[KATARIBE 30374] [OM04N] 小説『霧の夜』

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Date: Thu, 23 Nov 2006 23:24:50 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30374] [OM04N] 小説『霧の夜』
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ふきらです。

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小説『霧の夜』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。


本編
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 夜の都を霧が覆っている。
 空に浮かんでいる満月の光が霧によって散らされ、辺りは白く淡い光に包ま
れていた。
 霧の中からやせ細った犬が現れ、再び霧の向こうへと消えていく。
 風が吹いて、霧が動いていく。それが分かる位、濃い霧であった。
 どこからかカサカサと葉がすれる音がする。
 風が止み、霧が止まり、音が消える。
 しん、と静まりかえった夜の中を望次は歩いていた。
 いつものように時貞の屋敷で酒を酌み交わした、その帰りである。従者はい
ない。いつ帰るか分からないから、と既に帰している。
 火照った頬にひんやりとした霧が心地よい。ただ、水気を吸った衣はいつも
より重い感じがしている。
 月光は十分に明るく、松明は持っていない。
「歩くのに不便がないとはいえ、人に出会うと驚かれるかもしれぬな」
 望次はそう呟いた。
 遠くからカラカラと牛車の車輪の音が聞こえてくる。遠くに橙色の小さな明
かりが見え、しかし、すぐに消えてしまう。
 音もやがて小さくなり、しばらくすると聞こえなくなった。
 明日は妻の所へ行こうか、と望次は思った。三日ほど会ってないのでひょっ
としたら拗ねているかもしれない。
「何か土産でも持っていくか……」
 何を持っていくかを考えながら、角を曲がったところで望次は足を止めた。
 微かだがこめかみ辺りにきりきりとした痛みを感じる。辺りを見回すが、霧
が深いせいか鬼らしき者の姿は見えない。
 気のせいか、と溜め息をついて一歩踏み出したところで、再び動きが止まっ
た。
 前の方に小さな光が見える。
 その色は青白い。
 青白い松明など当然あるはずもない。望次は身を固くして、じっと前を見つ
めた。
 光は段々近づいてくる。それにつれて、足音が聞こえてくる。一つだけでは
ない。かなりの人数のようである。
 足音が近づくに連れて、空気が張りつめてくる。
 望次は周囲に隠れられる場所がないか探すが、通りの真ん中ではそういった
ものは見つからない。水路に隠れるという手があるが、さすがにそうすると
帰ってからの言い訳に困る。
 結局、彼は来た道を戻って、曲がり角の所に身を潜めた。
 そうこうしているうちに足音が大きくなっていく。
 身動きをしないまま、望次は思った。
 自分は鬼を見ることができるが、鬼に対して何かできるわけではない。対し
て、普通の人は鬼を見ることができず、例えばこういう状況であっても何も考
えることなく進んでいくだろう。その結果がどうなるかはさておいて、果たし
てどちらが良いのか。
「もっとも、一番良いのは鬼が見えてそれに対処できる者、か」
 では、鬼は見えないが、それに対処できる者はどうなのだろう、と更に考え
る。当然、思い浮かぶのは時貞である。
「……あいつなら何のためらいもなく過ぎていくだろうな」
 呟いて苦笑いを浮かべる。
 気が付けば、足音はかなり近い。陰になっているところからそっと顔を覗か
せると、貴族の装束を着た者が列をなして歩いていた。
 先頭の者が持っている松明は青白い炎を揺らしている。それに照らされて見
える顔は一つ目。続く者も、角が生えていたり、腕が四本あったりと異形の者
ばかりである。
 行列の半ばほどで牛車が見えた。勿論、その牛も普通ではない。首がないの
だ。しかし、その歩みはしっかりとしている。
 牛車が通り過ぎても行列は続き、前半分と同じ位の人数が過ぎ去ったところ
で行列は終わった。
 通り過ぎた後も、しばらく動かずにいたが、足音が遠くになってからようや
く望次は通りに姿を見せた。
 そんなに長い時間が過ぎたはずではないが、やけに体が重い。酔いもとっく
に覚めてしまっている。
 望次は行列が過ぎ去った方を見て溜め息をついた。
「やれやれ」
 一つ背伸びをする。
「時貞あたりに頼んで、対処の仕方を教えてもらった方が良いか……」
 家路へと向かう彼の後ろで、小さい青白い光がいくつか瞬いた。


解説
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夜の一人歩きには気をつけましょう。

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