[KATARIBE 30434] [OM04N] 小説『陰陽師の端くれ?』

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Date: Tue, 5 Dec 2006 00:04:33 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30434] [OM04N] 小説『陰陽師の端くれ?』
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ふきらです。


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小説『陰陽師の端くれ?』
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登場人物
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 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 陰陽寮の扉の側に牛車が一台止まっていた。繋がれている牛が大きくあくび
をし、それにつられてか、隣に座っていた男もあくびをする。
 時貞はその横を通り過ぎて、陰陽寮に入っていった。
 勤めを行う部屋へと続く廊下を歩いていると、その途中にある部屋から話し
声が聞こえてきた。
「……それで明後日なんだが」
「はい」
 どうやら誰かが相談しているらしい。おそらく入り口に止まっていた牛車の
主なのだろう。そして、その相談を受けている相手は、と声の主を推測したと
ころで時貞は首を傾げた。
「確かあいつは得業生だったような……?」
 時貞は腕組みをして手前にある角の柱にもたれて、耳を澄ませた。相談はま
だ続いている。
「そうですね……」
 ペラリ、と紙の捲る音。
「ははぁ、これはいけません」
「なんだと?」
 男の声が険しくなる。
「その日はお屋敷から外に出ない方がよろしいでしょう」
「一日中か?」
「ええ」
 むぅ、と一つうなり声が聞こえて会話は止まった。
「……仕方あるまい」
 と、溜め息混じりの声。
「分かった。急に押しかけて済まなかったな」
「いえ、とんでもございません。それよりも、明後日は決して出歩かれませぬ
よう」
「ああ」
 一方が立ち上がる気配がし、時貞は腕組みを解いた。
 そして、彼らのいる部屋へ向かって歩き出す。
 部屋の前まで行くと若い貴族がちょうど廊下に出てきたところだった。衣の
色から時貞よりも身分が高いことが分かる。
 すれ違いざまに時貞は軽く頭を下げた。男はチラリと時貞を見て、そのまま
入り口へと向かっていく。
「あ、時貞様……」
 部屋では先ほどの貴族の相談相手をしていた得業生が広げていた紙を仕舞っ
ているところだった。入ってきた時貞の姿を見て、彼は気まずそうな表情を浮
かべる。
「どうかしたか?」
 時貞が口の端を少し吊り上げて問う。
「……ひょっとして聞いてました」
「なかなか立派に受け答えをしていたな」
 時貞は部屋に入ると、彼の前に座った。
 彼は慌てて時貞の方を向いて頭を下げる。
「申し訳ありませんっ」
 いきなり謝ってきた彼に時貞は苦笑いを浮かべた。
「別に謝ることではないと思うが…… だが、明後日は別に何もなかったはず
だが?」
「え?」
 得業生が恐る恐る頭を上げた。
「本当ですか?」
「いや、ひょっとしたら俺の方が間違っているかもしれない」
 そう言って、時貞は真剣な顔をする。
「ど、どうしましょう」
 慌てている彼の姿を見て、時貞は重々しく首を振った。
「どうしようもなにも、わざわざ「間違いでした」と言いに行くか?」
「そ、それは……」
 彼が萎縮する。
 しばらく、じっと彼を見ていた時貞だったが、やがて「まあ、そんなに悲観
するな」と笑みを浮かべて言った。
「もし何もなかったらお前の言いつけを守ったからだと言えるし、何かあった
ら、それはそれでお前の言っていたことは正しいということになる」
 その言葉に得業生は、あぁ、と納得した表情を浮かべたが、すぐに眉をひそ
める。
「時貞様」
「なんだ?」
「それは何かおかしくありませんか?」
「どこが?」
 尋ねる時貞の顔には相変わらず笑みが浮かんでいる。ただ、その笑みの種類
が微妙に意地悪なものになっているのは気のせいではない。
「そうでしたら、とりあえず「家にいてじっとしてなさい」と言ったらいいと
いうことになりませんか?」
「なるな」
「では――」
「ただ、それは相手が言いつけを守った場合だ。もし、破って外に出たのに何
も起きなかった時は知らぬ」
「ああ、そうか……」
 彼は肩を落とす。
「それよりも、もし不吉な日にどうしても外に行かなければいけないときにど
うしたらそれを避けられるかを教える方が重要だろう」
 そう言って、時貞は神妙な顔で頷く得業生の肩を叩いた。
「まあ、とりあえずは明後日にあの男が屋敷から出ないように祈っておくこと
だな」
「……はい」
 再び項垂れる彼。
 時貞はそれを見て、クククと笑って立ち上がった。


解説
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嘘をつくときは気をつけましょう。

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