[KATARIBE 30372] [HA06N] 小説『佐上雑貨店でのちょっとした会話』

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Date: Thu, 23 Nov 2006 21:57:33 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30372] [HA06N] 小説『佐上雑貨店でのちょっとした会話』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年11月23日:21時57分33秒
Sub:[HA06N]小説『佐上雑貨店でのちょっとした会話』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
だんだん題名が、てけとになってます。

でも、これ、聡のほーにも繋がる話なので、書いてみたかったのです。

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小説『佐上雑貨店でのちょっとした会話』
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登場人物
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 佐上氷我利(さかみ・ひがり)
  :佐上雑貨店店長。魔道師。現在市原眞由美嬢が居候中。
 六華(りっか)
  :冬女。佐上雑貨店のアルバイト。
 来応狐 陵 (らいおうこ・みささぎ)
  :本読み魔術師。魔術師関連で佐上雑貨店にやってきたところらしい。
 市原眞由美(いちはら・まゆみ)
  :由緒正しき魔女の家系の魔女。現在佐上雑貨店に居候中。

本文
----

 奥のほうで、何やら声が聞こえる。
「……というか、眞由美さん。やっぱ家事は俺がやったほうがー」 
 人が良いのは折り紙付きながら……つまり逆に言えば、どうも人間関係につ
いては押しの弱い店長が、もごもご言うのを聞いていない(というより聴こえ
ていないのだろう)タイミングで。
「あ、氷我利さん、ちょっとスーパーまで資源ごみだしてきますねー」 
「え?あ……ちょ……」 
 つっかけ履いてぱたぱたと、眞由美さんは出てゆく。出てゆき際に、六華に
ニッコリ笑って目で挨拶することは忘れない。

「……行ってしまった……」 
 奥から頭だけ出して、どこか呆然と呟く店長と、その横でにやにやと笑って
いる、まだ若い男性……六華からしたら『少年』と。
 結構このお店にはモノを買わないお客が来るようで、恐らくこの少年もその
一人なのだろう、と、どこか無意識のうちに六華は考え、ふ、と息を吐いた。

 このところ、考えていた。
 ちゃんと店長に言うには、いい機会かもしれない。

「……店長さん、そろそろあがる時刻なんですが……」 
 お客は居ないし、やってこようとしてる人も居ない。確認して六華は奥に向
かって声をかけた
「……へ?あ、あぁ。はい。どうぞ。」 
 掛けてあったエプロンをとって、いそいそと交代準備を始めた店長を、六華
は、ちょっと困った顔で見やった。 
「あ、それで……ちょっとご相談というか、何と言うか」 
「? 何でしょうか?」 
 視野の隅で、少年がメモ帳を開いているのを何となく目に留めながら、六華
は言葉を継いだ。
「いえ、眞由美さんのこと……というかあたしのことですけど」 
 はあ、と、要領を得ない顔のまま、相槌を打つ店長に、六華は続けた。
「あの方が居たら、店員要らないんじゃないでしょうか」 
 店員、と言いながら自身を指差す。きょとん、と、氷我利は六華を見やる。
「……いや、眞由美さんは店員さんじゃないし……」 
「でも、あの方こちらでクッキーとかパンとか売ってますけど、売れ行きすご
くいいし」 
「……一応、職が見つかるまでお預かりしてるだけだし……」 
「そのうち、ここ、パン屋さんにしたほーが、繁盛しそうだし」 
「……うぐ……」 
 ある意味というか何と言うか、えらく容赦の無い六華の台詞に、氷我利は言
葉を飲み込むように黙ってしまった。

 でも実際、眞由美のパンもクッキーもよく売れる。お昼には六華も一つ二つ
買って食べるが、普通の丸パンでも噛むと味がふわりと広がるようで、今の値
段の倍でも買う人は買うだろうと思ったりする。最近は口コミで評判が広がっ
たようで、六華も時々、お昼にはパンの売り子を手伝ったりもする。

「で、ここで本格的にって言っても、まだ余分な店員を雇うほどじゃないと思
うんです」 
 もともと雑貨店のほうは売れ行きがそうそう良いというわけでもない。
「……一応、雑貨店の存在はカモフラージュというか……ポーズというか……
やっている事に意味があるわけで……」 
(成程、道理で商売っ気が無い)
 ぼそぼそ、と言う店長の言葉に、内心呟き返しながら、六華は小首を傾げた。
「でも、カモフラージュなら、パン屋さんでもいいんじゃないですか?」 
「……うぐぅ……」 
 すっかり困惑した顔になった店長に、六華はくすっと笑った。
「……いや、いざとなっても佐上店長さんだと、遠慮して『人要らなくなった
から辞めて』って言えないんじゃないかなって思いまして」 

 達大のところから飛び出して、働き出して。
 お給料はごく普通、本宮家で格安の部屋代で住まわせて貰っているからこそ
なんとかやってゆける程度とはいえ……しかし店長の『副業』があるからこの
店が潰れていないのだろう、と、六華にも想像はつく。それに、一度引き受け
たらやっぱり責任が、とか、そういうことを考えそうな人だということもやは
り判っている。
 そういうところが折り紙付きの人の良さ、なのだ。

「先回りしときました。その時になったら、少し早めに言って頂けるとあたし
も有難いですから」
 にっこりと笑って言った六華に、段々と『困惑』の度合いを深めながら、氷
我利は言葉を選んで答えようとする。
「……まぁ、確かに。売り上げの面と真由美さんの自立の面からするとパン屋
さんにするのが一番いいですが。」 
「でしょ?」
 それなりに続いた雑貨店が、ここのところ数ヶ月のパン屋さんにのっとられ
かけてる。ある意味店長としては悔しかろうことを、彼はさらりと肯定する。
(やっぱりなあ)
 くすくす笑いながら、六華は奥の少年が、メモ帳になにやら書きとめている
のを無意識のうちに見ている。
(……いつパン屋に代わるか、とかメモしてるのかしらね)
 そう考えると、それもまた、なんとなく可笑しい。
「でも、付喪神を仲介する身としてはやっぱり、雑貨店でありたいと思うんで
す」
「…………」

 店の奥に、幾つも並ぶ蔵。
 その中のことは、六華も多少は知っている。
 
「仰ることは……というか、店長の気持ちは、了解なんです」 
 モノをあるべきところに収める商売。そう考えると、この雑貨店も蔵の奥を
中心とした店長の『副業』も、同じことなのかもしれない。
 だから、店長が雑貨店を雑貨店のままにしたいというのは、六華にも良く判
る。
 が。

「でも、雑貨店兼パン屋さんの店員さんでも、眞由美さんならなんとかやって
ゆけるんじゃ?……つまり今みたいに、ってことですけど」 
「……確かに、今のところ一緒にやっていますけど。真由美さんはいつ居なく
なるかわからないですから」
 さらりと、少なくとも本人の口調には、何か隠し事などがあるような含みは
全く無い。
「…………」
 小首を傾げて、六華は相手をじっと見た。

 佐上雑貨店の若奥さんの噂は……氷我利が認識しているかどうかはかなり謎
なのだが……周囲ではかなり有名である。長い髪を三角巾に包み、実用的なエ
プロンに身を包んだ眞由美が氷我利のご飯を作っていることも、佐上雑貨店に
居候していることもかなり知れ渡っている。ただ、その『居候』が『同棲』に
なっている辺り、情報が過度に突っ走っている感はあるのだが。

(だけど)
 今すぐにどうこうとは、流石に六華も思わない。まだ当分何となく今の状態、
居候の状態で眞由美がここに居るだろうことも予想している。
 しかし。

「……ほんとにそうですかね?」
 いつ居なくなる、なんてことがあるかどうかについては、無い、のほうに賭
ける自信が六華にはある。
 店員として、店の奥には滅多に入らない。そういう付き合いでもこの店長は
無下には付き放すことができなくなるのだ。ましてご飯を一緒に食べて、同じ
屋根の下で暮らした相手が、そのうち居なくなるなんてことは
(口で言っても、ほんとにそうなるとは思ってないわよね)
 くす、と、笑いながら、そんな風に六華は思う。

「……そうですか?」 
 そこらが全く判ってない顔の店長を見て、六華は思わずくすくすと笑った。
「……とりあえず、了解です」 
 手に持った布巾……あちこち最後に埃を拭いていたものだ……を、ぽん、と
軽く叩いて。
「私も今すぐと思って言ったわけじゃないですから。ただ、その折にはどうか
ご遠慮なさらず」 
「……さすがに遠慮なく切るのは無理ですよ〜、割り切ってばっさり切れるな
らこんな職業してません」
「いや、それは判ってるから、先に言ったんですよ」
 にっこりと、畳み込むよに言った六華に 
「……うぐ……」
 またもや氷我利は言葉を呑みこんだ。
(やっぱりねー)
 とりあえずこう言っておかないと、この店長はいつまでも自分を首にするこ
とができず、結果ずるずると赤字を増やしそうだから。
(それに、若奥さんがこのお店を手伝うほうが、理に適ってるしね)
 そこらに関しては、今のところあまり他の未来があるようには思えない。 

「とりあえず、今日は上がります。あと宜しくお願いします」
 ぺこん、と、勢い良く一礼する。 
「……了解」 
 うう、と、完全に押され負け、の顔の店長の後ろで、少年がにやにやと笑っ
ている。気が付かない顔で、六華はエプロンを外して、くるくると畳んだ。
「じゃ、お疲れ様でした」 
 はあ、と挨拶と溜息の中間の声を聞き流して、六華は鞄を肩にかけて出てゆ
く。エプロンの後ろの紐を結ぶことすら忘れた格好の氷我利は呆然としてそれ
を見送った。
「……俺……周りに翻弄されまくり?」 
「…………がんばれ!」 
 にやっと笑った少年……陵がぽん、と肩を叩いたのに。
「……がんばる」 
 はあ、と溜息をついて氷我利……佐上雑貨店店長は答えたものである。

 通りはもうすっかり暗くなり、街灯の灯は飛び石のように道を照らしている。
 そういう時刻の……ちょっとした風景である。

時系列
------
 2006年11月。佐上雑貨店にて。

解説
----
 市原眞由美さんがやってきて、しばらくしての風景。
 六華の再就職話に繋がる予定です。
 参考ろぐは以下の通り。

http://kataribe.com/IRC/KA-02/2006/11/20061120.html#000000
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 てなもんで。
 であであ。



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