[KATARIBE 30525] [HA] 高技能値狭間イメージ断片その8

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Date: Thu, 21 Dec 2006 23:39:47 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30525] [HA] 高技能値狭間イメージ断片その8
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2006年12月21日:23時39分47秒
Sub:[HA]高技能値狭間イメージ断片その8:
From:月影れあな


 私的には、高技能値狭間というとこんなノリ。

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高技能値狭間イメージ断片その8
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登場人物
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 ハイータ   :なんとか財団の魔術師、位階は小達人。ハスターの息子。
 黒い男    :ナイアルラなんとかさん。

ある一つの終幕
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 地底洞窟の天井が、突如轟音を立てて崩れ落ちた。
 慌てふためく邪教の輩の中で、ただ一人だけ動揺した風もなく、悠然とたた
ずむものがいる。
 男は周囲のものにくらべ頭ひとつほど背が高く、すらりとした痩身でありな
がら、のっぽによく見られる不安定さとは無縁の偉丈夫だった。肌の色は浅黒
いながらも日に焼けたような健康さとは程遠く、明らかに日本人ではないとわ
かる顔立ちは、どことない高貴さが漂っていて、古代エジプトのファラオのよ
うですらあった。
 その黒い男は面白そうに、周囲で慌てふためく彼の下僕たちの醜態を眺めな
がら、誰にともなく呟く。
「こんな地下の奥深くで岩盤をぶち抜いて登場とは、相も変わらず無茶をする
ものだ」
 応えるように声が響いた。それは、世界のすべてを憎むような邪教徒たちの
暗い視線も、死んだ人の臓物のようなすえた異臭を放つ邪神の体臭も、日の陽
射し届かぬこの地底世界の闇そのものをも吹き散らすような、明朗快濶とした
一喝の正義だった。
「ナイアルラトホテップ! 米軍から核ミサイルを盗み出して、何をたくらん
でいたかは知らないが、俺が来たからにはその企み、潰えたぜッ!!」
「なるほど確かに、君が来たからには、さしもの我が教団も全滅は逃れ得まい。
久しいな、ハイータ。君もいい加減妹を見習い、死せるウィルマースの走狗な
どやめて自らの運命を直視してみてはどうかね」
「ほざけよ、邪神! 俺の目はもう夢しか映さねえ、そういう風に出来てんだッ!」
 謡うように、謳うように、高らかに咆える。それと同時に旋風が吹き荒れた。
閉鎖された洞穴の中でそれは嵐のように荒れ狂い、うねり渦巻き、震えるその
音こそはヒュアデスたちの歌、窮極の風、吹きすさぶハスターの聲だ。
「どうだ、ナイアルラトホテップ! いかな這いよる混沌と言えど、人のフェ
イズにシフトしている限りは、人の枠に捕らわれる。この場では、お前にはも
はや勝ち目は無いぜ」
 だが、黒い男はというと、さして動揺した風もなく、むしろ不気味に口元を
ゆがめて、可笑しそうに言い放つ。
「いいのかね、そのように大騒ぎをして。寝た子が起きるぞ」
「なんだとッ!?」
 突然、地面から伸ばされた黒い触手がハイータに襲い掛かる。
「ショゴス! いや、違うな。こいつは……」
 タールのような光沢を放つそれは、あっと言う間もなくハイータの口元まで
至り、包み込み、終には覆い尽くしてしまう。
「その通り、ウボ=サスラの落し仔だ。いかに君とて、自存する源の欠片に触
れてはただで済むまい」
「――ッ?!」
 対するハイータに返事の言葉はない。何事か叫んだようだが、それもすべて
黒い粘液の中に飲み込まれた。黒い男は、口元にはっきりそれと分かる嘲弄の
色を浮かべ、もはや返事をすることもできなくなった敵対者をあざ笑うように
言い放った。
「始原の水に溶け、生命のスープと成り果てよ、ハイータ」
「――ぁ……ぃア」
 その時小さな呻きが聞こえた。聞こえるはずのないものだった。
 ウボ=サスラとはあらゆる生命の源であり、あらゆる生命を自らの内に内包
するものである。欠片とはいえ、その別け身たる落とし仔も、当然ながら同じ
性質を持つ。
 英知を誇る魔道士も、山をも崩す怪物も、王様も、乞食も、尋常な生命であ
ればウボ=サスラに触れた瞬間その意味を失い、原始の海へと帰る。その筈な
のだ。
『……ィイア゛! イイアアアァァ、ハスタアアアァッ!! クフゥアヤアク 
ヴルグタム ヴグトラグルン ヴルグタムッ! ア゛イ゛! ア゛ァイ゛! 
ハスタア゛ア゛ア゛ア゛ァッ!!』
 轟と音を立てて風が、ウボ=サスラの落とし仔の内側より爆ぜる。
 粉々に切れ弾けた落とし仔の断片は、瞬間、陽光のような光を放って白い大
理石の欠片へと変質し、雪のように辺り一面を舞い散った。
「黄太子(プリンス・イン・イエロー)! ようやく本性を現したな、ハスター
の息子よ!」
 内より出でたそれは、ハイータであり、しかしハイータではないなにかだっ
た。それは蛇のように蠢き、蛸のように絡み合い、襤褸のようにはためき、一
刻ごとにその在り様を変じ続ける名状しがたきものであった。
 かろうじて、人の形を保った蒼白の貌が、抉り抜かれた虚ろな眼窩でもって
黒い男を睨みつける。正常な精神を持った人であれば、直視しただけで自らの
うちに沸き起こる恐怖に圧され、己の手で目を抉るであろうその異容に、男は
しかし欠片ほどの動揺さえ見せず、静かに言葉を投げる。
「あらゆる生命はウボ=サスラより生じ、ウボ=サスラへと帰っていく。それ
は君ら、キタミールより飛来したものの末裔とて逃れられぬさだめなのだ。知
らぬわけでもあるまい」
『だがそれは遠い未来の話だぜ。地球がいつか老い果て、人類が星々のいやは
てのへと巣立って久しい時のことだ。少なくとも俺の目の黒いうちは、そんな
ことにはさせねえよ』
「ほざけ、邪神狩り(ホラーハンター)。元より貴様に目などあるまい」
 黒い男は微笑さえ浮かべて、小さく首を振った。
「今回はどうやら私の負けのようだ。おめでとう、ハイータ。今、世界は君の
手によってすくわれたのだ。しかし、それになんの意味があるというのかね?
終末など、どこにでもありふれているというのに? それこそ、地に満たされ
た人の数程に」
「だからなんだ。そんなもの、片端から全部叩き潰しちまえば同じことだ。違
うか!」
「……なるほど、確かに君は人間だよ。ハスターの息子」
 圧倒的な風の一撃が、黒い男の体を押しつぶす。それでお仕舞いだった。



時系列と舞台
------------
 地下の奥深く、ウボ=サスラの眠る洞穴にて。

解説 
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 アザトースの光をもってウボ=サスラをまどろみから呼び起こそうとする邪
神の企みを打ち砕け、ハイータ!


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