[KATARIBE 30370] [HA06N] 小説『魔女の日常』

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Date: Thu, 23 Nov 2006 20:50:44 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 30370] [HA06N] 小説『魔女の日常』
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2006年11月23日:20時50分44秒
Sub:[HA06N]小説『魔女の日常』:
From:久志


 久志です。
ちょっぴり眞由美サンのお話など。
氷我利さんちに行く前の日常風景。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『魔女の日常』
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登場キャラクター 
---------------- 
 市原眞由美(いちはら・まゆみ)
     :魔女なお姉さん。コヴェン「黄昏の魔女達」に所属している。

日常
----

 ゆらゆらと、さまよう。
 うっすら開いた目、まだ夢と現の間の曖昧な時間を揺れ動く意識。
 ゆらゆらと、どちらともつかぬ薄闇の中で。

 次の瞬間、ふわふわとベッドでまどろむ眞由美の耳に甲高い目覚まし時計が
音が鳴り響いた。
「ああ、はい……はい」
 とろんとした眠りの海から引っ張り出されるように、体を起こして枕元の目
覚まし時計のベルを切る。
 時刻は朝の四時半。淡い黄色のカーテンの隙間からほんのりと早朝の日差し
が漏れている。軽く両目をこすって体を起こす、ひんやりとした空気に軽く身
を震わせてパジャマのボタンを一つ一つ外していく。

 市原眞由美22歳、職業無職あるいは家事手伝い。ここまでは世間でも良く
ある肩書き。しかし、もうひとつの他とは違う顔があった。

「はいはい、今お水をあげますからねえ」
 つっかけを履いてベランダにずらりと並んだプランターの前でジョウロを傾
ける。霧のように細かい水滴が青々と茂った葉に降り注ぎ土を湿らせる。
 生い茂る葉、それらは一見どこにでもあるようなハーブのようにも見える。
だが、それらは普通ではめったに入らない薬草であり、代々眞由美の一族に伝
わる秘薬を作る為の材料でもあった。
 市原眞由美、一見どこにでもいそうな普通のお嬢さん。だが、ひとつだけ普
通の人とは違う。

 彼女は魔女だった。

 腰の後ろに手を回してエプロンの紐を締める。
 ただそれだけの行為だが、眞由美はなんとなはく引き締まる錯覚を覚える。
「さあて、お手伝いしましょうか」
 階段を下りて、靴を履き替える。ふわりと香ばしいパンの匂いが漂ってくる。
 眞由美の実家である市原家は昔から、家族で経営する小さなパン屋として眞
由美が物心ついたころからずっと毎朝香ばしいパンの匂いで包まれる。
 一階はパン工房と売り場、二階がダイニングなどの家族共用スペース、三階
が両親の寝室と眞由美の部屋という形できっちりと分かれている。
 工房に顔を出すと、既にエプロン姿の母がふっくらと焼きあがったクロワッ
サンを店用のトレイに移していた。
「おはよう眞由美」
「おはよう、母さん。ハーブの水遣りと鳥の餌やり済ませましたよ」
「ああ、ありがとう」
 そのまま焼きたてのクロワッサンが乗った大判のトレイを受け取ると、そっ
と店内の棚へと運ぶ。
「父さんはもう配達?」
「ええ、今車の用意をしてるとこよ、ちょっといって手伝ってあげて」
「はーい」


 朝と昼、大体店が賑わうのはこの時間帯。
 この時間帯はまさに猫の手も借りたい程の慌しさで、母も眞由美も行き着く
間もなく対応に追われる。しかしながら、朝の慌しさと昼の混雑を終えてピー
クを過ぎた時間、再び賑わい始める三時頃との合間の時間は割合暇である。
「ふわあ」
 あくびを軽く抑えて、レジの前から立つ。
「母さん、少しお店の前を掃除してきますねー」
「ええ、お願い」
 奥の工房から聞こえる返事を背中で聞きながら。
「そうそう、眞由美」
「はい?」
「今日は満月だから、あんまり無理に手伝わなくていいわよ。明日に響かない
ように体を休めなさいね」
「あ、はい、そうでした」
 箒を片手に、ふと思い出したように頷く。

 満月の夜。
 恒例の集会の日。

 夕方。
 夫婦で店を切り盛りする両親の代わりに日々の夕飯の支度をするのは、昔か
ら眞由美の仕事でもあった。
「えーっと、今日はおススメありますか?」
「あるよー眞由美ちゃん、この秋刀魚なんかどうだい?油のってるよー」
「あ、いいですねえ。じゃあ秋刀魚三匹でお願いします」
「いいねえ、即決。待っててねすぐ包むから」
「はい、ありがとうございます」
 買い物袋をぶら下げて、日の傾きかけた道を歩く。
「……ご飯すこし早めに用意して、支度しないとなあ」
 買い物袋を提げて商店街を歩く。
 日の沈みかけた、ゆるりと過ぎる黄昏の時間。

 夜。
 耳を澄ますと、普通の人には聞こえぬ声が微かに響く。
 鏡の前、丁寧にしわを伸ばしたローブの袖に手を通す。するすると着なれた
感触が肌を滑る。ウエストを軽く絞り、首に護符を下げ、儀式用の薄皮の靴を
履いてベルトを止める。
 眞由美が魔女として集会に参加して七年以上。すっかり慣れた行動。
「よしっ、と」
 軽くつま先を叩いて背筋を伸ばす。窓を開け、ベランダに立てかけた箒を手
に空を仰ぐ。冷たい夜風が頬を撫で、髪をすり抜けて流れていく。
 ぴり、と。体の中心から湧き上がるように高まってくる、力。風になびいた
髪を伝って、指先からつま先、髪の先まで張り詰めていく。
 踵に力を込めて、一歩、飛び上がる。飛び乗った箒の上、巻き上がった風に
髪が舞う。 そのまま風きり音と共に、その姿は夜の空に吸い込まれた。

時系列 
------ 
 2006年11月 
解説 
---- 
 眞由美サンの普通な中でちょっと違う光景。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 続く、はず。



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