[KATARIBE 30449] [HA06N] 小説『本に悩む』

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Date: Wed, 6 Dec 2006 23:20:54 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30449] [HA06N] 小説『本に悩む』
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ふきらです。

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小説『本に悩む』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

本編
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 12月に入り、街を包んでいるクリスマスの雰囲気は段々と濃くなってきてい
る。
 本屋も例外ではなく、クリスマスに関係する絵本などが集められた特設コー
ナーが作られていてクリスマスに向けての準備は整えられていた。
 夕樹はその前で並べてある絵本を見つめていた。近くに置いてあるラジカセ
からはクリスマスソングが流れている。
 さすがにちょっと早いんじゃないかな、と夕樹は小さく苦笑した。しかし、
すぐにその笑みを引っ込め、溜め息をつく。
「ああ、どうしよう……」
 ここ最近の悩み事はクリスマスに聡と交換する本をどうするかということ。
どういったものにすればいいかここ最近ずっと考えているが、夕樹には全く良
いものが思い浮かばないでいた。
 単に喜んでもらえるものならいくつか思いつきはする。例えば、今目の前で
広げられているような絵本とかも案外良いかもしれないし、おそらく歌集とか
でも聡は喜んでくれるだろう。
「でもなあ」
 しかし、それでは当たり前、というか既に予想されていそうで、これで驚か
そうとするとかなり難しい。
 古本屋を巡って稀少本を探すという手もあるが、稀少すぎて全く知られてい
ないような人の歌集を贈っても驚いてくれそうにない。第一、そういった本は
それなりに値段がして2000円以内という制限を超えてしまうし、希少本に関す
る知識を夕樹はほとんど持っていなかった。
 夕樹はその場を離れて、いつもチェックしている文庫のコーナーへとやって
きた。
「ミステリはどうかな…… 僕はもらったら嬉しいんだけど」
 しかし、聡が喜ぶかというと微妙なところで。そもそも、彼がミステリを読
んでいるところを夕樹は見たことがなかった。
「どういった本だと驚いてくれるかを考えた方が良いのかな……」
 平台に積まれている今月の新刊からチェックしている作家の本を取り出し、
他に買わなければいけない本がないかを確認して詩歌のコーナーへと移る。
 さすがにここにある本は夕樹にとっては簡単に手が出る値段ではないので、
大抵は一通り眺めて終わる。
「やっぱり、ここらへんなのかなあ……」
 そこでふとあることに思い当たる。
「そういや、関口君ってどんな本を読んでたんだっけ?」
 裏部室で本を読んでいる聡の姿を見ることはあるが、そういうときは夕樹も
本を読んでいるので、何を読んでいるかなんて気にしたこともなかった。時々
本の話をするが、詩集とかの話が多かったりしているので、そのほかに何を読
んでいるのかほとんど知らない。
「今更聞くのもあれか」
 むぅ、と小さく唸った。
 こうなると想像するしかない。とはいえ、自分が好きそうな本とそんなに違
うということはないだろう、と夕樹は思う。
「とりあえず、ベストセラーは除外だよね……」
 そう言いながら、本棚を物色していると 棚に並んでいる一冊のところで目
が止まった。見たことのない作者の本である。おそらく、最近出てきた人なの
だろう。
 夕樹はその一冊を棚から抜き取った。
「あぁ、いいなあ」
 夕暮れの雲の風景が表紙を飾っていた。帯には「第一歌集」と書かれてあ
る。開いてみると写真集の方にページ全体にフルカラーの写真が載せられてお
り、その脇に歌が添えられている。
「……いいなあ」
 先ほどと同じ言葉を呟いて、本を閉じ、後ろを見る。そして溜息。
「まあ、そうだよね」
 フルカラーなのだから、それくらいはするだろうという値段である。勿論、
夕樹には手が出せない。
 本をそっと戻し、今日はこれくらいでいいか、と手にしていた文庫をレジに
持って行った。
 一冊とはいえ、本を買うというのは幸せなことで本屋を出る時の夕樹の顔が
少しほころぶ。
 しかし、それも束の間、外に出たとたんに吹き付けてきた風の寒さに身を縮
ませた。
 外はもう真っ暗である。街路樹に取り付けられた電球が明滅を繰り返してい
る。
 空を見上げると真っ白な月。
 結局、今日も決まらなかったか、と夕樹は溜息をついて家への道を歩いて
いった。

時系列と舞台
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2006年12月上旬。ある本屋にて。

解説
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贈り物を撰ぶというのは難しいものです。

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