[KATARIBE 30371] [HA06N] 小説『ある秋の日』

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Date: Thu, 23 Nov 2006 20:50:00 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30371] [HA06N] 小説『ある秋の日』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。

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小説『ある秋の日』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/ 
  片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

 ケイト:
  蒼雅紫が生み出した毛糸のよく分からない生き物。癒し系。


本編
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 日が落ちるのも早くなり、窓の外は既にオレンジ色に染まっていた。もう一
時間もしないうちに真っ暗になる。
 夕樹は読んでいた本から顔を上げた。裏部室の中もそれなりに暗くなってい
る。顔を横に向けると、聡が机に顔を伏せて、寝息を立てていた。
「ふむ」
 背もたれに体を預け、上を向く。そして、静かに言葉を紡ぐ。

「わがやどは雪ふりしきて道もなし踏みわけてとふひとしなければ」

 部屋の中が一瞬に真っ白となる。天井から降ってくるのは雪。音もなく静か
に机に、床に、そして、夕樹の肩に積もっていく。
「……って、冬にはまだ早いか」
 雪は一瞬にして消え、部屋が元に戻る。
 夕樹は小さく苦笑した。そして、顔を斜め上に上げて目を閉じる。頭に浮か
んでくる様々な歌の中から秋の歌を探していく。
「これかな」
 そう呟いて、夕樹は背筋を伸ばし息を吸った。

「秋は来ぬ紅葉はやどにふりしきぬ道ふみわけてとふ人はなし」

 今度は床一面に紅葉。赤や黄色の葉がはらはらと降ってくる。
 落ちてきた楓の葉を左手で掴み、クルクルと回す。
「……いいね」
 作り出した光景に満足して、微笑んだ。
 また、葉が一枚落ちていく。それは丁度眠っている聡の服のポケットに吸い
込まれていった。
 しばらくして、そのポケットがもこもこと動いたかと思うと、中からケイト
が姿を見せた。頭の上に葉を乗せている。
 辺りを見回すと、ケイトはひょこひょこと器用に聡の体を伝い、机の上へと
やって来た。
 そして、じっと机の上を見つめる。
 恐る恐る一歩踏み出すと、その下で落葉がカサカサと鳴った。
 その上で何度か飛び跳ねる。足下の落葉が舞い上がる。
 クルクルと回転してから、ケイトは落葉を両手一杯に掬うと、えいっと放り
投げた。
 それを見て、またクルリと回る。毛糸の体のそこここに落葉がくっついてい
る。
「……ふに?」
 ケイトが立てる葉擦れの音に起こされたのか、聡が顔を上げた。
「おはよう」
 夕樹が声を掛けるが、それに気が付いていないかのような、まだ少し寝ぼけ
ているような表情で聡は辺りを見回した。
「あー……」
 聡は眠そうに目を擦った。
「……そうか。高瀬君が出したのかぁ」
 夕樹は一つ頷いて、机の上で遊んでいるケイトに目をやった。
「ちょっとうるさかったかな?」
 そう言って、ふぅと力を抜くように息を吐く。
 落葉がすぅっと消える。
 当然、ケイトにくっついていた落葉も跡形もなく消えてしまった。
「いや、全然。きれいだったよ」
 聡が微笑む。
 その側で、ケイトがキョロキョロと消えてしまった落葉を探していた。

時系列と舞台
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2006年晩秋。創作部裏部室。

解説
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「わがやどは〜」、「秋は来ぬ〜」どちらも古今和歌集から。

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