[KATARIBE 30382] [HA06N] 小説『天使の再会』

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Date: Sat, 25 Nov 2006 18:28:45 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30382] [HA06N] 小説『天使の再会』
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2006年11月25日:18時28分45秒
Sub:[HA06N]小説『天使の再会』:
From:久志


 久志です。
しばらく書いてないせいで話が書けなくなってるヨ。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『天使の再会』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。昔は遊び人でした。
 本宮美絵子(もとみや・みえこ) 
     :昨年、騒動の末に幸久とめでたくゴールインした新妻さん。
 少女  :幸久が出会った不思議な少女。

記憶
----

 覚えているのは軽く首を傾げて顔を覗き込む顔。黒目がちの大きな瞳と、
真っ直ぐに揃った少し長めのショートボブ。ふっくらした頬の右側に、まるで
ペンでついたような小さなほくろが一つ。

『おにーさん、フラれたな?』
『うるせーよ』
『あ、図星だな〜八つ当たりはカッコ悪いぞ?』
『大きなお世話だっ』


 そいつに出会ったのは大学四年の夏の終わり。 
 大学三年で美絵子にフラれて以来、俺は半分ヤケになってあちこち遊び倒し
ていた。莫迦みたいに合コンやらナンパやらで出会った子と付き合っては別れ
てを繰り返して、その度にへこんで泣いていた頃。

 誰もいない助手席。
 ミラーにぶら下がった猫のマスコットがハンドルを切るたびに小さく揺れる。
ガラガラの車道を走りながら、つい先日分かれたばかりの奴の顔を思い出す。
『ごめん、幸久くん』
『謝るなよ』
『……ごめんね、私の居場所……幸久くんの隣じゃない気がするの』
 舌打ちして、記憶を振り切るようにアクセルを踏み込む、小さな唸り声をあ
げてスピードが上がる。

 居場所ってなんだよ。
 俺の隣じゃないってどういうことだよ。
 正直に言ったらどうなんだよ、他に男できたってよ。

 人づてで聞かされて、愕然としたっつうの。アホみたいに言葉の意味を気に
して悩んだのが莫迦みたいじゃねえか。
「……くそっ」
 あてもなく、予定もなく。
 いや、本当なら今頃は二人で旅行に行ってることになってるはず……だった。
 やってらんねえよ、ったく。何で、いつも、こうなんだろうな。

 海沿いの道をどれだけ走ったか。
 殺風景な景色、広い車道は対向車も後続もなくがらんとしていて。傾きかけ
た日が照らす中、見る限り殆ど建物もない道をひた走る。本当ならそこにいる
はずだった助手席のシートは奴のかわりに一冊のマップがぽつんとあるきりで、
つけっぱなしのカーラジオからはダミ声の黒人シンガーの良く通る歌声が響い
ている。
「ったく、なんもねえな」
 店どころか建物さえも殆ど見当たらない道を抜け、ようやくつぶれかけたコ
ンビニもどきの休憩所が前方に見えた。
 よくもまあこんだけ人の来ない場所で店として成り立つもんだと言わんばか
りの小さな商店、逆にこれだけ何もない場所だからこそ、つぶれずに残ってる
といったほうが正しいか。
「マイセンライト」
「はいよ」
 がらんとした店内、いかにもやる気のなさそうなおっさん店員が今にも埃が
舞いそうな棚から煙草のケースを引っ張り出すのを眺めながら、灰色に薄汚れ
たカウンターに缶コーヒーと小銭を置く。
 会計を済ませて車へと戻る途中、ふと顔をあげて寂れた店に振り返る。
 
『知らないの?幸久くん、あの子の新しい彼氏のこと』
『……え?』
『こないだ紹介されたんだよ?つき合うことになった、って』

 ったく、ふざけんなよ。
 車に乗り込んで乱暴にドアを閉める。キーをひねり、アクセルを踏み込んで、
ハンドルを切る。

 バックミラーに映る後部座席。無造作に放り投げられた黒の上着が見える。

「ん?」
 ふと見やった先、丸まった上着の隣に白い足が見えた。
「なっ」
 慌てて振り向くと同時に、目の前に黒目がちの大きな瞳が飛び込んできた。
「こんにちはっ」
 後部座席から顔を出したのは、真っ直ぐに揃った少し長めのショートボブを
揺らした十二・三歳の少女。
「な、なんだお前っ!」
「えへへ、いいじゃん」
「よくねえよっ、どっから入ってきやがった!」
 人の話も聞かず、そのままずうずうしく助手席に乗り込んでくる。
「さ、いこいこお兄さん。ちゃんと前見てよ」
「って……この」
 慌てて前を向いてハンドルを握る。
 隣では上機嫌で鼻歌を歌いながら、まるで当たり前のように席にもたれてる
ガキの姿。
「……なんなんだよ、おまえ!人の車乗り込んできてきやがって」
「いいじゃん、そんなの」
 足をばたつかせながら、上目遣いでこっちをおかしそうに見上げる。ふっく
らした頬にペンでついたような小さなほくろが一つ。
 小首を傾げて覗き込んでくる。
「ねえ、おにーさん、ドライブ?」
「ちげえよ」
「これからデートとか」
「それもねえっ!」
「お、その反応。さてはおにーさん、フラれたな?」
「うるせーよ」
「あ、図星だな〜八つ当たりはカッコ悪いぞ?」
「大きなお世話だっ」
 クスクスと小憎らしく笑う姿を見ながら。窓枠に肘をついて頭を押さえる。
 ったく、しょうもねえ拾いモンしちまったな、こりゃ。

 上機嫌で俺の顔を覗き込む顔、柔らかそうな黒髪のショートボブの毛先がさ
らさらと揺れている。少しサイズの大きいジーンズのショートパンツに白のス
ニーカー、洗いざらしの白い半袖シャツ姿という一見少年と見間違えるような
格好。針金のように細い手足を伸ばして、助手席に座ったまま外を見てる姿。

 だが。

「お前、さ。どっからきた」
「ナイショ」
「てめえ」
「それより、ほらほら海奇麗だよっ!」
 人の話さっぱり聞いてやがらねえ。てか、なあ。めんどくせえ。
「……どこ行けばいい?」
「わ、連れてってくれるんだ」
「しょーがねえだろ、降りろっつっても降りる気ねえだろ」
「そーだよっ」
 ぺろりと舌を出す、少し寄り目になった顔が何かおかしい。
 なんだか、なあ。

「ね、おにーさん」
「なんだよ」
「ちょっとだけ、海見てみたい」
「はあ?」
「ねえ、ダメ?」
「……わーったよ」
 しょーがねえなあ、ったく。
 ハンドルを切る。
 開けた視界の先、真っ直ぐに伸びた道路と助手席側に見える海。
 差し込む日差しが、黒い髪を照らして淡い光の輪を作って、窓の外を眺める
横顔を照らす。

 夏の終り、でもまだ気温は夏そのもの。
 っていってもこんな周囲に民家もなけりゃ店もなんもねえ道路沿いの海に出
てくる暇人なんかいねえよな、実際。
 広がる砂浜こそないものの、コンクリで固められた海岸線は打ち寄せる波に
洗われてずっと伸びている。遠くで渦巻く海原、寄せるたびに砕けた波頭が白
く広がって散っていく。
 まあ、青臭いけどいいよな、こういう風景も。こうして並んで眺めてるのが、
小生意気なガキでなく彼女だったらいいんだけどな、マジで。
「わあ、海っ!」
 ひょいと、コンクリの淵に乗って歩くガキを見る。
 照りつける日差しの中、少し日に焼けた肌、針金みたいに細い足がとんとん
とリズミカルに跳ねる。見るからに、のびのびとして、軽やかで。

 でも。

「ねえ、おにーさん」
「なんだよ」
「あたしが恋人になってあげよっか?」
「お断りだ、マセガキ」
「ちぇー」
 とん、とん、と。
 跳ねるような足取りにあわせて、黒髪が跳ねる。
「……じゃあ」
 足を止める。
 じっと遠く、海を眺めて。
「じゃあさ、こうしよっか」
 ばっと勢いよく振り向いた顔。

「今度……生まれ変わったら、おにーさんの娘になってあげる」

 微笑んだ顔は、歳に似合わぬ大人びた、寂しげな表情を貼り付けて。
 涙が、一筋。
 日に焼けた頬を伝った。

「そしたら、きっと……今よりもっと幸せになれたんじゃないかな、って」

 ふわり、と少女の足が浮く。

「おにーさん、気づいてた?」
「まーな」
「どうして、つきあってくれたの?」
「何となくだよ、別に暇だったし」
 さぁっと、海からの風が吹く。
「……おにーさん」
「ああ」

「ありがとう」

 それきり、風に吸い込まれるように、その姿が消えた。
 跡形もなく。


 日も傾いた帰り道。
 行きに立ち寄ったコンビニで買った新聞を広げる。

『少女殺害死体遺棄、母親と同居男性が殺害を自供』
『国道○○線沿い山林で遺体発見』

 新聞を後部座席に放り投げて、煙草をくわえる。

『今度……生まれ変わったら、おにーさんの娘になってあげる』

 火をつけて、一息吸い込む。
 細く吐き出した煙がゆっくりと天井へのびていく。
「ったく」
 キーをひねる。振動を確かめて、アクセルを踏み込む。

『そしたら、きっと……今よりもっと幸せになれたんじゃないかな、って』

 すっかり、忘れていた。
 はずだった。


再会
----

 落ち着かない。
 時計を確認する。というか、さっきから何回時間を確認してんだ、俺。
 なんてかなあ、今でも未だにどっかで信じられねえけど。俺、父親になるん
だよなあ。というか、ついニ年程前は結婚すらまるで予定の範疇外だったんだ
よな。
「大丈夫ですよ、お父さん。しっかり気を持って」
「はい……」
 看護士の励ましの声も、まるで頭に届いてない。

 無事に産まれるよな?
 美絵子、お前もガキも大丈夫だよな?
 ちゃんと俺に元気な顔みせてくれるよな?

 なんだか体で感じる時間がやたらめったら長い。両手で握り締めた安産のお
守りのザラッとした手触りと、内側にじわりと滲んできた汗の感触。

 大丈夫だよな? 
 史兄んとこだって安産だったっていうし、俺んとこも大丈夫だよな?
 安産の祈願もして、無事祈ってたもんな?

 ゆっくりと、息を吐く。
 まだ、時間は五分と過ぎてない。


 その日、子供が産声を上げたのは、それから六時間ほど後のことだった。

「なあに、ユキの方がへろへろじゃない」
「……随分余裕じゃねえか」
 人の顔見るなりそれかよ、おい。
「まあね、もうやっとだもの、ホッとしちゃった。ほら」
 ベッドで体を起こして、美絵子はいつもの勝気な顔で笑ってる。でも、どこ
かちょっと違う。にじみ出るような柔らかい何かを感じる。
 母親の顔、って奴、かな。

「ほぉら、見て」
 両手に大事そうに抱えた、真っ白なおくるみに包まれた、赤ら顔の……

『おにーさん』

 一瞬、止まる。

「ユキ?どうしたの」
「……ん、ああ」
 美絵子の腕に抱かれたまま、ぎゅっと目を閉じて眠る顔。
 高い鼻とか細い顎とかは美絵子譲りだな、うん。女の子だもんな、あんまり
ごっついのもなんだし。

『今度……生まれ変わったら、おにーさんの娘になってあげる』

 指先で、頬を撫でる。
 柔らかくて、ふっくらした頬にペンでついたような小さなほくろが一つ。
「なあ、抱っこしていいか?」
「なに言ってるの、当たり前でしょ。ほら、パパ」
 両手で受け取った体は、本当に小さくて、しみこむように重い。

『そしたら、きっと……今よりもっと幸せになれたんじゃないかな、って』

 ぎゅっと握り締めた手は指でつまめるほど小さくて。
「……わかったよ」
 きゅっと閉じた目、額にそっと唇を寄せる。

「ちゃんと、幸せにしてやるよ」

時系列 
------ 
 2006年11月25日。
解説 
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 過去にゆっきーが出会った少女の正体。
 そして、ン年後。ゆっきーめでたくお父さんになりました。
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以上。

 おめでとうへっぽこゆっきー


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