[KATARIBE 30433] [HA06N] 小説『岩風呂のひととき・ sideB 』

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Date: Mon, 4 Dec 2006 23:35:18 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30433] [HA06N] 小説『岩風呂のひととき・ sideB 』
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2006年12月04日:23時35分18秒
Sub:[HA06N]小説『岩風呂のひととき・sideB』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
岩風呂な話のさいどびーです。
一応、お風呂な話は、こちらがさいどびーで書きます。
…………(そこ。はづい話を二重にするのかゆーな)

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小説『岩風呂のひととき・sideB』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く

本文
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 部屋専用の露天風呂なんてあるんだなあ……と、呑気にしている場合でもない
のだけど。

 
 そろそろと、足を下ろす。
 石作りの床は綺麗に磨かれていて……いや、有難いんだけど、何だかつるっと
転びそうで。
(眼鏡が無くても、そういうことは判るんだもんなあ)
『目に鮮やかな山の風景をお楽しみ下さい』
 確かそんなことが、露天風呂の説明に書いてあったけど。
 顔を上げると、黒っぽい石の湯殿の向こうには緑の山。眼鏡無しだと細かいと
ころは見えないけど、その綺麗なコントラストだけは判る。
 ……いや、ほんと、綺麗なとこだなと思うんだけど。
 ど。

「いやあ、すごいもんだね」 
「きゅぅっ」
 前を行く相羽さんが、どこか呑気な声をあげるのに、首の周りの雨竜が声をあ
げる。その周りをひゅんと飛び回る青と赤の色は、多分ベタなんだろうな。あん
なに暴れてたらまた疲れるぞ……と思ってたら。

「ほら、お前らあんまりはしゃぎ過ぎないの」
「きゅぅっ!」
 返事だけは、ほんとに良いなあ。

 と、相羽さんが振り返った。
 一瞬……足が止まりかけた。

「ほら、おいで」
「……はい」
 ぎゅっと握った手が、少しだけ引っ張られる。
「足元、濡れてるから気をつけて」
「はい」
 ……あのー、出来ればこっちを見ないで頂けますかとか、手を離しても大丈夫
ですから、とか色々あるんですけど。
『見えないんでしょ』
 そう言われると……いえちゃんと見えます、とは言えないのも事実で。
 なんだけど。
「大丈夫?」
「……はい」
 答えるごとに……すくみ上がるほどに恥ずかしくて。
 相羽さんの顔を、まともに見れない。

 
 手桶を渡されて、ざっとかかり湯をして。
「……あ、そっか」
 手桶に水を張って、湯船のすぐ外に置く。途端にベタ達がぽちゃんと水の中に
飛び込んでゆく。雨竜は、と思って見やると、相羽さんの肩の上から、そろーっ
と手を伸ばしてお湯に触ろうとしていた。
「ここ、段になってるから、気をつけて」
「……はい」
 黒っぽい石の段を、そろっと踏んで、湯船に入る。
 水は透明。そのまま湯船に入って相羽さんの傍に身を沈めたところで、相羽さ
んはそっと手を離した。

 熱すぎずぬる過ぎない温度の湯。
 ゆらゆらと揺れるお湯は、首のあたりまで来ていて、だから首の凝りの部分ま
でしっかりと包んでいる。
 何だか……ほんとようやく、肩の荷が下りたというのも変なんだけど。

 ぱちゃぱちゃと音をたてて、赤と青のベタが木桶の中で遊んでいる。もう一匹、
メスベタは、と見ると……白いからわかりにくいけど、相羽さんの頭の上のタオ
ルの上で、でんとふんぞり返ってる。
 両手で掬った水をそのままこぼして、相羽さんがゆっくりと大きく息を吐く。
そのまま静かに目をつぶる。積った疲れを溶かすように。
 ゆらゆらと、肩の辺りで水面が揺れた。
(しんどい?)
 一週間、殆ど徹夜状態だったって後で聞いた。
 その後すぐに、今度はあたしが迷惑をかけて、それに加えて出張……て。
 相羽さんは目をつぶっている。
 この人が、少しでも喜んでくれるなら…………って。
(そうは、思った、ん、だけど)
 
 不意に相羽さんが目を開けた。
「あれ、どこいった?」
「え?」
「ほら、雨竜」
 言葉に重なるように、ばしゃんと水音がした。振り返ると。
「きゅーーー!」
 木桶に飛び込んだ雨竜と、大きな二つの水玉のように、ぽうんと跳ねた赤と青。
「……あ」
 あーあ、と、見ている前で、すっ飛ばされたベタ達が、ぴゅんと雨竜の鼻先に
戻ってくる。ぷくぱたぷくぱた、ヒレを動かしエラを膨らませて、言ってみれば
厳重抗議、というとこだろうか。
「………きゅ」
 ぺたん、と、両足を放り出して、半分がとこ水の減った桶の中に座り込んで。
雨竜はしょんぼりと頭を垂れる。
「……なにやってんの」
 近くの水道の栓を押して、水を汲んで桶に入れる。ちゃぷちゃぷと、増えてゆ
く水の表面を、雨竜が前脚で突付く。丁度、ばつが悪い人が、手をもぞもぞ動か
しているように。
 可笑しいけど、笑っちゃいけない。代わりにつんと頭を突付くと、
「きゅー」
 桶の中で、雨竜は座り込んだまま、しょぼくれてしまった。


 結構長い間、湯船に浸かっていたと思う。
 無論、気持ち良いってのが理由だけど、その他に……というかなんてか。
(出来れば……先に出てくれないかなあ)
 自分でも、何をいつまでもぐずぐずと、と思うんだけど……。

 不意に相羽さんが身を起こした。弾みで頭の上のタオルが揺れて、メスベタが
上から落ちかけるのを、ひょいと手で抑えて、そのまま湯船から出る。
(……あー……良かった)
 少々、湯あたりしかけてたので、こちらも立ち上がる。滑らないように足元を
確かめながら湯船から出た、時に。

「真帆」
「はい?」
 思わず肩が跳ね上がったのを、何とか誤魔化そう、としている時に。
「背中流そうか?」
「え?」
 …………ええと、こういう場合、何と言ったらこの人は止まってくれるのだろ
う……というかそれちょっと以上に普通じゃないというか……

「い、いいですっ」 
「いいじゃん。お礼」 
「……お礼?」 
「いつも疲れさせてるから、さ」 
 ……いや、それ全く逆だと思うんですけど。そもそもそれなら、あたしが相羽
さんの背中を流すのが筋じゃないかと……
 そもそも、普通、奥さんが御主人の背中を流すもんであって、その逆ってのは
絶対普通じゃないと思うんですけど……って。
 言おうとしている間に、相羽さんは石鹸とスポンジを手に持って。
「ほら、座って」 
「だ、だって申し訳ないっ」 
「いいから」
 よかないんです、それは余りに……って。
 言って、聞いて呉れそうに思えなかった、と言ったらやっぱり言い訳かもしれ
ないけど。
 でも。
(相羽さんが、言うことだから)
 
 時々、考えてしまう。この人が言うことは出来るだけ聞こうと思ってるけど、
でもそれがこの人には、本質的には迷惑になるようなことなら、断るほうが本当
じゃないか、とか。でも、この人が頼むことなんだから、とか。

 ぐしゃぐしゃと考えている間に、相羽さんはひょいひょいと手で招く。
 だから……

 相羽さんの前で、座った。
 すうっと、手が肩に触れた。


時系列 
------ 
 2006年9月はじめ
解説 
----
 温泉を満喫してる……筈なんですが、妙にがちがちの真帆の視点から。
*************************************************

 てなもんで。
 でわでわ。




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