切った髪。セーターにジーンズ、その上から少し厚め
のジャンバー。全て黒の色の少女は、そこだけは異様に白く抜き出て見える顔
をこころもち上に向けた。
「やな夜」
 その唇から酷く冷たい声がこぼれた。
「やな、夜」

 
 流れる、という。
 例えば風。例えば水。例えば人の流れ。例えば地脈。
 今自分は何を見ているのか。
 それすら……押し流す勢いで。

 流れる。


「ねえ、ちょっと危ないよお」
 妙に鼻にかかった声と、同時に起る笑い声。男女の混じった笑い声は、ひど
く不吉なものに聴こえた。
「そんなとこでさあ、あんたみたいな子がひょろひょろしてるとさあ」
 精一杯親切ごかした声は、しかし口から出た途端にその正体を垣間見せる。
膝からの長さよりウエストからの長さを測るほうが余程手間要らず、といった
スカート姿の女子は、そこまで言うと口を大きくあけて笑った。
「危ないと、思うよ……こういう風に、さあ!」
 声と同時に、彼女の横に居た男の拳が、風を起こす勢いで飛び……

 そして、止まった。

「あーもう、あんた居ないから対応遅れるじゃん」
 今日と明日の境目に近づく時刻。鳥目と言われる……故にこんな時間には動
かない筈のその『何か』は、少女の肩の上で一つ頭を振った。
「なんだあ、人が居たのか……道理で」
 そして、どう、と、地鳴りにも似た音。
 濁った悲鳴と……凄まじい勢いで跳ね飛ばされる幾つもの人影。

「なんか体温じみた流れが来ると思った」
 肩の上の鴉は、やれやれと言わんばかりに首を振る。少女はその鴉に向かっ
てちょっとだけ笑った。年齢不詳の表情が、その時ばかりはひどく子供染みた
ものになる。
「みやまが遅いんだもの。わかんないよそんなの」


 流れる。
 例えば巌のようなものですら、時間の感覚を調節すれば、一つの流れの構成
因子となる。そのスピードでしかし視野を固定すると、人間の動きなどは既に
意識の範疇外に飛び出ることになる。
 流れる。
 流れは少女の味方である。
 しかし、一体今どの流れを味方にすべきか。その判断は……彼女の手に余る。
 それを収め、判断出来るものへと宥めるのが、この夜を抜き取ったような鴉
なのである。


「みやま」
 呼ぶ声に、鴉はくるりと首を動かした。
 漆の黒の中に、その目だけは琥珀に似た色を示して輝いた。

「やな夜だねえ、みやま」
 ゆらゆらと、少女は歩き出す。どのような人ごみの中も避けることなく、し
かしゆらりとその小さな身体が必然のように向かう先には、まるで呼び集めら
れた真空のような小さな空間がある。
 ゆらり、ゆらり。
 見る者が居れば、まるで奇跡のように。
 少女は人ごみの中を何一つ避けることなく、ただ進んでゆく。

 何者にも、触れることすら、なく。


 流れる。
 流れる。

「いやな水が流れてるねえ」
 虹彩と瞳の区別が付かないほど、黒々とした目がふうと上を向く。
「いやな……ほんとにいやな水が」

 ゆらり、ゆらり。

 止まろうともしない少女の目の前で、信号は魔法のように青に変わった。

***********************************

 少女の異能は『流れへの特化・特定・そして操り』となるでしょうか。
 ぶっちゃけ『天然モノの流体力学者』とでも(すごくちがいます)
 多分、中学生くらい。無論学校には……行けるどこじゃない子として。

 ではでは。
 
 


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