[KATARIBE 30482] [HA06P] 「スワロウテイルの夜6:奴隷衆」

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Date: Wed, 13 Dec 2006 21:09:42 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30482] [HA06P] 「スワロウテイルの夜6:奴隷衆」
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2006年12月13日:21時09分42秒
Sub:[HA06P]「スワロウテイルの夜6:奴隷衆」 :
From:Saw


[HA06P]「スワロウテイルの夜6:奴隷衆」 
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登場人物
--------
 九折因 :少女。吸血鬼。罪人。
 陀絡  :奴隷遣い。吸血鬼。

奴隷衆
------
 近鉄吹利駅より徒歩5分程の所にあるビジネスホテルに陀絡はいた。市街地か
ら外れかけた場所にある其処は繁盛しているとは言えずサービスも悪かった。だ
がそれゆえに足が付きにくく陀絡のような者には都合がいい。(余談だが陀絡は
この場所に来る前にごく一般的な成人男性の奴隷と入れ替わっていて、チェック
インは彼にさせている)
 陀絡は入室してまず室内を触れてまわる。鉄線の入ったガラス窓は小さく、隣
のビルの外壁とそう離れていない。これなら朝日もろくに射すまい。扉の鍵が酷
くちゃちだが、どの道吸血鬼を相手にしたら最新型のシリンダー錠とて気休めに
もならないので構わない。部屋を一応合格と見た陀絡はベッドに腰掛けた。
 陀絡は全盲だ。故に寝床に日光が射し込まないか、異変の際にすぐ反応出来る
程度に壁が薄いか等には気を遣う。
 襤褸の法衣に深編笠を被ったその姿は部屋とまったく馴染まなかった。陀絡の
いるスペースのみが一種の他界として成立している。
 深編笠を脇に置き、腰から伸びた鎖の一本に指をかけた。安ベッドの軋む音が
いささか耳障りだったが集中には何の問題もない。鎖は陀絡の影を通って京都の
実宅まで延びている。
 じゃらん。
 陀楽は鎖を引いた。手ごたえは確か。疲労した少女奴隷の口に新鮮な血が運ば
れているのがわかる。幾重にもかけられた術が解かれ、拘束衣が脱がされていく
のがわかる。
 次に身体状況の確認。呼気が荒く体力の消耗が激しい。術のセンスなどはいい
のだが持続力がないのがこの奴隷の欠点だ。

 因      :「陀絡さん。状況を教えてください」

 鎖を通して奴隷──九折因の方から声をかけられる。

 陀絡     :「先程の野良猫に『獲物』が目覚めたら連絡させるよう言う
        :といたわ」
 因      :「え、それだけ? 尋問するんやなかったんですか?」
 陀絡     :「その必要はのうなった。お前さんのおかげでもっといい餌
        :がかかったからのう」
 因      :「……そらまあ言われたとおり徴はつけときましたけど」

 鎖の向こうの因が自分の指先の糸を手繰る。
 因果の蜘蛛糸──先代の紋白が見定めた獲物にくくりつけ、いつでも好きな時
に見つけ出すために使った徴。

 陀絡     :「あの餓鬼が儂の下にいた頃、その術で奴は一度狙った獲物
        :は何日かけてでも仕留めてきた……なんせ繋がってるっちゅ
        :ー縁だけあって実体がない不滅の糸やさかい」
 因      :「へぇ、これそういう仕掛けなんですか。自分で使っといて
        :なんですけど。まったくあの人らしい偏執な術や……」

 そこまで言って突然、鎖の向こうで因があばれだす。近くにいた奴隷が蹴り飛
ばされた。

 因      :「もうあとは着替えられるからあっち行っててください!」
 陀絡     :「おう、どうした」
 因      :「あんな、奴隷衆の人らっていい人なんか知らんけど気利か
        :せすぎやわ。着替えくらい自分でできるっちゅーねん。髪も
        :いーいー! 痛いから無理に梳かさんといてっ」
 陀絡     :「ハハ、そらしゃーない。そこに居んのはグール連中や。儂
        :が世話しろ言うたらそうするだけの知性しかあらへん」
 因      :「じゃあはよ追っ払ってください。そんな恥ずかしい寝間着
        :着れますか! 怒るで! ──ハァ。せやけど揚羽さんがこ
        :んな手で言うこと聞くんやろか」

 ようやく落ち着いたらしい因が再び指先の糸を持ち上げた。

 陀絡     :「さあな。聞かんかったらさっさと切って他の手使えばええ。
        :派手に暴れて銀薔薇の連中に感付かれんことのが重要や」
 因      :「アバウトや……」
 陀絡     :「ハハ。せやけど揚羽の奴あの人猿に随分入れこんどるみた
        :いやからな。そう悪い手でもない。儂はそういう鼻は利く」
 因      :「……人質とかあんまり好かんのですけど」
 陀絡     :「わかってへんのう紋白。奴隷に選択権なんてないねんで。
        :柁忌んとこの預かりもん言うてもうちに来た以上奴隷は奴隷。
        :鎖で引きずりまわされる定めよ」
 因      :「それは十重に心得ております。《奴隷衆》頭目"一本ダタ
        :ラ"の陀絡殿」
 陀絡     :「クハハハ、そんならええ。それを心得とる限り軽口にもつ
        :きおうたるし可愛がってもやる。"同族喰らい"の紋白殿」

 それきり鎖の向こうの少女奴隷は黙りこくる。
 陀絡はラジオを小音量でつけて聞きながら気長に相手の反応を待つ。
 立場を明確にさせる必要が陀絡にはある。基本的に奴隷は自主的に動いて貰っ
た方が効率がいい。そしてそうなるようにじわじわ仕向けるのが陀絡の手口なの
だが、それでも自分が奴隷だという意識をなくされては困る。

 因      :「……ほな何したらええですか」
 陀絡     :「そうやのう。とりあえずそっちで休んだらええ。体力戻っ
        :たらあちらさんが動くまで待機やな。観光でもしたらどや」
 因      :「拘束衣着て観光なんて出来るかいな」

 結局九折因は揚羽を放ってはおけない。無理せずとも軽く鎖を引いてやればあ
とは思惑通りに動く事になる。
 飴と鞭。陀絡が100余年に渡って御薗の君の奴隷衆頭目であり続けたのはその
バランス感覚の良さに因るところが大きかった。

解説 
---- 
狭間06hiki-スワロウテイルの夜 
http://hiki.kataribe.jp/HA06/?SwallowtailsNight 

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