[KATARIBE 30435] [HA06N] 小説『万霊節の、その夜に』

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Date: Tue, 5 Dec 2006 01:01:44 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30435] [HA06N] 小説『万霊節の、その夜に』
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2006年12月05日:01時01分44秒
Sub:[HA06N]小説『万霊節の、その夜に』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
時期外れですが、書いてみました。
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小説『万霊節の、その夜に』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く

本文
----

 小さめのかぼちゃの、上を切って、中をくりぬいて。
 ごぼごぼとした表面に、ざっとだけど印をつけて、良く切れるナイフで模様
を彫ってゆく。出来るだけ簡略化した、にやりと笑う顔。

「……きゅー?」
「ああ、ちょっと待っててね」

 彫るのが終わったら、くりぬいた部分を出汁の鍋に放り込んで。

「……ちょっとおいで」
「きゅ?」
 ぺたぺた、と雨竜が、ぷくぱた、とベタ達が寄ってくる。まずベタを掴まえ
て、ざっと巻尺で寸法を測って書き留める。そして次に雨竜に。
「……はい、これでいい」
「…………きゅー?」
 いや、そんな不思議そうな顔しなくても、悪いことはしませんから。
「ちょっと待ってて……ああ、あっちでお菓子食べてらっしゃいな」

 以前、猫のぬいぐるみを作ろうと思って大量に買った黒い別珍の布を広げて、
さっき測った長さを元に、切ってみる。
 ベタ達には、簡単なマントと三角帽。
 雨竜には、それに小さな杖を加えて。

「きゅぅ……」
「あーほんとにだいじょぶ。ほんとに何にもしないから」
 ぷくぱたぷくぱた。
「わかった……じゃあね、一時間。一時間はちょっとこちらに居るから」
 そう言うと、ようやく納得してくれたらしく、ちびさん達は隣の部屋に行っ
た。じきにどたばたと、いつものかけっこの音が聞こえてくる。

 少しギャザーを寄せて、首の周りに巻くリボンに縫いとめて。
 三角の帽子も、顎の下で結べるようにリボンをつけて。
 サイズを決めるのに時間がかかったけど、それ以外は縫うところも少なくて、
案外短時間で衣装は出来上がった(流石に一時間はちょっと無理だったけど)。
「……きゅぅーー」
 そろそろ退屈してきたらしい声に、慌てて縫った衣装を持って。
「ああ、ごめんね。今出来たから」


 黒いリボンを、出来るだけ軽く結んでやる。
 まず赤と青のベタに。そして雨竜に。
 そのうち、部屋の隅のほうからじろっとこちらを見ていたメスベタが、帽子
のリボンを結んでやっている途中の雨竜を突き飛ばす勢いでこちらにやってき
た。そのまま大威張りの格好で急停止する。
「……メスベタちゃんも、着てみる?」
 言った途端、でしでし、と……これは頷く代わりなんだろうな。
「ああそうだ、これ、雨竜の……魔法の杖」
「きゅぅっ!」
 わーいわーいと、雨竜が跳ねる。その頭の上で、マントをひらひらさせたり
三角帽を揺すったり、と、ベタ達がぷくぱた跳ね回っている。
「相羽さん帰ってきたら、脅かしてごらん」
 リボンを結んでやりながらそう言うと、ちびさん達は皆、ぴょんぴょんと跳
ねて……これは完全に『のったー』というところ、なんだろうな。
 だけど。
 ひょい、と、青のベタがこちらを向く。丸い目が、疑問符を浮かべてこちら
を見ている。
「ん……どうしたの?」
 ぷくぱたぷくぱた。
 玄関に向かったり、かけてある上着をつついてみたり。
「相羽さん……ああもしかして、今日帰ってくるのいつって?」
 ぷっくーーー。
 ぱたぱたぱた。
 ……毎度、なんでこれで通じるのか、自分でも判らなくなるんだけど。
「うん、そんなには遅くならないだろうって言ってたよ」
『わあい』
 そんな副音声が聞こえるような勢いで、ぷくぱたとベタ達は宙を泳いでいる。
雨竜も、ぴょんぴょんと、踊るように跳ねている。
(相羽さん……早く帰ってきてくれると、嬉しいんだけど……)
 流石にそうは言えないし。

   **

 それでも相羽さんは、言い置いたくらいの時間には帰ってきた。

「ただいま……って」
 玄関の鍵が廻る音がした途端、うわーっとちびさん達が玄関に突進した。結
果、扉を開いた相羽さんが見たのは、ぱたぱた跳ね回るちびさん達だったわけ
で。
「……なにやってんの」
 黒尽くめの衣装で、ベタ達はぷくーーばたばたと相羽さんの前を行き来する。
 足元では雨竜が、出来る限りふんぞり返って杖をぶんぶん振っている。
「遊んでんの?」 
 ……いやそれは、多分脅かしてる積りだと思うんだけど……ってでも、可愛
いからとても脅してるようには見えないし。
 つくつく、と指先でつつかれて、いつもならご機嫌になる筈のちびさん達は、
一斉にむーっと口をとがらせた。

「きゅーきゅーきゅーーっ」
 ぶんぶかと頭を横に振って(もう少しで三角帽が落ちそうになるのを、こち
らは多少なりとひやっとしながら見てたのだけど)。 
「きゅっ」
 杖をびしっと相羽さんに向けて、多分見栄を切ってる……積りと思って多分
間違いじゃないんじゃないかなーみたいな格好をして。
 
 とりあえず、そこまで来た時に、ようやっと相羽さんの表情が変わった。
「……あ」 
 うん、と納得いったような顔で頷いて。
「これか」 
 ポケットからひょいと紙袋を取り出す。袋の口に手を当てて軽く袋を揺する
と、出てきたのは金平糖である。
「ほら」 
「きゅうっ」
 大喜びでぴこぴこ跳ねてる雨竜とベタ達。その前に相羽さんは手を広げる。
 白に水色、薔薇色にカナリア色。一つずつ貰って、ちびさん達は大喜びで口
に放り込んだ。
「きゅうっ」
 ぱくっと口に入れて……そこで雨竜は、妙に真剣な顔になった。いや、雨竜
だけじゃない、ベタ達もそう。
 もごもご。それこそ口いっぱいにほおばる格好で……って。
(あ、大きすぎなのか)
 人間だったら、一度に10粒くらいは平気で食べられるだろうけど(うちの
甥っ子姪っ子でも、多分お母さんがこらっと言わなければ、それ以上に食べる
だろうけど)、でもこの子達だと、そうか口に多少大きいのか。
「ああ、ほら」
 青ベタの口から、ぽろっと水色のコンペイトウが落ちる。それを受け止めて、
相羽さんはちょんちょんとコンペイトウの角を幾つか欠いた。
「これで食べられる?」
 ぷくぱたぷくぱた。大喜びの青ベタはまたもや口いっぱいに金平糖をほおばっ
たまま、奥の部屋へとすっとんで行った。

「……でも、何で金平糖持ってるの?」
 上着を受け取りながら尋ねてみる。ちびさん達は、口をもごもごさせながら
一緒に部屋に戻ってきている。
「ああ、県警でもやってたんだよ」 
「へえ」
 それって結構珍しいんじゃないかなあと思う。
「そんで余ったおやつ配ってたから、貰ってきたんだよね」 
 それは不思議じゃないって言うとなんだけど、うん、そうだろうなと思うん
だけど。
「…………もしかして」 
「ん?」
「マメシバンの格好で?」
 吹利県警有志が作成する、マメシバンのビデオは今に至るまで相当人気があ
る。当初のターゲットの子供達には無論のこと、最近は一部女子高生に、そし
てどうやら一部男性にも人気があるらしいのである(その、男性の人気の目当
てが、奈々さんでありますように……とか思ったあたしはかなり根性が悪い)。

「そらもう」 
 着替えた相羽さんが、にっと笑った。
「お子さん群がってたよ」 
 マメシバン。豆柴君。
 それなら納得(あ、豆柴君に怒られそうな感想だ)。
 遊び疲れたのか、ちびさん達はへろへろとこちらに戻ってくる。撫でてやっ
てから、タオルを重ねた上に乗せてやる。
「ごはん、食べます?」
「うん。腹減った」
 
 今日の献立は、ひらめの煮つけとお味噌汁。それに水菜と厚揚げの煮びたし。

「うちでもね、これ作ってたんだ」
「へえ、器用なもんだねえ」
 中に立てた蝋燭に火をつける。と、小さなカボチャの、目や口から光がぼわ
んと出る格好になり、ああこれがジャック・オー・ランタンなんだなあと、一
応思える出来になった。
「大きいのはちょっと皮が硬くて無理だったけど」 
 ご飯とお味噌汁を注いで、お皿を渡して。
 こちらもずっと待ってたので(流石にちびさん達には先に食べさせた)、ご
飯をよそっている……時に。
「ん……これ?」
「あ、それ、今日のカボチャの目と鼻と口」
「……なるほどね」
 お味噌汁の中の半ば崩れたカボチャを掬い上げながら、相羽さんはくつくつ
と笑った。

時系列
------
 2006年10月31日

解説
----
 相羽家の、ハローウィーンの風景。
 多分翌日の夕ご飯は、かぼちゃの煮つけでしょう。
**********************************

 てなもんです。
 ではでは。
 


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