[KATARIBE 30522] [HAN] 「比企探偵事務所 - early days - :騎士団と魔女・前編」

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Date: Thu, 21 Dec 2006 22:57:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30522] [HAN] 「比企探偵事務所 - early days - :騎士団と魔女・前編」
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2006年12月21日:22時57分54秒
Sub:[HAN]「比企探偵事務所 - early days -:騎士団と魔女・前編」:
From:Saw


[HAN]「比企探偵事務所 - early days -:騎士団と魔女・前編」
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登場人物
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 東海道ヨルグ :女子大生騎士。
 他。

前編
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 東海道ヨルグは商店街通りを駆けていた。
 真昼だというのに空は赤く染まり通りには誰もいない。
 普段なら主婦たちのさざめきに子供の喚声が混じるような時間帯なのだがそれ
もない。聞こえるのはエアコンのモーター音と自分たちの纏った鎧がこすれる金
属音くらいのものだ。
 スーパーマーケット前に停められた自転車群、タバコの吸殻が挟まった側溝、
下準備中の焼き鳥屋の屋台。全ては普段どおりの景色なのに人だけが忽然と消え
ている。それはなんて気味の悪い風景なんだろう。
 まるで世界から自分たちだけが取り残されてしまったような不安に駆られる。

「ヨルグ、落ち着いて」

 先行していた山陰道三兄弟の末弟、ジードに声をかけられる。
 どうやら不安が表情にまで出てしまっていたらしい。ヨルグは恥じる。半年前
に叙任されたばかりとはいえ自分も今や栄えある騎士団の一員なのだ。経験はと
もかく心構えで同志達に遅れを取るようでは先が思いやられる。

「すいません。しかし、住民たちは何処へ消えてしまったのでしょうか」
「住民がいなくなったのではなく我々が住民のいない世界に入り込んだのです。
ほら、あの鏡を見て」

 寂れた紳士服店の姿見を
 そこには確かに平然と日常を営む人々の姿が映りこんでいた。

「奴らは好んでこういった場で悪を行います。ここは我々の世界と近似の魔境。
こちらでの影響は少なからずあちらにも出る」
「連中の言う他界、ですか」
「神が作りたもうた世界は一つです。楽園は未だ我らには遠く、ならば此処は地
獄に他ならない。他界などと言う世界がいくつもあるような発想はそれ自体が許
されるものではない」
「心得ています」
「さ、無駄話はこれくらいにして行きますよ。兄上達ももう配置に着く頃です」
「はい」

 ヨルグとジードはあらかじめ決められた自転車屋の二階に陣取る。勝手に他人
様の家に入るのは気が咎めたが、ここは今誰の家でもないのだと納得する。
 二階は居住スペースになっていて、東向きの大きなベランダからは目標のいる
小さな公園がよく見える。

「アレです」
「アレ……ですか。よく見えませんね」

 確かに誰かが公園中央のベンチに座っているようではあったが、その姿は桜の
樹の影になって見えない。
 ヨルグは初めての敵がどんな相手なのか大変気になり、自分の守護天使に観察
に行かせる欲求が出てくる。

「グリゴリに見に行かせましょうか」
「いえ、今は待ちましょう。兄上達が来る前に勘付かれてはまずい」

 ヨルグにとってこれは初任務。しかもいきなりの大物だと聞く。配置された上
級騎士二名、下級騎士三名、万全の布陣。特に上級騎士の山陰道三兄弟が長兄ミ
ハエルは過去幾度にもわたり『連中』の化物を討伐してきた猛者。ヨルグにとっ
て英雄に近しい存在だ。
 ヨルグは身に余る栄誉に胸が高鳴っていた。
 『連中』を目の当たりにするのは始めてだ。話を聞くだにその姿はまるで定
まっておらず、ただ眼が赤いということしか共通点がない。
 だが例えその相手が英雄譚に出てくるドラゴンであろうとも今の自分たちなら
引けを取らないという自負がヨルグにはあった。

「ヨルグ。兄上が名乗りを上げたら順に名乗っていくのですよ。わかっています
ね」
「はい。存じております。私は桜でよろしいのでしょうか」
「いえ、貴女は黄です」
「え! 黄なのですか。しかし今回の任で私がただ一人の」
「いえ、貴女は黄です」
「はっ……わかりました」

 その時だ。辺りの建物を爆音が揺らす。
 騎士団に伝わる聖戦の狼煙。それは真紅の煙を10メートル先の公園広場に撒
き散らす。公園は見る間に煙に包まれる。
 それが合図だった。
 ジードはその女性的な顔を覆い隠すようなフェイスガードをつけて細身の剣を
抜く。
「ヨルグ、御武運を」
「御武運を、ジード」

 角笛が無音の空間にこだまする。

「我は聖ローリエ騎士団が赤の騎士、灼熱の山陰道ミハエル! 神の逆徒たるミ
ンスキーの係累よ。今日この場所が貴様の墓所となると知れ!」

 白馬に跨った重装の騎士が公園広場になだれ込む。
 それに続くようにして一人、また一人と突撃していく上級騎士たち。
 ついに聖戦が幕を開けたのだ。

「さあヨルグ、我々も行きますよ!」
「ハイッ! あ、しかし煙が濃くて前がっ」

 ジードはベランダをガラリと開けてトウッとかけ声を上げながら公園に飛び込
んでいく。金属鎧が落下する派手な音がすぐ下から聞こえた。
 ヨルグもまた遅れてそれに続く。飛び降りた瞬間鎧の重量で脛が悲鳴を上げる。
折れたかもしれない。咄嗟に治癒魔術で応急処置。
 下級騎士には馬が与えられていないがその方がこの狭い商店街では利便性が高
い。高い場所から飛び降りるのは下級騎士の特権だ。

「我は蒼の騎士、大海の山陰道ザブル!」
「同じく碧の騎士、新緑の中仙道エリク!」
「同じく桜の騎士、絢爛の山陰道ジーグ!」

 飛び降りた時にずり落ちたハーフヘルムを直しながら配置に付き剣を抜いて身
構える。
 狭い空間で大量の狼煙を使ったものだからまるで前が見えなかったが、それで
も懸命に成すべきことをする。

「同じく、黄の騎士! …………東海道ヨルグ!」

 その時、ヨルグの声を掻き消すように大風が吹いた。
 みるみると煙が晴れて中からベンチに座る人影が浮かび上がる。

「じょ……女子中学生?」
「やはり女子中学生なのか……」
「なんと……」

 ヨルグの呟きに反応し、騎士団の男たちがどよめいた。
 セーラー服におさげと言う今日日あまり見ないスタイルの少女が其処には腰掛
けていたのだ。
 少女はパタン、と読んでいた文庫本を閉じる。

「……で?」

 少女は開口一番ヨルグを睨んだ。赤い眼が煌々と光った。
 ヨルグの本能が告げる。これは危険な相手だ。一番新米の自分を睨みつけるな
んて卑怯じゃないか。こういう時はリーダーを睨むのが普通だろう。

 一瞬飲まれかけた空気をミハエルが鴇の声でもって取り戻す。


「我等聖ローリエ騎士団! 里見一族の娘よ、身をもって神の威光を知れ!」

 剣を高く掲げるミハエル。その勇壮さは噂と寸分違わぬ。太陽の光届かぬこの
空間においてなお光り輝くその聖剣にヨルグは強く勇気付けられる。
 突如地面を突き破った巨大な根にミハエルがなぎ倒された。さらに大きくし
なった根の先端が倒れたミハエルのフルヘルムを殴打する。

「うるさい……」

 少女は怒っていた。ヨルグは何が起きたのかわからない。脇にいた上級騎士の
二人が速やかに根を切り払いミハエルを助け起こす。まだ何もしてないのに何故
怒っているのか、それが何よりもわからない。

「ミハエル殿っ」
「ミハエル殿っ」
「おのれ、小娘であっても平気で卑怯な真似をしよる。それが貴様らのやり方
か!」
「これくらいは世界基準……多分」

 切り払われた根が次々と再生し分岐し、騎士たちを弾き飛ばしていく。
 ヨルグは戦慄した。あの根はあの少女が操っているというのか?
 根は次々と公園の地面から突き出し、その全てが統一された意思を持って騎士
達を襲う。先端部は眼に見えぬほどに速く、盾で受け流しても骨が折れんばかり
の衝撃。

「火だ! 聖火を掲げよ! あの魔女を焼き払え!」

 ミハエルが怒号を上げる。
 低く身を屈めカイトシールドで身を守りながら騎士たちは聖布にチャッカマン
で火をつけていく。
 オイルライターはガントレットを嵌めたままでは扱いにくい。騎士団ではもっ
ぱらチャッカマンの使用が推奨されていた。この辺り、先達の経験が生きている
と言えよう。
 ヨルグも剣に聖布を巻き火を灯す。聖布はゴウと音を立てて燃え上がり、ヨル
グは炎の剣を手にした。
 炎の勢いは凄まじく根はみるみる燃えていく。
 行ける! ヨルグは声を上げてそのまま少女に切りかかった。

 巨大な蓮の葉に阻まれた。
 蓮は大量の水をたたえ、ヨルグにそれをぶちまける。

「ふわぷっ」

 剣の火は消されこの日のためにソバージュしてきた髪が濡れそぼった。

「ヘルメスの多様な花……ただ魔女とだけでもいいけど」

 少女が名乗ったのだかなんなのだかわからない言葉を呟く。
 それを合図にして公園は真実地獄へと変わっていく。
 ヨルグを阻んだのと同様の蓮の葉が次々と伸び、公園を多い囲む。それが辺り
に水をぶちまける度に地面が苔生し、得体の知れない植物に公園は覆われていっ
た。
 騎士たちは皆次々と産まれる怪植物たちに翻弄された。あるものは牙あるイチ
ゴに指を食われ、またあるものは耳を葉でこそぎ落された。ヨルグもうっかり触
れた木の実から吹き出した酸に肩から首を焼かれた。最初に浴びた水で鎧もみる
みる腐食を始めていた。
 父にローンで買ってもらったばかりだというのに。
 ヨルグは悔しさで泣きたくなってきた。
 総崩れかと思われた。木々の笑い声と騎士の悲鳴しか聞こえなかった。
 しかしその中ただ一人立っている者が居る。
 右手の剣を突き立てて雄々しく天を指さす男がいる。

「アークアンジェラス! イーグルマンサー!」

 空が裂け、虚空に身の丈4mの鉄巨人が剣を構えて現われた。
 イーグルマンサー、それは上級騎士ミハエルの守護天使。
 後翼部から伸びる六門のバーニアが一斉に火を噴き眼前の魔女に突撃。

 魔女は眼を細めてついに動く。くるりとターンし、紙一重で剣を避ける。だが
剣を避けたところで意味はない。イーグルマンサーの突撃は体当たりでもあるの
だ。
 魔女の小柄な体は鉄の体に押し潰されて血と肉の塊に変わる、はずだった。
 次の瞬間、魔女は平然とうずくまるヨルグの脇に立っていた。
 そのままヨルグの背をベンチ代わりにして腰掛ける。

「消えた?」
「惑わされるな、幻覚だ!」

 ヨルグは小さな悲鳴を上げて魔女を振り落とし公園の隅に必死で逃げる。

「幻覚……ね」

 ヨルグがそこで視たのは、公園の木々の根から次々と魔女が「生えてくる」光
景であった。

「撤退! ポイントA-2で落ち合うぞ! ここは俺に任せろ!」

 ミハエルの声に反応し一目散に逃げる騎士達。打ち合わせたポイントはこの公
園A-1ともう一カ所のA-2しかないのでヨルグにも安心だ。
 イーグルマンサーは孤軍奮闘していたが次々と伸びる蔦に絡まれて地に引きず
られていく。光学兵器の発射口も聖剣も全て苔とカビに侵食されて何一つ抵抗出
来ずに天使が堕ちていく。

 数分後別ポイントに移動出来たのは4人。下級騎士中山道エリクの姿がそこに
はなかった。31歳。新婚だった。力自慢で小鳥と歌うのが好きな優しい男だった。
出世は遅いがまだこれからの勇士だった。騎士達は一頻り彼の死を悼む。
 そして次の作戦に移る。

「こうなったらアレを使うしかあるまい」
「……アレ、ですか」
「しかしいいのかミハエル」
「オレが責任を取る」
「あの……」
「どうした東海道」
「アレとは一体」
「これさ」

 アイパッチの騎士、山陰道三兄弟が次兄ザブル。彼は担いでいた大荷物を降ろ
すと祈りの言葉を呟いてその聖櫃とでも呼ぶべき箱を開ける。

「これはっ」
「聖遺物アイオーンファイアー。これで焼ききれんものはないよ」
「ミハエル卿、恐れながら私にはただの5つの武具にしか……」
「これはこうして使うのさ」

 ミハエルが五つの武具、聖剣、聖矛、聖盾、聖杯、聖トンファーを組み合わせ
ていくとそれは神の威光を体現する重火器となる。

「本来コレは騎士五人でやっと扱える代物なんだが……」
「大丈夫だよ兄さん。僕達にはエリクがついてる」
「そうだぜ兄者。恐れる事はない」
「え……そうなんですか?」

 三兄弟がヨルグを見る。

「……いえ、私もそう思います」
「そうだな……俺達にはエリクが付いている」
「あ、あと一つよろしいでしょうかミハエル卿」
「どうしたヨルグ」
「そんな凄いモノをいくら魔境とはいえこんな街中で使っていいのでしょうか?」

 三兄弟がヨルグを見る。

「……大丈夫ですよね。信仰のためですし」

 そういうことになった。

                 米                  

解説
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 高技能値狭間イメージ。「比企探偵事務所 - early days -」より。
 イメージ。上級騎士15。下級騎士13。限定解除ヘルメスの花16?



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