[KATARIBE 30426] [HA06N]『unbalance 5th 〜Ko Ku Ha Ku/Confession.〜』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 03 Dec 2006 02:47:28 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30426] [HA06N]『unbalance 5th 〜Ko Ku Ha Ku/Confession.〜』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200612021747.AA00027@black.petmail.net>
X-Mail-Count: 30426

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30400/30426.html

こんばんは葵でっす。
コレは起こしておかないといけない。
年越し前の宿題をー(破損

**********************************************************************
[HA06N]『unbalance 5th 〜Ko Ku Ha Ku/Confession.〜』
=====================================================

 さて、と。
 やっぱり、ちゃんと言わなきゃ……だよな。

 「では、吉報を鶴首してお待ちしております」

 なんて、真帆さんにまで言われちゃったし。
 いつまでも状況に甘えて中途半端なまんまじゃ駄目だよな。

 「尊さんが他の人の方にいったって文句言えないからね?」

 あの一言は効いた。
 何となく良い雰囲気だったからあんまり考えて無かったけど、よくよく考え
てみたらお互いに気持ちを確かめてない今の状況だったら誰か他のヤツが彼女
に告白してって事も考えられるんだよな。
 そんなこと考えたくないけど。
 最初は、昔のイメージがあって半分お姉さんに憧れるみたいな所もあったけ
ど、今は一人の女性として見てるんだから、ちゃんとそれを伝えないと。
 結局、怖かったんだな俺、今の何となく良い雰囲気の状況から一歩踏み込ん
で、もし、拒絶されたら。
 ……まあ、色々考えてても結論は出ないし、せっかく昇進祝いしてくれるっ
ていうんだからこの機会にしっかり伝えないと……。
 ずらりとワインの並ぶ棚の前で考え込んでいると、後ろから店員に声をかけ
られた。
 「なにかお探しですか?」
 「あ、すみません、お酒の好きな人の所へ持って行きたいんですけど、お勧
めの奴って何かありますか?」
 「そうですねえ、少々お値段は張りますが、このシャトーラフィットの2000
年なんかは非常に人気ですが」
 「そうですか、じゃあ、そのワインをラッピングしていただけますか?」
 「承知しました、暫くお待ち下さい」
 店員からラッピング済みのワインを受け取ると、店のガラスにうつしてネク
タイを絞め直して、気持ちも引き締める。
 尊さん、待っててくださいね。

 *********************

 「お姉ちゃん、お買い物行ってきたですよー」
 「あ、夾ちゃんありがとう、テーブルの上に置いておいてくれる?」
 「はいですっ」
 キッチンのテーブルの上にどさりと買い物袋を下ろした夾が尊の手元を覗き
込む。
 「うわー美味しそうです」
 「ふふ、もうちょっとで出来上がりだから待っててね」
 大きな皿の上に並ぶクラッカーの上に手際よくチーズやフルーツを載せてい
く。
 「えへへ、頂きっ」
 「あ、コラ」
 ひょいぱくと、端っこのフルーツカナッペを口に放り込む。
 「もう、つまみ食いしたらダメじゃない……慌てなくても沢山用意してある
わよ?」
 尊が笑いながらテーブルを指すと、既にできあがった色とりどりのカナッペ
がテーブルの上に載っていた。
 「はーい、じゃ、帰ってきたら頂きますっ」
 「え? 夾ちゃんもどっか出かけるの?」
 「はいです、ちょっとお父さんの所に」
 「そう……知恵ちゃんも蓉子ちゃんの所へ行っちゃってるし……和久君の昇
進祝い一緒に」
 したら良いのに、そう言いかけた尊の脇を肘で突っつく。
 「もう、せっかくお兄ちゃんが来てくれるんですから、二人っきりで楽しむ
ですよ」
 「あ……ゴメン……気……使わせちゃって」
 「じゃ、お父さんの所行ってくるですー」

 *********************

 そのころ玄関では。

 落ち着け、落ち着け、えーと落ち着くには手のひらに人って字を書いて……。
 なんてやってたら、突然ドアが。
 ごちっ。
 「……ったっ」
 「あっ、ごめんなさい……って、お兄ちゃん?」
 「夾ちゃん?」
 「へぇ……ふーん」
 なんだか、足元からずーっと頭のてっぺんまで眺められてる……。
 「お兄ちゃん」
 「な、なにかな?」
 「お姉ちゃんなら中にいるです」
 「そ、そう、ありがとう、あれ? 夾ちゃんは?」
 「お出かけするです……そう言う事なので、気合入れて『頑張る』ですよ?
お・に・い・ちゃん?」
 『頑張る』を殊更強調して、笑いながら手を振って入れ違いに階段を降りて
いく夾ちゃんを見送って。
 ……もしかして。
 ……。
 ……。
 ……見抜かれてるっ!?
 と。
 「夾ちゃん? もう出かけちゃったの?……あれ和久君?」
 ドアの開いたままの玄関、廊下の奥からひょいと尊さんの顔が覗いた。
 「ど、どうも……こんにちは」
 落ち着け、落ち着け、落ち着け……う、やばい……さっきのショックでどう
やって告白するかのプランが吹っ飛んじゃったぞ。
 「いらっしゃい、もう少しお料理に時間掛かりそうだからリビングに座って
待っててくれる?」
 「は、はい、お邪魔します……」
 つい、癖で一礼してから靴脱いでお邪魔する。
 廊下を抜けたリビングのローテーブルにはすでに色とりどりの料理が並んで
いた。
 「ごめんねーちょっと座って待っててねー」 
 尊さんにそう言われてリビングの長ソファーに座るとちょうどキッチンが正
面に見えてて。 軽く鼻歌なんか歌いながら料理を作ってる彼女の後ろ姿が見
える。
 料理するには邪魔なのか後頭部で括ったポニーテールが動く度に揺れて。
 何となく、こういうのいいな、なんて思ってる……な、俺。
 「おまたせ〜」
 「すいません、気をつかわせてしまって」 
 オードブルが載った皿を持ってキッチンから出てきた尊さんは、向かいのソ
ファーに座るのかと思ったら、ストンと隣に座っちゃって。
 「ゴメンね、待たせちゃって」
 「い、いえ……あ、そうだ、これを」
 脇に置いておいた、ワインの包装を解いて尊さんに渡すと、ラベルを見た彼
女の目がまん丸に開かれた。
 「わ、シャトーラフィット……これって……結構高かったんじゃない?」 
 「いえ、そんなことは……」
 実際、値段見ないで買っちゃって、給料日前にはちょっと痛い出費だったけ
ど……まあ、尊さんの喜ぶ顔が見られたから、よしとするか。
 ……覚えてろ、あの店員。
 「えーと、赤ワインだから冷やさなくて良いんだよね、栓抜き栓抜きっと」
 尊さんは嬉しそうにサイドボードからソムリエナイフを取り出して栓を開け
始めた。
 が。
 「んーっ」
 ねじ込んだコルク抜きを一生懸命引っ張るけど中々抜けなかったり。
 やっぱり、こういう所は外見相応の女の子なんだなぁ。
 「貸してください、俺、開けますよ」
 「ごめん、お願い出来る? あ、グラス用意するね」
 渡された瓶を掴んで、ぐっとコルク抜きを引っ張る、スポっと軽い音と共に
コルクが抜けると甘い芳醇な香りが立ち上る。
 確かに、高いだけあって香りもいいな。
 っと、今日は酒飲みに来たんじゃないんだ、本題はこっちじゃないんだ。
 そう思うと、途端に心臓が躍りだして。
 言わないと、ちゃんと言わないと……。
 「えっと、グラスは……うん、コレにしよう」
 サイドボードから取り出された一対のワイングラスをテーブルに置くと、静
かに注いで渡してくれた。
 「和久君、昇進おめでとう」
 「ありがとう、ございます」
 グラスを持ってにっこり微笑む彼女。
 その笑顔と、瞳から目が離せなくて。
 「じゃ……いただきます」
 「あ、ちょっと待ってください」
 ……落ち着け、落ち着け、ちゃんと言わないと。
 呑んでからじゃ、酔った勢いに頼るのは良くない、よな。
 「どしたの? ワイングラス睨んじゃって……どっか汚れてた?」
 「ち、ちがいますっ、あのっ」 
 「ん?」 
 ふわっと、それこそ全く警戒心ってものを感じさせない柔らかな笑顔。
 うう……だめだ、見とれそうになる……くじけるな、頑張れ俺っ。
 「……尊さん」 
 深呼吸して、居住まいを正して向き直る。
 「な、なぁに? 改まって?」
 「……あの……尊さんに、お話が、あるんです」 
 「おはな……し?」
 「……なんか、順番がごっちゃなんですけど、その……やっぱりはっきり言
わないといけないと思って」 
 「ちょ、ちょっとまってね」 
 俺の台詞を遮ると、尊さんは慌ててエプロンを外してソファーの上に正座した。
 「ごめん、ど、どうぞ」
 「尊さん」
 「はいっ」
 あれ、尊さん、カチコチになってる……。
 あ。
 そうか。
 緊張してるのは俺だけじゃないんだ。
 尊さんも聞くのは勇気がいるんだ。
 そう気づいたらなんだか少し気が楽になって。
 「……ハッキリ言います」 
 真っ直ぐ、彼女の目を見ながら、偽らざる気持ちを。
 「……俺、尊さんが好きです、俺とつきあってください」 
 言った。
 その瞬間、彼女の肩が一瞬震えた。
 「あ、あり……がっ……」
 なんとか喋ろうと一生懸命深呼吸する彼女……考えてみたら、俺以上に緊張
してたのかもしれない。
 何回か大きく深呼吸して、ようやく落ち着いたのかまっすぐ俺の目をみて。
 「あたし……も……和久君…が……好きです……」 
 一瞬、耳を疑ったが、間違いなく、彼女の口から一番聞きたかった言葉が。
 あ、ダメだ顔が熱い。
 「不束者ですが……よろしくお願いします」
 「は、はいっ、よろしくお願いします」
 彼女は、そこまで言い切るとソファーの上で正座したままぺこりと一礼した。
 つられてつい、俺も頭を下げちゃったけど……あれ?。
 よくよくさっきの台詞を反芻してみると。
 「……あ…………え、えと、その」
 やっぱり、尊さんも意味に気づいたのか、真っ赤になって視線をうろうろ彷
徨わせたり。
 「ま、まぁ……これからまた……よろしくね」 
 「はい、こちらこそよろしく」
 なんとなく、気恥ずかしいのと、嬉しいので顔を見合わせて笑いあう。
 なんだ……心配する事無かったんだ。
 どこかにわだかまってたものがスーッと抜けてく感じがした。
 「じゃ、せっかくワイン持ってきてくれたし……乾杯しよっか?」
 安心できたら、目の前の人を放したくなくて。
 そう思ったら、自然に手が伸びて。
 「あ……?」 
 突然、抱き寄せられた彼女は驚いたようだけどそのまますっぽり腕に収まった。
 昔は俺より身長も高くて、大人っぽい女性だった人が今は俺より若い姿で自
分の腕の中にいる。
 なんだか不思議な感慨にとらわれながらゆっくり髪を撫でる。
 さらりとした滑りのいい髪からはふわりと甘い香りが漂う、そういえば椿油
使ってるって言ってたな。
 「か……ずひさ……くん?」
 「あ、す、すいません……突然」
 戸惑ったように見上げる彼女の瞳に気づいて慌てる。
 「ううん……あのね」
 「はい?」
 「うれしかった……よ?」
 潤んだ瞳で見上げて、その一言って。
 ……尊さん、それ、反則です。
 ましてや、そのまま目を閉じるなんて。
 昇進祝いは、オードブルのフルーツよりも、ワインよりも甘かったです。



時系列
------
 2006年5月
 場所は、花屋の二階。

解説
----
 えーと……(脱兎

$$
**********************************************************************

----
Aoi Hajime  gandalf@petmail.net

 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30400/30426.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage