[KATARIBE 30423] [HA6N] 『夜の夢・夜の悪夢』

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Date: Sun, 3 Dec 2006 01:23:18 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30423] [HA6N] 『夜の夢・夜の悪夢』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年12月03日:01時23分18秒
Sub:[HA6N]『夜の夢・夜の悪夢』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ええと、神社の後のシーンです。

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小説『夜の夢・夜の悪夢』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ・青ベタ・メスベタ
     :相羽家で飼われていたベタの霊。真帆の能力で実体化する。
 雨竜  :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと鳴く


本文
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 帰る道を、ずっと手をつないで歩いた。

 歩きながら、何となく話した。天若日子神のこと。天から使命を与えられて
やってきておきながら、地神と結婚して、そのまま使命を忘れた天神。
 相羽さんなら、とは、あたしは言わなかった。相羽さんも言わなかった。
 でも、一通り聴いて、沈黙して……だから、もう、その話はそれで終わり、
と思った時に。
「忘れないよ、どっちも」
 ぎゅっと、握る手に力が込められるのが……判った。

 じゃく、じゃく、と、やっぱり足元で鳴る石の音。
 満天の星、と、言葉で言えばそれまでの、夜の中の……星。

「…………ずっとこやって、歩けたらいいね」 
「そだね」 

 流れるように、メスベタが先に飛んでゆく。追いつかないと何だか苛々した
ように戻ってきては、またすいっと先に飛んでゆく。
 相羽さんの肩の上の雨竜。あたしの首の辺りにふよふよしている赤と青のベ
タ。
 旅館が近づいて、子供達を鞄に入れるまでは、そのまんま皆で黙って歩いて
いたと思う。

 どれだけでも、黙って歩いていたかった。
 どれだけでも、黙ってこのまま、一緒に居たかった。

 
 部屋に戻って時計を見ると、もう十時近かった。
 座卓は片付けられていて、布団がもうちゃんと敷いてあって、だから何だか
部屋の中が白く見えた。
「って、まだ、こんなに早いのに」
 と言うそばから、赤と青の色が、ひらひらと枕の上に落ちるのが見える。続
いて雨竜が、やっぱりぱたっと枕の上に倒れ込んだ。
「……ああ、そっか」
 朝から電車に乗って(というか、籠に閉じ込められて)、ここまで来たら相
羽さんが居るもんだから全員はしゃいじゃって。それにお風呂入って、ご飯食
べて、外に散歩に行った……となればもう。
「おやすみなさい」
 ひらひらと、無風の日に散る桜の花片のように、メスベタが枕の上に着地す
る。そのままぱたんと横に倒れて。

 疲れたんだろうな。
 でも……なんてか、本当に満ち足りて疲れてるんだろうな。

 ……にしても。
「枕占領するし」
 苦笑してる横で、相羽さんは、もう片方の布団の上にごろりと横になった。
一番疲れてるのは、この人だっけか。
「肩、揉もうか?」
「んー……」
 相羽さんはくるりと横を向く。そのままひょいと手を伸ばしてきて。
「わ……っ」
 ぐい、と、手を引っ張られてバランスが見事に崩れる。駄目だ、相羽さんの
上にぐしゃっとなるじゃないか……とか思う間に、何がどうなったのか。
「……あの、布団二つあるから」
 それで?というように相羽さんがこちらを見る。
「あたしあっちに寝るのかなあ、と……」
 いつもと同じように、相羽さんの腕が枕になってて。
 自分のそれとは異なるリズムの鼓動。安堵と……一瞬感じる、申し訳なさ。
重いんじゃないかなとか、まだ暑いのにとか。
 相羽さんの手が伸びる、目の前に伸びた指に思わず目をつぶったら、そのま
ま掛けていた眼鏡をそっと外して、枕元に置いた。
「おつかれさん」
 相羽さんが言ったのは、結局その一言だったと思う。
 でもその一言で……もう、何もかも全部、ほどけるように溶けてしまって。
「……おやすみなさい」
 呼吸の一つ一つ。その度に力が抜けてゆくようで。
 ほんとはまだ寝たくないと思った。まだこの人と一緒に話したい、いや、話
すことが無くても、起きていたい……って。
 でも。
 でも…………



 頭のどこかで、夢だと思っていた。
 奇妙に広がりの無い世界。灰色の壁に囲まれた部屋。

(幸せだったろう)
 どこからともなく響く声。
(幸せだと思ったろう)
 左右を見た。振り返って後ろを見た。
 何も、見えない。
(だが……ねえ)
 ふっと、口調が粘度を増すと同時に、部屋の大気も重苦しいものとなる。
(幸せが続くと……思うかい)

 ふっと。
 狭い部屋の中に、座り込む人の影が見える。
 何て唐突な、と、どこかで思っている。なんてわざとらしい、なんて嘘臭い。

(幸せはね、続くわけがないよ)

 顔を上げる……相羽さん(そう、どこかであたしは、そのことも知っている)。
 上げた顔は、異様なほど白い。
 その手が、ゆっくりと持ち上がり。
 指の先から、白い反射光が現れるのが見える。

 じっとこちらを見る目。無表情のままの、責めることもなく、だけど一切何
も頼ることもない視線。

『……あい……ば、さん』
 
 何も言わない、何も動かない。

『尚吾…………さんっ!』
 
 ゆるやかに手が上がり、ゆるやかに顎の下に達し。
 そして。

 惨いほど緩やかに。
 その手の中の中の銀の刃は。
 相羽さんの喉を切り裂いた――――



「…………ぁぁぁぁっ!!」
 飛び起きると同時に、腕を掴む手の感触が意識の端に登った。
 せいせいと息を吐く間に、でも気がついていた。しっかりと腕を握り、そし
て撫でる手。

「……………っ」 
「俺はちゃんと居るよ?」 
 真っ暗な中、いつの間にか相羽さんが起き上がっているのが判る。
「……大丈夫」
 すうっと、背中を撫でる手。頭を軽く叩くように撫でる手。

 だけど。

「……ほんとに、消えないよね?」
「消えないよ」
「ほん、とに」
 
 首が有り得ない方向に曲がって。
 血まみれになって。
 首の辺りにノコギリで挽いた跡と、その表情。

「…………っ」
 
 夢が押し寄せる。一週間の間見続けた、あの……悪夢が。

 厭だ。厭だ。厭だ 厭だ厭だ――――っ!!


 ふっと、気配が動いた。
「……」
 背中に廻る腕。ぎゅっと抱き締める手。
「……大丈夫」
 小さな……でも、ほっとする、声。

 大丈夫だよ。
 大丈夫だから。
 そんな、含みを持つ声。 

 何度も何度も。
 相羽さんの手が背中を撫でる。大丈夫、大丈夫、と、耳元の声。

「……大丈夫」
 ぱたぱた、と、涙がこぼれた。
「大丈夫だから」

 目を閉じた。途端にふっと……溶けるように眠気が差した。

「大丈夫だから……ね」
 ふわり、と柔らかな声に、手を伸ばして取りすがった……と思う。
 それが……最後。
 多分その夜の最後の記憶。


時系列
------
 2006年9月初め

解説
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 一日目、眠る時の話。
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 ではでは。
 


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