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Date: Sun, 10 Dec 2006 22:22:03 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30467] [HA06N] 小説『夕餉時』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年12月10日:22時22分03秒
Sub:[HA06N]小説『夕餉時』:
From:久志
久志です。
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小説『夕餉時』
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登場人物
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相羽尚吾(あいば・しょうご)
:吹利県警刑事課巡査。
相羽真帆(あいば・まほ)
:自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。
赤ベタ・青ベタ・メスベタ
:相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
雨竜 :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く
湯上り
------
少しざらっとした浴衣の肌触りが火照った肌に心地いい。
「いい湯だったねえ」
「うん」
湯から上がって、用意された浴衣に着替えて一息ついたところ。真帆は少し
のぼせたらしく、座椅子に心もち体を預けている。まあ、あがりたくても出る
に出られなかったんだろうけど。
「相羽さん、疲れ取れた?」
「ああ、ずいぶん軽く感じるよ」
「よかった」
そのままへにゃへにゃと、崩れ落ちるように座椅子に沈み込む。
その傍らの畳の上には雨竜が腹をぺったり下にして長い体をだらんと伸ばし
ている。その雨竜の横に横倒しになってくてっと転がる赤青のベタ二匹、もう
一匹のメスベタはというと、どういうわけか黒塗りの机に置かれた茶托の上で
尾頭付きの鯛のごとくころんと横になっている。よく考えてみると随分奇妙な
光景かもしれないね。
ふと、部屋にかかった時計に目をやる。
随分とのんびり湯に浸かったつもりだったが、まだ夕飯には少し早いくらい
の時間。
「まだ、六時過ぎなんだねえ」
「あ、うん……まだ早い」
ふと、こっちの顔を見上げる。
「何?」
じーっとこっちの顔を見たまま。
「相羽さん、だあ」
「そうだよ」
何かものめずらしいものでも見るような顔で、ずっと向かいの席で腕組みし
た自分をじっと見つめている。
「よかった……相羽さん、無事で」
「そりゃ無事だよ」
そんな毎日毎日命張ってるわけじゃないし、ねえ。
と。
部屋の入り口の向うから、きしきしと響く微かな音。
咄嗟に荷物の傍らにおいてあった篭を開けて、伸びたままの雨竜とベタ二匹
を放り込んで蓋をする。
「相羽さん?」
「きゅーーー!?」
抗議の声と篭の中で暴れるベタ達を押さえて。
「しっ」
音が止まり。入り口の向うからよく通る声が聞こえる。
「失礼いたします、いまよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
篭を真帆に預けて向き直る。
「失礼いたします」
すっと静かに戸を引いて、四十歳ほどの恰幅のいい女性が顔を見せた。
「本日はご利用ありがとうございます」
「ええ、いい湯でした」
「それはようございました。本日のお食事の方ですが。宴会場とお部屋でのお
食事の二つがございますが、どちらにいたしましょうか?」
ちらっと横目で真帆と押さえた篭を見る。下手に留守番させたら拗ねるどこ
ろの騒ぎじゃないね。
「ああ、部屋にしてくれる」
「はい、かしこまりました。それではご用意できましたらお部屋の方へお運び
いたします」
「お願いします」
一礼して立ち去ろうとする前に。
「あ、それと日本酒ある?」
「はい、地元造り酒屋の地酒がございますよ」
「じゃあそれ一本」
「はい、ご主人さまと奥さまと、グラスお二つで」
「いや、ひとつで」
「では、ご主人さまだけですか」
「いや、嫁の」
「まあ、奥さまでしたか」
「俺は下戸なもんで、お願いします」
「はい、かしこまりました」
向かいで何か言いたそうな顔をした真帆に軽く片目をつぶってみせる。
仲居さんが出て行った後。
「きゅーーーー!!」
「ああ、悪かった悪かった」
細い体をうねらせて抗議する雨竜とヒレをばたつかせてむくれるベタ二匹を
何とか宥める、というか後から考えるとメスベタのことをすっかり忘れてた気
がする。気づかれなかったからいいけど。
可愛いとこみたい
----------------
景色が見られるようにと、窓際に置かれた食卓に並べられた料理の数々。
「わあ」
感嘆交じりの真帆の第一声。
正直、俺も似たような気分だけど。
見るからに新鮮な山の幸に造り豆腐、彩りにこだわった品々が手製と思われ
る食器にのせられて並んでいる。
「随分、いいとこなんだね、ここ」
「ホントに」
史の奴の紹介ってことで、割と格安でとってもらったとこだけど、正直ここ
まで立派な宿だとは思ってなかった。
「まあ、食べよっか」
「うん」
「きゅーーーー!」
「わかったわかった、とってやるから」
小皿にとろうとすると間髪いれず目の前で赤と青がばたばたと暴れる。
「……お前らにもとってやるから、暴れない」
じたばた暴れるベタと雨竜を手で寄せながら、小皿にひとつひとつ料理をと
りわける。目の前で真帆が口を押さえて笑いをこらえながら、小皿の前にでん
と陣取ったメスベタの為にあちこちに箸を動かしながら料理を載せている。
「じゃあ真帆。注ごうか」
「え?」
氷の入った硝子作りの器で冷やされた瓶を手に取る。
「あ、後でいいです……」
「なんで? 折角の旅行なんだし、帰る心配も片付けもしなくていいんだし」
「いや、てか、相羽さんが休むのが中心なんだしっ、相羽さんの希望を優先さ
せるべきだと」
二人で休みたいからきたんじゃん、そんなに堅苦しいこと言わなくても。
「んー、そだねえ。俺の希望としては……酔ったお前さんが見たいかな?」
「……はあ?」
「だってさ、お前酔ったとこ、可愛いから」
ぽかんと口を開けた顔が一瞬で耳まで真っ赤になる。
こういうとこが可愛いんだよね。
「ってかねえ、あたしは!」
ぺしん、とテーブルを叩いて。
「酔ってる自分って嫌いなんですけどっ!」
「俺は好きだよ? だってちゃんと言いたいこと言ってくれるから」
普段あれこれ溜め込んでることとか、酔った時くらいでないとぶちまけない
からね。でも逆に普段ちっとも駄々をこねたりしてこないからこそ、たまに見
せてくれる我侭がたまらなく可愛いんだけど。
「…………殆ど愚痴じゃないですか」
「そーやって本音で愚痴ってくれるとこが見たいかな」
俯いたままで上目遣いで見上げる。
「…………でも」
ふと、真帆の顔が真顔に戻る。
「相羽さん、また、お仕事が入ったりしたら……大変じゃない?」
「まあ、仕事は……ね」
こればっかりは、なんとも。
「でも、せめて一緒にいる間くらいは」
「……そう、だけど」
もそもそと消えそうになる言葉を聞きながら。
「真帆の可愛いとこ見てたいじゃん?」
笑っちゃ悪い、んだけどねえ。
肩をすくめて真っ赤な顔で上目遣いになってる姿が、妙におかしい。
「ほら、ま、一杯」
「……はい」
そこで素直にお猪口差し出すところは、流石に呑み助だねえ。
時系列
------
2006年9月はじめ
解説
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先輩と真帆さん、温泉旅行一日目。温泉を堪能したあとの食事。
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以上。
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