[KATARIBE 30429] [HA06N] 小説『岩風呂のひととき』

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Date: Sun, 3 Dec 2006 22:43:05 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30429] [HA06N] 小説『岩風呂のひととき』
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2006年12月03日:22時43分05秒
Sub:[HA06N]小説『岩風呂のひととき』:
From:久志


 久志です。

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小説『岩風呂のひととき』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く

浴場にて
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 まだ日は落ちず、ほんのりと傾きかけた日に照らされた緑が目に眩しい。
 部屋専用だというその露天風呂は、奇麗に磨き抜かれた石作りの床と黒いごつ
ごつとした岩肌で作られ、どっしりとした安定感があった。
 湯殿の向う、柵の向うから覗く景色は見事に山の斜面を映して青々とした木々
が鮮やかに見える。
「いやあ、すごいもんだね」 
「きゅぅっ」
 肩の上、首にぐるりと巻きつくようにのった雨竜がぱたぱたと手を振り回して
あちこち見回してる。直ぐ目の前では赤と青のベタ達がばたばたとヒレをはため
かせて追いかけっこをしている。
「ほら、お前らあんまりはしゃぎ過ぎないの」
「きゅぅっ!」
 両手をぱたつかせてこくこくと頷く雨竜とぷくばた暴れるベタ達の姿に溜息を
つく、言ってもかなり無駄っぽいね、こりゃ。

「ほら、おいで」
「……はい」
 おそるおそる、といった足取りで一歩遅れてついて来る。
「足元、濡れてるから気をつけて」
「はい」
 きゅっとこっちの手を握り締めたまま、少し俯きがちに答えた。
 まあ、恥ずかしがってるとこも可愛いんだけど。

 両手ですくった透明な湯が指の間を通って湯船に落ちる。
 ゆっくりと深く息を吐く。指の先からつま先から、少しづつ染み出すように体
中に溜まった疲れが溶け出していくような、そんな気がする。湯船に体を沈めた
まま、目を伏せる、傍らでは同じように真帆が目を細めて湯船に浸っている。
 赤と青のベタ二匹は湯船の外に置いた木桶に張った水の中でヒレをばたつかせ
て元気よくはしゃいでる。もう一匹のメスベタはというと、湯船に浸かった自分
の頭に置いたタオルの上でどんとのっかって横になっている。何がしたいのかは
わからないが、それで楽しいならそれでいいのだろうけど。
 もう一匹、雨竜はというと。
「あれ、どこいった?」
「え?」
「ほら、雨竜」
 言い終わらないうちに、木桶でばしゃりと水柱が上がった。
「きゅーーー!」
 飛び込んだ雨竜の勢いで、二匹のベタが弾き飛ばされてぽーんと宙に舞う。
「……あ」
 ひょこっと顔を出した雨竜に向かってばたばたヒレをばたつかせてエラを膨ら
ませながら抗議する、まあ当然だろうけど。 
「………きゅ」
 二匹の猛講義に、半分ほど水が減った桶の中でしおしおと頭を垂れる。
「……なにやってんの」
 しょうがないという風情で、真帆が桶に水を足しながらつん、と雨竜の頭をつ
ついた。
「きゅー」
 桶の中でへちゃんと頭を垂れる雨竜の姿が、妙におかしい。

 湯船に浸かって、染み出すように疲れが流れていくのをあがった後の体の軽さ
で感じた。

「真帆」
「はい?」
「背中流そうか?」
「え?」
 目を見開いて、こっちを見る。
「い、いいですっ」 
「いいじゃん。お礼」 
「……お礼?」 
「いつも疲れさせてるから、さ」 
 抗議の声をあげそうになるのを無視して、石鹸とスポンジを手に取る。
「ほら、座って」 
「だ、だって申し訳ないっ」 
「いいから」
 一旦こっちを見上げて、しばし固まって、観念したように肩の力を抜いて座る。
 
時系列 
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 2006年3月半ば
解説 
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 温泉を満喫してる相羽一家の面々です。
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以上。



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