[KATARIBE 30480] [HA06N] 小説『ナンクロ』

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Date: Tue, 12 Dec 2006 23:14:02 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30480] [HA06N] 小説『ナンクロ』
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ふきらです。

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小説『ナンクロ』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/ 
  片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

 ケイト:
  蒼雅紫が生み出した毛糸のよく分からない生き物。癒し系。


本編
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 12月も入ったところで相変わらずの裏部室。外界と微妙に切り離されている
せいか、この部屋には外の寒さも関係ないようだった。
 中にはいつものように聡と夕樹がいる。
 夕樹は本を読んでいるようだったが、よく見ると本に書き込みをしている。
それに気が付いたケイトが彼の元にやって来て、本を覗き込むように背を伸ば
した。
「……見えないって」
 手元を隠された夕樹が苦笑いを浮かべ、ケイトを突っつく。
「何やってんの?」
 聡が顔を上げ、夕樹の手元を見て尋ねた。
「ん…… 漢字ナンクロ」
 夕樹はそう答えて持っていた本の表紙を聡に見せる。そこには「漢字ナンク
ロ」、とそのまんまのタイトルがあった。
 しかし、聡は首を傾げる。それを見て夕樹は、「あれ?」と顔を上げた。
「ナンクロを知らない?」
 聡が小さく頷く。
「聞いたことはあるんだけど、よく知らない」
 夕樹は広げていたページを聡に見せて、ナンクロの説明をする。クロスワー
ドに似ているパズルだが、白枠に番号が振ってあって同じ番号に同じ文字を入
れて、単語を作っていくものである。一般的なものはクロスワードと同じくカ
ナを使うが、夕樹が今やっているのはその漢字版だった。
「たまに漢字を書かないと忘れるんだよね」
 夕樹の言葉に聡は頷いた。
「……分かる気がする」
 でも、と夕樹は本に目をやって眉をひそめた。
「この本つまらないんだよ」
 本を持ち上げて、上下に振る。
「へ?」
 聡がポカンとした表情を浮かべた。
「何だか一所懸命楽しそうにやってるみたいに見えたんけどなあ」
「いや、楽しいことは楽しいんだけどね」
「ふむ?」
 夕樹は先ほどまで解いていたパズルのある部分を指さす。
「ほら、ここのように同じ番号の枠の並びが一つのパズルによく出てくるんだ
よ」
「ふうん、同じ熟語が何度も出てくるのか」
「そうそう。あと、大抵のパズルに「学」って漢字が入るんだよね」
「ああ、二字熟語の前にも後ろにも使える字だもんなあ」
 やれやれ、と言わんばかりに夕樹は大きく溜め息をついた。
「やっぱり15×20くらいじゃ小さいなあ」
 聡はそれがどれくらいの難しさなのか、よく分からず、夕樹を見て首を傾げ
た。
「……今度、それどっかで買ってこよう」
「うん。あ、僕が持っているような漢字ナンクロだけのじゃなくてクロスワー
ド雑誌の方が良いと思うよ」
 そして、小さく苦笑い。
「漢字ナンクロばかりだと、多分飽きるから」
「ふむ…… そうするよ」
 そんな漢字ナンクロばかりの本をやっている人に言われても、と聡は思った
が、口には出さないでおく。
「ああ、でも」
 夕樹は本を机に置いた。
「ん?」
「ちょっと意外かも」
「へ?」
「関口君ってクロスワードとか普通にやってそうだと思ったんだけど」
 それはいったいどういった根拠からくるのか、と聡は苦笑した。
「いや、クロスワードはよくやるけど」
 よく、と言っても新聞の片隅に載っていたら解く、といった程度である。
「でも、それは初めてだなあ」
「へえ…… 僕はクロスワードよりこっちだなあ」
「うん、これも面白そうだね」
 聡は机の上のナンクロの本を手にして、パラパラと捲った。半分ほどまでは
既に解かれている。
「うん、面白いよ。僕としては普通のカナの奴よりも断然こっち」
 夕樹が笑う。
 その様子を見て、聡は口元に笑みを浮かべた。
「……どうしたの?」
 夕樹は眉を少しひそめ、首を傾げる。
「うん、高瀬君って、要するに、日本語がとても好きなんだろうなって」
「そりゃ、勿論」
 当然、と言わんばかりに目を細める。
「……だよね」
 それを見て、聡は小さく微笑んだ。

時系列と舞台
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2006年12月。裏部室にて。

解説
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たまには本以外のものを。

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