[KATARIBE 30386] [HA06N] 小説『悩めるヒヨコ』

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Date: Sun, 26 Nov 2006 19:54:43 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30386] [HA06N] 小説『悩めるヒヨコ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年11月26日:19時54分43秒
Sub:[HA06N]小説『悩めるヒヨコ』:
From:久志


 久志です。
みぎゆかまさきの騒動、少しだけとっかかりを。
すべての発端になったゆかりん変化の原因です、はい。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『悩めるヒヨコ』
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登場キャラクター 
---------------- 
 蒼雅紫(そうが・ゆかり)
     :霊隼使いの少女。まだまだお子様な箱入り天然娘。
 蒼雅巧(そうが・たくみ)
     :霊鷹使いの少年。紫の双子の兄(続柄は従兄)
 弧杖珠魅(こづえ・たまみ)
     :弧杖家の娘。ちょっぴり悪女っぽい。巧と付き合っている。

一人
----

 そんなつもりじゃなかった。

 夜。
 吹利市の外れに位置する蒼雅家にて。広い敷地内に建てられた古い蔵の中、
蒼雅紫は白着物に朱袴姿で膝を両手で抱え込むように座り込んでいた。ぎゅっ
と握り締めた手が力を込めすぎたせいで白く色を失っている。

 つい一時間ほど前の出来事を思い浮かべる。

 くすくすと忍び笑う彼女の声。
 小さく囁くような兄の声。
『寂しいな、一人で帰るのは』
『お送りいたしますから』
『そのまま泊まっていってもいいのだぞ』
『困ったことをおっしゃる』

 微かに苦笑を含んだ、でもその奥になんとも言えない何かを含んだ声。
 今まで全く聞いたこともなかった兄の声と慈しむような、でもただ優しいだ
けではない何かを感じる顔。
 ぽすん、と。膝に顔を埋める。
「……巧にいさま……」

 蒼雅巧、紫の双子の兄にして蒼雅家跡取り息子。分家に養子にでた紫にとっ
ては長年従兄として慕ってきた人でもある。幼い頃から聡明で、礼儀正しく、
文武両道、五歳にして蒼雅の後継は他になしと周囲にいわしめた人物で、戦闘
以外何一つ満足にこなすことができなかった紫にとっては尊敬すべき人であり、
常に優しく接してくれた誰よりも頼れる人、だった。

『紫、またここにいたのか?』
『巧にいさま……』
『ほら、巽叔父上も雲雀叔母上も心配なさっているよ。出ておいで』
 いつも優しくて。
 頭を撫でてくれて。
 悲しい時、泣いて蔵に閉じこもっていた紫を迎えに来てくれた。 
『ほら、おいで紫』
 いつも迎えに来てくれた巧の姿はない。

 巧に恋人ができたことは前から知っている。ずっと一緒にいることができな
いことも理解している。そして自分も高校で大事な友人ができ、その寂しさが
和らいでいることも。
 そっと胸を押さえる、手を伝ってくる鼓動は早い。つい先ほど紫が見た光景
がまだ紫の脳裏から離れてくれない。

 ここ最近、巧の恋人であり梓の婚約者弧杖魎壱の妹でもある弧杖珠魅がよく
蒼雅家に訪れている。勉強を教わる為との話だが、その実として巧や蒼雅本家
との交流でもあるということは紫にもわかっていた。時折紫らの分家の人間達
と共に食事をすることもあった。決して珠魅を嫌っているわけではない。だが、
どこかなにかひっかかりを感じていた。そして、この日も珠魅や両親らと食事
を済ませた後、紫は早々にその場を辞した。
 
 何をするでもなく、庭を散策しながら。そこで。
『……今日は楽しかったぞ』
『それは、光栄です』
 盗み聞きするつもりもなかった。
『巧』
『はい?』
 覗くつもりなどなかった。

 ぎゅっと巧の袖を握って目をつぶる姿。
 微かに笑って両手で包むように珠魅の頬を撫でる姿。

 そして。

 深く、息を吐く。先ほどから息苦しさと激しい鼓動がおさまらない。俯く紫
の傍らで呉羽が黙ったまま羽を摺り寄せるように紫の手を撫でる。
「呉羽……」
 硬直してしまった紫の襟首を捕まえて、ここにつれてきたのは呉羽だった。
「ありがとう」
 それがどういうことかは知っている。恋人同士では当然のことだということ
も理解はしている。
『あれはキスちゃう、チューくらいなもんで』
 以前、クラスの集まりでやったポッキーゲームなるもので、クラスメイトの
渚と同じことをしたことがある。
 だが、目の前でみた兄と珠魅のとはまた、違っていて。

『どうした、紫?ほら、出ておいで』
 いつも優しくて、泣いていた紫を迎えに来てくれた巧。

『……お戯れを、珠魅殿。困らせないでください』
 先ほどみた巧は紫が一度も見たことのない表情で笑っていて。

「……にいさま」
 膝を抱えたまま顔を埋める。

 俯いて、膝を抱えていても。
 もう、紫の知っている優しい巧は来てくれない。

時系列 
------ 
 2005年11月初旬。蒼雅家にて。
解説 
---- 
 ゆかりん、ショックを受けてる様子。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。




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