[KATARIBE 30438] [OM04N] 小説『我関せず』

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Date: Tue, 5 Dec 2006 23:41:12 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30438] [OM04N] 小説『我関せず』
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ふきらです。

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小説『我関せず』
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登場人物
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 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

本編
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 ある屋敷の土壁の上に3匹の鬼が座っていた。それらは赤子ほどの大きさ
で、くすんだ緑色の肌をしている。背中を丸めて互いに向き合っているその姿
は普通の人の目には見えないのか、側を通り過ぎる者の誰もがそちらを見よう
ともしていない。
「あれがあいつの屋敷か」
 一匹が向かいに建っている屋敷の方を向いて言った。
「そうだ」
「そうだ」
 残りの二匹が同時に頷く。
「この間は痛い目にあったから」
「今度はお返しをしてやる」
「してやる」
 三匹はじっと屋敷の門を睨んだ。
 ほどなくして、門が少し開く。
「来たか」
「来たぞ」
 三匹は身構えた。
 門の隙間から一人の男が姿を見せた。供はつけていない。
 男は辺りを見回すと、後ろ手に門を閉めた。彼の目の前の壁の上には三匹の
鬼が彼の方を見ているが、それに気づいた様子はない。
 男が歩き出す。
「行くぞ」
 一匹の鬼が言った。
「おう」
 残り二匹が頷く。
 彼らは壁の上から大きく跳躍すると、前を歩いている男にしがみついた。一
匹は背中に、残り二人は左右の両肩にである。
 しかし、男は意に介した様子もなく足を進めている。
 鬼たちは首を捻った。
「気づいていないのか?」
「そんなわけはあるまい」
「こいつは陰陽師だぞ」
 三匹はそのままじっとしがみついていたが、相変わらず男は気にするような
素振りを見せない。
 男は角を曲がる。片方の肩にいた一匹が滑り落ちそうになり、慌てて腕にし
がみついた。
「ふぅ……」
 何とか落ちずに済んで、安堵の溜息を漏らす。そして、そっと男の顔をのぞ
き込んだ。
「……本当に気づいていないのか?」
 首を傾げる。
「本当か?」
「確かに全くこちらを気にする様子はないな」
「ひょっとしたら、そういう素振りをしているだけかもしれんぞ」
「ええい。ならば、嫌でも気づかせてやる」
 そう言うと、背中にしがみついていた一匹が右手を振り上げて、男の頭を叩
いた。
 ペチン、と音がする。しかし、叩いたその手に伝わってきたのはまるで石を
叩いたかのような感触であった。
「……」
 叩いた手をじっと見つめて首をひねる。
「どうした?」
 肩にしがみついていた鬼が尋ねた。
「よく分からん」
「分からんとはどういうことだ」
「とにかく、よく分からんのだ」
「分からん、分からんと言われてはこちらも分からぬではないか」
「ならば、お前も叩いてみればいい」
「おう」
 そう言われた鬼は肩にしがみついたまま男の頭を叩く。
 先ほどと同じようにぺちりという音。その鬼は叩いた手を見つめ、そして、
もう一度叩いてみた。
「……むぅ。なんだこれは」
「分からぬだろう?」
「ああ、分からぬ」
「これはまるで石ではないか」
「うむ。石のようだ」
 二匹のやりとりを見ていた鬼が声を上げた。
「石のようだとはどういうことだ。これは人ではないか」
「いや、人であるのは確かなのだが……」
「叩くと石のようなのだ」
「訳の分からぬことを……」
 そう言ってその鬼は肩によじ登ると、頭の上に両手を思い切り振り下ろし
た。
 先ほどよりも大きく、ベチンという音が聞こえた。
「ぎゃっ」
 思わぬ衝撃に驚いたのか、叩いた鬼は叫び声を上げて、ひっくり返る。そし
て、そのまま地面へと転がり落ちた。
 男の方は相変わらず何の反応も示さずに歩いていく。
 残った鬼たちはなすすべ無くしがみついてた。
「おい、時貞」
 後ろから男を呼ぶ声が聞こえ、彼は足を止めた。
 男が振り返ると、そこに一人の男が立っていた。
「なんだ望次か」
 時貞が少し笑う。
 望次は彼に近寄ると、怪訝そうな表情を浮かべた。
「……どうした?」
 時貞はそれを見て首を傾げる。
「お前、何をつけているのだ?」
「何をって……何もつけておらぬが」
「いや……」
 そう言って、望次は時貞の肩や背中にしがみついている鬼を指さした。
 指さされた鬼達は身をすくめる。
「こいつには我らの姿が見えているらしい」
「ということは、こいつも陰陽師か」
「むむむ」
「引き上げるか」
「そうするか」
 そう言うと二匹は時貞の体から飛び降りると足早に駆けていった。地面に振
り落とされた鬼も慌てて二匹の後を追う。
 望次はその様子を目で追っていた。
「何かいたのか?」
 時貞が尋ねる。
「いや、お前の体に小さな子供のようなものがしがみついていたのだが…… 
気づかなかったのか?」
「そんなもの気づくわけなかろう」
 何を言うのだ、と言わんばかりに眉をひそめる時貞。
 望次は何か言おうとしたが、諦めて溜息をついた。
「まあ、何もないのならよいか」
 小さく呟いて、首を振る。
「それで、何の用だ?」
「いや、夜回りをしていた者から妙な話を聞いてな」
 望次が答える。
「妙な話、な……」
 時貞は苦笑いを浮かべた。
「まあ、とりあえず聞け」
「分かった、分かった」
 そして、二人は肩を並べて歩いていった。

解説
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本当にこいつは陰陽師か?

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