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Date: Thu, 23 Nov 2006 01:10:08 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 30362] [HA06N] カルマの坂
To: Kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。
ポルノグラフィティの新盤が届き、思い立ってお話を一本。
──その割に元ネタは、ちょっと前のヤツですけどけど。
ご笑覧いただければ幸いです。
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[HA06N] カルマの坂
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登場キャラクター
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岡野晴一 (おかの・はるいち):http://kataribe.com/HA/06/C/0679/
天使を自称する少年。果たして本当に天使なのかは誰も知らない。
顔だけは天使のようにキレイな、でも性格は小悪魔のようにひねた13歳、
中学2年生。
豊秋竜胆 (とよあき・りんどう):http://kataribe.com/HA/06/C/0018/
晴一のお気に入りのお姉さま。
女子高生のような幼い顔立ちの、でもしめるところはちゃんとしめる3x歳、
シガーカフェGARDENの店主。
吹利市内、人気のない坂道の半ば
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「やめといた方がいいと思うけどな」
坂道の半ば、晴一は柔らかく言った。
その背後には坂道の頂上。さらにその先にぽっかりと浮かぶ円い月。
明るい月夜だ。
視線の先で、少年が身をすくませる。
学帽に学生服、さらに外套まで真っ黒な──月明かりを切り取ったように
真っ黒な、そして時代錯誤な装束。それはまるで全身を白で統一した晴一の影
のような姿だった。
「ね? それじゃ神様も救えないよ」
静かに諭す晴一の言葉に、少年はきっと顔を上げた。
鋭く切り込んだような目は、しかし不思議なほど澄んでいる。
「神様なんていない。そんなもの──いない」
きっぱりと噛み砕き吐き捨てるように否定する。
「どうして?」
「もしいるなら、どうしてオレを──それから彼女を愛してくれない? 救っ
てくれない」
穏やかに問い返した晴一に、少年は眉根をきつく結んだ。
奥歯をぎりりとかみ締めて真っ直ぐ射抜くようににらみつける。
「愛してるさ。もちろん。疑う余地もないじゃん」
「嘘だ。彼女は売られて行った。あの金持ちの汚い手に抱かれて魂が壊れち
まった」
澄んだ目の奥に憎しみさえ鋭く浮かべ、少年はさらに言葉を重ねる。
「神様が愛してるっていうなら、どうしてそんな非道い目にあわせるんだ!」
胎の底で破裂したような怒声が夜の空気を揺らす。
「神様は愛してるよ。みんなを平等に。だから、えこひいきはしないのさ」
晴一は、揺れない。
ひるむそぶりも対抗する怒りもなく、肩をすくめ、淡々と応える。
「ときどき、それはとても悲しいことだけど。でも、仕方ないね」
透明な笑みを浮かべ、淡々と諭す。残酷なほど易しく神の論理を説く。
少年の拳がぎゅっと結ばれる。骨がたわむほど、血の気を失うほど、きつく
きつく。
「どうしてオレの願いばかりがかなわないっ! 血の涙を流して、歯をきしら
せて、唇を噛み切るほど祈った願いがかなわないっ!」
掴みかかるほどの勢いで少年は迫る。
それでも──
「願いがかなうものだなんて誰が言ったの? 神様はそんなこと言ってなかっ
たよ? 自分の足で歩いて歩いて、それからちょっと運の良かった人だけが
望みをかなえるだけさ」
晴一は揺るがない。笑顔のまま、変わらず淡々と突き放す。
何かが、少年の中でぷつりと切れた。
「そんなの──嘘だっ」
忌まわしいものを、穢れたものを振り払うように手を振りかざす。
狂ったように頭を振って否定する。
「ホントだよ。オレ、天使だもん」
「それがホントならっ──この世に救いなんてないっ。ないじゃないかっ」
「そうだよ」
まるで止めのようににっこり笑みを浮かべ、晴一は大きく肯いた。
「嘘だ──嘘だ──嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
ひたすらに頭を振って少年は否定する。
そんなわけがない、そんな非道い事が許されるはずがない。なら、なんの
ために人は生まれてくるのだ。夢も願いも適わず救いもなく、それくらいなら
いっそ何も分からない幼い内に死んでしまえばよかったのに。
気がつけば、その手に大振りの短刀を握っていた。
ぬるり、ぬらぬらと月明かりを照らしてぎらり。
脂を帯びた白刃を腰だめに構える。
「嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ」
うわごとのように繰り返して力を溜める。
白刃より先に、殺意をこめた視線で晴一を刺し貫き抉る。
「おいで。引き受けてあげる」
晴一は、その殺意さえ受け止めるように手を広げた。
ほんの一瞬だけ、凄惨なほど清らかな笑み。
その笑みに少年は僅かにたじろぎ、逃れるように晴一に向かって飛び込む。
夜気を孕み、漆黒の外套がはためいた。
はばたくようにくっきりと浮かぶ、漆黒の羽。
「嘘ダァッ」
ふわり、吹いた風に乗って砂埃が舞い立った。
ゆりかごのように包む、純白の翼。
あるいはゆりかごの繭のように。しかし、それは錯覚だったかもしれない。
「ばいばい」
砂埃が舞い落ちる。
残されて立っているのは晴一ひとり。少年の姿はもうない。
「後味悪いなぁ──」
服に落ちた砂埃を払い落としながら、ため息。
「神様の声が聞こえてたら、きっともっと早く行けたはずなのにね」
心から惜しむように呟いて、踵を返す。
円いまるい月に向かって、坂道を登っていく。重い足をひきずるように。
「あ、そうだ──竜胆のトコ寄ってこ。うん」
不意に足を止めて。
そしてまた歩き出す。今度は、少しだけ軽やかに。
時系列と舞台
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2006年11月の満月の夜。
人気のない坂道で。
解説
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ポルノグラフィティの新盤(m-CABI)が届いたので書いてみたお話。
──その割に元ネタはもっと古いアルバムに収録の歌だったりして。
関連リンク
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語り部IRCログ - #HA06 20061122
http://kataribe.com/IRC/HA06/2006/11/20061122.html#210000
──このお話の元ログ。
Amazon.co.jp - m-CABI / ポルノグラフィティ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J4S5ZY/trpgnet0e-22
──このお話を書いたキッカケ。でも、お話の筋は関係ない。
Amazon.co.jp - PORNO GRAFFITTI BEST BLUE’S / ポルノグラフィティ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000ALMV1K/trpgnet0e-22
──このお話の元ネタである『カルマの坂』が収録されているアルバム。
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